消費税の「たまたま土地の譲渡」にまつわる話を書いてみます。
ネットではすでに、税理士の提出体験談や概要の説明も見られますので、ちょっと違う切り口の内容です。
取扱いはどこにある?
「たまたま土地の譲渡」について検索すると、国税庁の質疑応答事例「たまたま土地の譲渡があった場合の課税売上割合に準ずる割合の承認」が見つかります。
なるほど、これが取扱いの内容か……と思ったのですが、TAINSで調べた「たまたま土地の譲渡」について触れた裁決事例(熊裁(諸)平30-4、F0-5-260)を読むと、その事例では
国税庁消費税室が作成した「―平成23年6月の消費税法の一部改正関係―「95%ルール」の適用要件の見直しを踏まえた仕入控除税額の計算方法等に関するQ&A〔Ⅰ〕【基本的な考え方編】」は・・・課税売上割合に準ずる割合の承認を与えることとして差し支えないとしている(以下、この取扱いを「本件取扱い」という。)。
というように、別の国税庁の作成資料を参照しており、先ほどの質疑応答事例は参照していません。
この資料は「-平成 23 年6月の消費税法の一部改正関係-「95%ルール」の適用要件の見直しを踏まえた仕入控除税額の計算方法等に関するQ&A〔Ⅰ〕【基本的な考え方編】 」というもので、このQ&Aの問30と問31に「たまたま土地の譲渡」の内容が触れられています。
この問30を読むとわかりますが、内容は質疑応答事例とおおむね同じです。加えて、問31で「たまたま土地の譲渡」の詳しい考え方がわかるので、質疑応答事例よりもこちらのQ&Aのほうが具体的な説明のように思われます。
ネットの解説記事では、質疑応答事例を参照していることが多いようです。なお、「税務通信」を読むと、3512号(2018年6月)の対談記事、3668号(2021年8月)の解説記事はいずれも消費税に詳しい先生によるものですが、いずれもQ&Aを参照されていました。
TAINSでわかる情報では
ちなみに先ほど言及した裁決事例(熊裁(諸)平30-4、F0-5-260)は、「たまたま土地の譲渡」の承認申請が却下されたことについて、そもそも借地権の譲渡がないという判断なので、「たまたま土地の譲渡」の可否について参考になりそうな話ではありませんでした。
このほか「たまたま土地の譲渡」の可否について争われた事例をTAINSで探したのですが、筆者が探した限りでは見つかりませんでした。
これ以外に気になるのは、南九州税理士会税務相談室提供「消費事例南九州会140058」の相談事例で最後に言及されている
(注)「課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」の提出を失念した事例は、税理士損害賠償請求頻出事例となっている。
という指摘でしょうか。
質疑応答事例を読むと、提出期限は「課税期間の末日までに承認申請書を提出し」とあります。
承認審査には一定の期間が必要となりますので、時間的余裕をもって「消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を提出してください。
なお、適用を受けようとする課税期間の末日までに承認申請書を提出し、同日の翌日以後1月を経過する日までに納税地の所轄税務署長の承認を受けた場合、当該承認申請書を提出した日の属する課税期間から適用されます。
申告期限が近づいてから、承認申請書の提出もれに気づくことが多いのかもしれません。「たまたま忘れただけ」という言い訳が通じないので、考えただけでも寒気がします。
課税売上割合の高低差5%以内
質疑応答事例では、この承認申請が認められる場合は次のとおりとされています。
1 土地の譲渡がなかったとした場合に、事業の実態に変動がないと認められる場合とは、事業者の営業の実態に変動がなく、かつ、過去3年間で最も高い課税売上割合と最も低い課税売上割合の差が5%以内である場合とします。
そこそこの課税売上割合の変動がある業種だと、この高低差5%の条件を満たせない可能性があります。
5%程度の変動が普通にある業種では、土地の譲渡タイミングのアドバイスにも影響する可能性がありそうです。土地の譲渡について、そこから過去3年の課税売上割合をすぐに意識できるものか……調整対象固定資産ならともかく、これはなかなかハードです。
「たまたま」だから危ない
「たまたま土地の譲渡」について調べて気になったことを整理しました。
この話は、勤務時代にお世話になった先輩と会食したときに「たまたま土地の譲渡」の取扱いの話があったので、筆者も気になって自分で調べたことを整理してみたものです。
「たまたま土地の譲渡」は、たまたま出現するからこそ、不慣れで危ない取扱いのように思われます。

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