税務の視点から見た「行政手続の簡素化」のゆくえ

政府が掲げている「デジタル・ファースト」「デジタル・ガバメント」による、行政手続き簡素化の流れを整理し、税務への影響も確認します。

説明のポイント

  • 年末調整に関する手続きの簡便化が見込まれる(2020年10月)
  • 社会保険・労務では「ID・パスワード方式」が導入される(2020年4月)ほか、補助金申請もID・パスワードによる申請が開始される(2020年4月)
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手続きの簡素化のゆくえ

2018年2月に当ブログでアップした記事を振り返ると、「法人共通認証基盤」というものが構築される話をお伝えしたものがありました。

日経が先日報じた、税と社会保険の手続きにおいて電子署名を不要とする、という報道は驚きでした。インパク...

その後については、このブログでとくに触れていませんでした。

話の進展を整理すると、税務の分野では、この基盤の構築について直接影響を受けることはありませんでした。

そうだとしても、税務以外だから知らなくてもいい、というつもりは毛頭ありません。そこで、2019年初の現在でわかっている内容を、税務とその周辺分野もあわせて整理しておきます。

従業員からのデータ受取

日本は「年末調整」という制度を導入しており、税に関する処理を税務署ではなく、勤務先(会社)が担当します。その業務負担は決して軽いものではなく、そのコストもすべて会社が負担しています。

その年末調整について、業務の負担軽減が見込まれています。

現時点では、年末調整において書面をいっさい使わずに完全電子化で処理できている事例は、ほぼ皆無でしょう。

扶養控除等申告書などの作成・保管は、税務署の承認を条件に書面を不要とする処理も可能(参考)ですが、保険料控除証明書の受取・保管は、どうやっても書面になってしまうからです。

これらのように、どうしても書面処理にかたよりがちな年末調整をオンライン化するため、2020年10月において「年末調整控除申告書作成システム」の導入が予定されています。

参考内閣府「第17回税制調査会」資料より

このシステムが導入されれば、年末調整における「従業員-会社-行政(税務署・市区町村)」の3者のうち、前半の「従業員-会社」の手続きがオンライン化されます。

税務署・市区町村へのデータ提出

次にネックになっているのが、その先の会社から税務署・市区町村へのデータ提出です。

電子証明書の取得やコスト負担が影響し、会社自身の手で従業員に関する源泉徴収票(給与支払報告書)を税務署、市区町村にオンライン(eLTAX)で提出している事例はまだまだ少ないでしょう。

オンライン化が進んでいない理由は、大声ではいいづらい事情もありそうです。

給与計算や年末調整の業務は、税理士と社会保険労務士のあいだの「エアポケット」ともいえる部分であり、利害関係が複雑です。給与計算を担うことが多い社労士も、年末調整は税務に位置づけられることから代行できません。

 

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また、給与計算は自社でやっているが電子証明書を取得していない会社は、eLTAXで給与支払報告書を送信できません。よって、データ送信のみを税理士に依頼するか、または給与支払報告書を書面印刷して提出しています。

これらのような複雑な問題をどう解決するのか注目されていましたが、従業員の情報をすべてクラウドにアップするという、おもいきった方法が検討されています。

参考内閣官房「企業が行う従業員の社会保険・税手続のオンライン・ワンストップ化等の推進に係る課題の中間整理」2018年10月

平成30年度中にロードマップを策定するとのことですので、今後新たな情報が出てくることでしょう。

[周辺分野] 法人共通認証基盤、社会保険のID・パスワード方式

補助金申請および社会保険の分野では、税務とは違った動きが見られます。

経済産業省が主導する法人共通認証基盤は、「gBiz」という名称で、ひとつのID・パスワードで様々な手続きができる認証方式の導入を目指しています。

具体的には、補助金申請ポータル「jGrants」への利用を見込んでいるようです。

参考経済産業省「法⼈共通認証基盤の構築状況等について」2018年11月

参考経済産業省資料、2018年11月

また、社会保険の分野では、マイナポータルにひもづくかたちで「ID・パスワード方式」の導入を目指しています。

以下の資料がまとまっていて詳しいです。

参考内閣官房「「第6回中小企業・小規模事業者の長時間労働是正・生産性向上と人材確保に関するワーキンググループ」2018年12月

ID・パスワードが乱立?

これらを見たところ、税務と、他の分野でのID・パスワードの共通化(シングルサインオン)は見込まれていないようです。

税務ではe-Tax、eLTAXでそれぞれにID・パスワードが存在しており、申請時における電子証明書も必須とされています。

無理にすべてのIDを一本化させるよりも、これはこれとして、あとは民間分野のクラウドソフトで対応させればいいという方向性も感じられます。

まとめ

税務に関係する手続きのオンライン化と、その周辺である行政手続きの簡素化をまとめてみました。

税務としては、「ID(利用者識別番号)・パスワード・電子証明書」の3点セットが必要な方式は堅持するようですが、マイナポータルを基軸とする方向性は他の省庁と同じようにも見受けられます。

周辺分野の動向を見渡せば、やはり複数の「ID・パスワード」が並行しつつある印象もあります。

状況を整理した筆者としても頭が痛くなるような状況ですが、これらがうまくまとまって使いやすくなるのを期待したいところです。