前回の投稿で、予定申告における納税を外出せずに対応する方法を紹介しました。この方法をもう少し深く検討し、会社と会計事務所の関係における課題を考察します。
説明のポイント
- 予定申告の納税。国税は楽だが、地方税は紙ベースの処理になりがち
- 地方税の予定申告は、会計事務所が代行することも一案だが、事務負担を引き受ける課題が生じる
前回のおさらい
前回の投稿で、金融機関の窓口に行かずに、ネットで予定申告(中間申告)の納税を済ませる方法を整理しました。
今回の記事では、「会計事務所と会社の経理担当と視点から、改善をどう考えるか?」という視点で検証します。
「納税方法がわかればいい」という方は、前回の記事だけ読めばOKです。
国税はペイジー採用が無難
国税の予定申告(中間申告)の納税では、納付書にペイジーのコードが記載されているはずです。
筆者も、全国すべての状況を確認したわけではありませんが、東京周辺ではペイジーのコードが印字されていると認識しています。(もしそうじゃない、という事例をご存知でしたら、ご一報いただけると幸いです)
会社でインターネットバンキングを契約しており、かつ、e-Taxで登録した「納税用確認番号」(6桁の数字)を会社が把握していれば、最も効率的な方法と考えられます。
以下、国税の予定申告(中間申告)の納付について、筆者の知識をもとに整理します。
国税の納付方法別 会社と会計事務所の視点
1.納付書ペイジーコード
会社
ペイジーの利用には、金融機関のインターネットバンキング契約が必要(※ATMによるペイジー払いは外出が必要なので検討から除外)。また、e-Taxの「納税用確認番号」が必要になる。「納税用確認番号」は、e-Taxの申請をした担当者(おそらくは会計事務所)が把握している。e-Taxにログインする操作は不要。
会計事務所
インターネットバンキングへのログインが必要なため、代行処理はできない。会社に納税者確認番号の伝達が必要だが、会計事務所では納税用確認番号を代理業務で使う機会はほとんどないため、管理がおろそかになっている可能性もある(→忘れた場合の対応方法)。会社が納税した後、e-Taxのメッセージボックスに完了通知が届く。
2.クレジットカード
会社
「国税クレジットカードお支払サイト」から納付する。クレジットカードがあれば利用可能。法人名義のカードである必要はない。e-Taxは不要。納税の記録は、完了時の画面を印刷をしておく。
会計事務所
代行処理はできない。「国税クレジットカードお支払サイト」を会社が利用した場合、納付したかを会計事務所は把握できないため、会社との情報共有が必須。
3.e-Tax(納付情報登録依頼)
会社
インターネットバンキング、ダイレクト納付、クレジットカード納付のいずれかで対応。登録依頼は「e-Taxソフト(インストール版またはWEB版)」の操作が必要のため、会計事務所にe-TaxのIDを共有を依頼する。電子証明書は不要。
会計事務所
代行処理が可能。ただし、ダイレクト納付の申請が必要。
4.予納ダイレクト
会社
ダイレクト納付を申請すると利用できる。利用方法は「e-Taxソフト(WEB版)」にログインする。予納も必須なため、中間納付だけを単独で利用できない。(※申告期限の延長申請をしている場合の予納は、上記3の「納付情報登録依頼」を利用するため、予納ダイレクトとは異なる)
会計事務所
代行処理でも、ダイレクト納付の申請が必要。利用方法は「e-Taxソフト(WEB版)」を利用する。ベンダー製ソフトにはない、WEB版だけの独自機能と思われる。
5.e-Tax(予定申告書)
会社
インターネットバンキング、ダイレクト納付、クレジットカード納付のいずれかで納税。納税する前に「e-Taxソフト」(インストール版)で申告書を送信する。納付書添付の予定申告書を書き写せばいいため、難易度は低いものの、送信には電子証明書が必要。
会計事務所
代行処理する場合は、ダイレクト納付の申請が必要。
地方税の予定申告書をどうするか?
