なぜ、「税」を「ちから」と読むのか?

ちからー税

以前から気になっていた疑問。なぜ「税」という文字を「ちから」と読むのか。その理由について、きちんと調べてみました。

説明のポイント

  • 白川静博士の説「力役(りきえき)の結果として得るものであるから」
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「税」という文字 なんて読む?

「税」という文字を見せられたら、なんと読むでしょうか? ……おそらく99%のひとが、「ゼイ」と読むのではないでしょうか。

しかし、この「税」という文字には、「ちから」という読み方があります。

「忠臣蔵」を知っている人なら、「主税」を「ちから」と読むことはよくご存知でしょう。

この「主税」を「ちから」と読む理由は、ネットでもよく見られるものの、「税」を「ちから」と読む理由を調べたものは、なぜかまったく見当たりません。

もし記載があったとしても、その資料の出典を示しておらず、信頼度としては低いものでした。

そこで、当ブログがきちんと調べておきました。

「税」を「ちから」と読む理由

このような文字の由来を調べるときに、多くの人が参照する定番は、白川静博士の辞書になるでしょう。

『新訂 字訓 [普及版]』(2007年)によれば、次のように書かれています。

ちから【力・税(稅)】

体力。ものを扱うときの肉体的な力をいう。また気力・能力など、すべて働きの根源にあるものを意味する。松岡静雄説に「靈莖(ちから)」の意で、稲のことであるというが、「から」は「うから」の「から」と同義で、幹(から)の意であろう。「ちから」はまた農作物による納税の意に用いられる。力役(りきえき)の結果として得るものであるから、税(ちから)という。

税(ぜい)はもとの字は稅に作り……(中略)……米穀を租として納めることをいう。税(ちから)はその収穫を租税とする意である。farmerはもと一定額の年貢請負人の意で、farmはもと借地。農耕と税とは、はじめから分離しがたいものであった。

白川静博士の見解では、「力役」が由来になっているとのことです。

ただ、これだけでは、その「力役」が田を耕す労働力なのか、それとも国家に直接奉仕する労働力なのか、博士の意図ははっきりとは不明でした。(おそらくは、田畑を耕す労働力の意図でしょう)

この見解と似ているのかは不明ですが、次のような資料もあります。

それは、「民の力」の意から、税を「ちから」と読むようになったというものです。(「古語大辞典」「古語林」)

この「民の力」を、そのまま白川説の「力役」と同等に解釈していいのかはよくわかりません。

また、辞典「古語林」によれば、税(ちから)は、大化の改新(645年)以前、人民が朝廷におさめた稲の束を指すとしています。

「ちから」という言葉の経緯

「ちから」という言葉は、突然にうまれたわけではなく、もともと日本語として古来から存在する言葉だったと考えられるでしょう。

その後、漢字が輸入されたことで、「ちから」を漢字の読みに当てはめたものが、万葉集に見られるようです。

出(い)で立ちむ知加良(ちから)を無(な)みと隠(こも)り居(い)て君に思ふるに心どもなし [万3972]

この「知加良」は、「力」を指しています。このうた、意味を調べてみると、大伴家持の作であり、恋に苦しんでいるうたのようです。(参考「竹取翁と万葉集のお勉強」より)

また、大化の改新を起こした中大兄皇子=天智天皇の時代(在位668~672年)になると、次の表記が見られます。

是の冬に、高安城(たかやすのき)を修(つく)りて、畿内(うちつくに)の田税(たちから)を収む。時に斑鳩寺(いかるがでら)に災(ひつ)けり。 [天智紀8年]

「田税」(たちから)という言葉が見られ、「税」を「ちから」と読んでいます。

これらの経緯をまとめると、次のように表すことができるでしょうか。ちなみに「万葉がな」のように、音に文字をあてはめたものを「仮借(かしゃ)」というそうです。

税をちからと読むまでの経緯

ブログ筆者が感じたこと

これ以降は、ブログ筆者が感じたことです。

調べた中で浮かんだ疑問は、「力役」を「税」と考えるようになったのは、いつのことなのか? ということです。

以前のブログ記事で紹介しましたが、邪馬台国の卑弥呼の時代(紀元3世紀頃)には、すでに稲作で納税する国家システムが成立していたらしい、ということが推測されます。

国家を維持するうえで税は必要なものです。その税の起源は、神道にみられる「初穂料」(はつほりょ...

「力」=「税」と考えると、強制的な労働力を強いられて、建造物の建設や兵役を務めたかのようなイメージが湧いてきます。

しかし、これらの意味を調べたかぎりですと、日本においては稲作の伝来とともに徴税のシステムができあった結果、「ちから」=「力」が、「税」と同一視されるようになったという印象を持ちました。

日本語において、「力」と「税」が同じ読みを持っているという事実。古代国家のあり方に想いをはせるしかありません。

まとめ

「税」を「ちから」と読む理由について、きちんと調べました。

白川静博士の説によれば、「力役」の結果として得るものだから、「税」を「ちから」と読むようになったとのこと。

ちなみに私の職業は「税理士」ですが、この3文字には、「税」(ちから)、「士」(さむらい)という言葉が含まれています。

こうしてみると、ものものしい職業のように感じました。相撲取りは「力士」といいますが、なんだか親近感がわいてきますね。

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