うちの町は住民税が高い? その誤解の謎を解く

はてな

ちまたにあふれる税金の誤解。そのなかでもよく見かける個人住民税の誤解について、謎をとくコラムです。

説明のポイント

  • 個人住民税は、日本全国どこに住んでも税率は同じ
  • だから、「うちの町は住民税が高い」というのは誤解
  • もしかしたら、ほかの負担コストを「住民税」と誤解している可能性もある
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個人住民税は、どこに住んでも同じ税率

結論から申し上げますと、個人にかかる住民税は、全国どこでも税率は同じです。

だから、ちまたでたまに見かける

うちの町は住民税が高すぎる!(憤怒)

というようなことはありませんし、それはたぶん誤解でしょう。

証拠はここにある

「マジかよ!」と驚くあなたに向けて、きちんとした証拠をお見せします。

ここの総務省のページを開いてください。ご覧いただくと、個人住民税について説明されていることがわかります。

その説明のうち「所得割」の税率を確認します。所得割とは、給与収入などの「所得」にかかる税金をいいます。

これを見れば、税率は「一律10%」と書いてあります。

税率が「一律」なので、全国で同じ税率ということです。

だから、「うちの町は税金が高い!」とか「引越ししたら税金がとんでもなく跳ね上がった!」ということは、ありません。

税率が同じなのだから、どこに住んでいようと、住民税も同じになるわけです。

それでも信じられないひとは、地方税法という税金に関する法律を見てください。35条、314条の3に、それぞれ個人住民税の所得割の税率が書いてあります。このほか、自治体の質問コーナーにも同種のQ&Aが見受けられ、その質問の多さがうかがえます(例:神奈川県箱根町山梨県西桂町)。

なんでそんな誤解が生まれるのか?

誤解が解けたなら、ここで記事は終わってもいいところです。

そこをあえて、もう少し論考をすすめると、興味深いのは「なんでそんな誤解が生まれるのか?」という点です。

いくつか考えられる理由を挙げてみましょう。

1.国民健康保険料と勘違いしている

一番ありがちなのは、同じ自治体から納付書が送られてくる「国民健康保険料」(国民健康保険税ともいう)と勘違いしている可能性です。

国民健康保険料は、自営業や無職のひとが支払うものです。サラリーマンやその扶養家族は別の制度に加入していますので、支払うことはありません。

この国民健康保険料は、自治体ごとに保険料の計算方法が違っています。先ほど述べた個人住民税とはしくみが違うのです。

一例として、東京都北区と、埼玉県さいたま市を見てみましょう。

【東京都北区】

【埼玉県さいたま市】

比較してみると、「医療分」「支援金分」「介護分」の区分は同じですが、所得割の料率や、均等割、負担の限度額もまばらとなっています。

興味のある人は「国民健康保険料 ランキング」で検索するとよいかもしれません。(ただし、ランキングサイトの数字があっているかの保証はできません)

話を整理すると、

  • 自治体から納付を求められる国民健康保険料と個人住民税をいっしょに考えてしまう
  • 他の街と保険料を比較してみて、わが町の負担が重いかもしれない

と感じる可能性は、ありえるわけです。

繰り返しになりますが、誤解しがちな「住民税」とは、国民健康保険料を含んだものかもしれません。

事実として、自治体から送られてくる納付書は、どれも似たような雰囲気です。社会保険や税金にくわしくないひとが見れば、どれも同じに見えてしまうことでしょう。

2.確かに少し住民税の高い地域はある

ここまでの記述では、「個人住民税の税率は絶対に同じ」という表現を、あえて避けてきました。その理由をお伝えする必要があります。

それは、住民税の税率が違っている自治体があるという事情があるからです。……もしかして、ちゃぶ台返しのように感じられたでしょうか?

論より証拠ですので、税率が違う自治体の一例を挙げてみます。

  • 兵庫県豊岡市 …… 市民税6.1%+県民税4.0% (市民税の税率が0.1%高い)
  • 愛知県名古屋市 …… 市民税7.7%+県民税2.0% (市民税の税率が0.3%低い。政令指定都市は税率配分が異なることに留意)

豊岡市は、都市計画税(不動産にかかる税金)を廃止し、その代替の財源として市民税の税率を引き上げているとのことです。名古屋市は、「減税」で有名な河村たかし市長ですので、その政策の一環です。

所得割の税率ではなく、すべての納税者に均一にかかる「均等割」を上乗せしている自治体もあります。

話を整理すると、標準の税率から変更している自治体があっても、その差は±0.1%~0.3%程度です。

この程度では、「うちの町は税金が高い!(憤怒)」という結果を招くことはないでしょう。なぜなら、課税所得100万円あたりで税率0.1%増えると、住民税1,000円の増税という程度だからです。