国税に比べると、地方税で予定申告の納税をネットでするのは、やはり厳しい状況です。
スポンサーリンク
2019年10月以降、「地方税共通納税システム」が稼働しても、この状況はさほど変わっていません。
地方税共通納税システムは稼働したが……
「地方税共通納税システム」が稼働しても、予定申告をネットで納税するためには、eLTAXで予定申告書を送信します。
つまり、なんとかしてでもeLTAXで予定申告書を提出しないと、電子納税にたどり着くことができません。
全国の都道府県、市町村で電子納税に対応したのは素晴らしいのですが、eLTAXで予定申告書を送信することとは別の問題です。
国税の電子納税は、紙の申告書を提出しても、e-Taxで納付情報登録依頼を利用すれば、電子納税は可能です。
これに比べ、地方税の電子納税は、eLTAXで電子申告をした場合にのみ可能です。紙の申告書を提出した場合、見込み納付を除き、eLTAXでの電子納税はできません。(参考:書面により申告書を提出した場合でも、eLTAXを利用して納税できますか。(eLTAX))
地方税は予定申告書の作成が難しい
なんとかして、地方税の予定申告書をeLTAXで送信する必要があります。
しかし、会社において、e-Taxの操作(源泉所得税の納付)は習熟していても、eLTAXの操作は不慣れということも多いでしょう。
とくに、予定申告書を記入して提出するというのは、会社の経理にとっては大きな負担です。
紙の場合、地方税の予定申告書や納付書は、すべて空欄となっているものが郵送されてくることもあります。
中間申告については、前期納税額の半額である「予定申告」ではなく、仮決算に基づく「中間申告」を採用する可能性もあるため、こうした空欄の申告書が発送されるしくみであると考えられます。
なお、記入済みのプレ申告データがeLTAXのメッセージボックスに届いていれば、数字の転記は不要ですので、申告書の記入に関する知識は不要といえます。
しかし、会社で予定申告書を電子申告するには、会社において電子証明書を用意する必要があります。これは会社での作業が困難な一因といえます。
会計事務所のジレンマ
会社はeLTAXの操作に慣れていないことがほとんどであるため、地方税の予定申告を電子納税するという課題を解決するには、会計事務所の助力が現実的な方策といえます。
先ほども述べたとおり、地方税で電子納税を実現するためには、予定申告書をeLTAXで送信する作業が必要です。
ところが、会計事務所の一般的な認識としては、「予定申告書は、べつに提出しなくてもかまわない申告」です。提出しなくても、提出したとみなされる扱いのためです。
電子納税のために、わざわざ提出しなくていいものを提出をすることに意味があるのか? が問われることになります。
つまり、会社の経理負担を減らそうとすれば、その一方で、会計事務所の業務負担が増えるというジレンマに陥るわけです。
よほど電子納税にこだわりのある事務所でなければ、通常は、「紙の納付書で納付してください」という、今までどおりの対応となることは必定でしょう。
また、各地に支店があるほど、地方税の納付先も増えるわけですが、こうした対応をどうするのか。会社と会計事務所における事務負担を、よく検討する必要がありそうです。
もし会計事務所が代理で電子納税をすることで、会社の事務負担を削減できる見通しがあれば、その代行作業として報酬を請求することも一案といえます。
まとめ
国税と地方税の予定申告の納税について、方法別に対応を検証してみました。
話を整理すると、電子納税で処理するのであれば、「国税は会社がペイジーで電子納税」「地方税はダイレクト納付で会計事務所が代理」というのがスムーズな方法といえそうです。
しかし、追加報酬なしに、「予定申告書の電子申告+ダイレクト納付の代行」という、事務負担の増加を喜ぶ会計事務所はいないでしょう。
そうなると、「地方税は紙の納付書で窓口へ」というパターンは、今後も変わらない可能性が高いです。
eLTAXの納付情報において、予定申告の納付情報(前期納税額の半額)をあらかじめ登録しておいてくれればいいのですが、あくまで予定申告書の提出が前提のようです。

このブログの執筆者。実務家の目線から、普段語られることの少ない「電子申告」「電子納税」「クラウド会計」などをテーマにまとめています。事務所は赤羽駅前にあります。30~40代を中心に起業された方のご相談をお受けしています。