住民税についての誤解が生まれる理由としては、どうも弱いように感じます。

3.退職して普通徴収になった

退職と同時に無職になった場合を考えてみましょう。

サラリーマンのときは、その住民税は12ヶ月で分割して差し引かれています(特別徴収)。しかし、退職して無職になると、この住民税は12分割ではなく、ある程度の期間がまとまって納付書として送られてくることがあります(普通徴収)。

会社で住民税を差し引かれているときは、その負担感はほとんど感じないでしょう。なぜなら、自分の銀行口座に振り込まれる金額は、すべてが差し引かれたあとの金額だからです。

これに比べて、自分で納税する場合は、その重みが心理的に違います。

もともと、1年を通じて納税する額は同じなのですが、もし退職後にまとまった金額の納付書が送られてきた場合では、心理的に「税金が高くなった?」という印象を受けやすいのではないでしょうか。

退職して次の勤務先をこれから探すのであれば、その負担感はなおさらでしょう。

解決編

上記1と上記3のあわせ技で考えてみましょう。

サラリーマンが退職して無職や個人事業主になると、国民健康保険料や住民税を自分で納付することになります。このため、

  • 退職後に「国民健康保険料」+「住民税」を自分で納付することになった
  • 毎月給与から支払っていた金額とどうも違うっぽい
  • うわっ……うちの町、税金高すぎ?

という誤解につながりやすいかもしれません。

ただし、退職経験もなく、国民健康保険料を納めたことがないサラリーマンであっても、「うちの町は税金が高い!(憤怒)」と誤解しているケースもあります。

よって、この考え方ですべての謎が解けたといえるのかは疑問です。

比較した他人と同じぐらいの年収であっても、子供の人数など家庭環境によっても課税額は異なります。こうした原因の可能性もあるかもしれません。

これ以外に考えられる原因としては、水道料金など自治体によって異なるコストの負担感から「住民税」という認識に転じてくるもの、という可能性もありえます。

さらに大胆な考え方を提示すれば、これは負担コストから来るものではなく、自治体間における保育や医療等のサービスの違いから、「うちの町は支援が少ない」→「住民税が高い」という考え方に転化している可能性も考えられるでしょう。

まとめ

「うちの町は住民税が高い!(憤怒)」の謎を解くコラムでした。

話をまとめると、次のようになります。

  • 個人住民税は、日本全国どこに住んでも税率は同じ
  • だから、「うちの町は住民税が高い」というのは誤解
  • もしかしたら、ほかの負担コストを「住民税」と誤解している可能性もある

誤解のあまり、憤怒の河を渡ってしまった人も、その誤解をといていただけたら幸いです。

ブログや本を読んでいると、「うちの町は住民税が高いから」「田舎に引っ越すと住民税が高くなる」という主張をたまに見かけます。税金に関する誤解として、よくありがちということを感じたので、この記事を書きました。

もしちょっと理屈っぽいとお感じになりましたら、恐れ入ります。

【補論】所得税と住民税はどう違うのか?

初心者向けに、知識をプラスワンする補足です。

個人にかかる税金はいろいろありますが、収入(所得)にかかる税金の代表的なものは、「所得税」と「住民税」です。

所得税

「所得税」は、国におさめる税金です(国税といいます)。ほとんどのひとは、給料から自動的に差っ引かれているので、負担を感じることは少ないです。差っ引かれた所得税は「源泉税」「源泉所得税」などとも呼ばれますが、同じ意味です。

年末調整や確定申告というのも、この所得税に関係するものです。個人事業主は、確定申告をして、この所得税も自分で納めます。税率は所得が多いほど税率が上がる方式となっています(累進課税)。税率の変化する点は住民税と異なっていますが、全国どこに住んでも適用される税率は同じです。

住民税

「住民税」は、自分が住んでいる自治体(都道府県と市町村)に納める税金で、地方自治体に納めるので地方税という区分になります。

ほとんどのひとは、年末調整か確定申告によって所得税が決まり、これに連動して住民税も決定します。これは会社や税務署が、自治体に所得情報を伝達しているためです。

サラリーマンの場合は、給料から住民税を差っ引かれるシステム(特別徴収=会社が納付を代行している)ですが、個人事業主の場合は、納付書が送付されてきて自分で納付するシステム(普通徴収)となっています。

くどいようですが、税率は一律で10%です。住んでいる場所や所得の多さは、税率には影響しません。

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