国税庁ホームページに掲載されている情報は、実務の参考にされています。しかし、こうした掲載情報について、国税庁の扱い方は気になる点も見られます。この点を指摘します。
長くなるため、2回に分けての掲載とします。
説明のポイント
- 国税庁ホームページは、実務の重要なハブとなっている。
- 情報更新により手軽に情報を得られるが、過去の更新履歴を参照できないという問題点を抱えており、実務への支障を懸念している。
国税庁ホームページの位置づけとその価値
税務に関わる人で、国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/)を知らない人は、いないでしょう。
国税庁からの情報の第一報も、ホームページで掲載されることは当然となっており、実務における重要性は極めて高いです。
国税庁ホームページの歴史を振り返ると、「納税者への情報提供」「情報提供の中核的な広報媒体として、税に関する知識の普及と向上」という目的のもとに、平成10年(1998年)に開設されたとのことです。(国税庁「最近 10 年間の動き」2009年)
ここで引用した国税庁の文章は、いまから10年前の2009年に執筆されたものですが、それからさらに10年が経過しています。
こんにち、国税庁ホームページの重要性はさらに高まっているものと考えてよいでしょう。
実務における国税庁ホームページの位置づけ
例えば、税務に関する様式が欲しい場合、かつては税務署に駆け込んで、紙資料を請求していました。
しかし現在では、ホームページ上で同様のものが公開されており、税務署に「何かを取りに行く」という機会はなくなりました。
国税庁ホームページは、実務の「ハブ」を果たす重要な拠点であり、全国各地に存在する税務署の「フロント」の役目を果たしているともいえます。
「ホームページ」という形式が抱える問題点
ここまでホームページの重要性を述べたのは、「実務におけるインフラとして、本当に重要性が認識されているか?」という点が気になっているからです。
とくに気になるのは、「ホームページ」という形式であるがゆえの問題点です。
ホームページは紙媒体ではない、電子媒体です。紙媒体の場合は、一度表に出ると、その実物(紙)は記録に残ります。
しかし、電子媒体の場合は、その情報記録は国税庁ホームページのあるサーバーにあるため、その情報が差し替えられると、「元の記録は残らない」という問題があります。
これは、最新情報を発信できるがゆえの手軽さとトレードオフの関係です。過去の記録を参照しづらいという弱点を抱えており、実務に支障をもたらす懸念もあるといえます。
その理由を以下に指摘します。
なぜ、過去の記録が重要なのか?
筆者がなぜ過去の記録にこだわるのかといえば、税務の実務は「7年間の記録を残す」ということが基準とされているからです。
申告が終わればそれで終了というわけではなく、そのあとには税務調査の可能性もあります。
国税庁ホームページが実務に関わる以上は、過去7年間の記録を参照できなければ、実務の支障が生ずる可能性も当然にあるわけです。
「あの情報はどこへ行った?」問題
事実として、このような問題はすでに生じています。
一例として知られているのが、「ホームページの制作費用」についてです。この取扱いについては、過去に掲載されていた情報が、いまは見られなくなっています。
その点についても、国税庁からは一切の告知はなされていません。
過去に掲載されていた情報については、他の税理士事務所のホームページにそれを転載したものがありますが、公式情報ではないことから改変の可能性もありますし、いつまで掲載しつづけているかもわかりません。
このように、「あれ、あの情報はどこへ行った?」という問題があるわけです。
国税庁としては、「あれは、あのときそう考えていたけれど、やっぱり今になってみたら時代にあわなくなったので、情報は変えたわ」という言い分なのかもしれません。
そうだとしても、過去に掲載された情報は、少なくとも7年間は参照できなければ、納税者としては困ってしまいます。
過去のアーカイブは、外部サービスに依存するしかない?
そうなると、納税者側としても、過去のアーカイブをなんとか参照する必要が生じます。
有名な国外のホームページアーカイブサービスを利用するにしても、国税庁ホームページではリニューアルでURLを一斉変更しており、現在と過去のURLは一致しませんから、アーカイブを探すのも一苦労です。
直近では、2018年にURL変更を実施したほかに、およそ10年くらい前にも、URLを変更していた記憶があります。(うろ覚えですが)
そもそも、情報発信のアーカイブを外部サービスに依存するのも問題ですし、URLの変更も実施されるので、過去の情報を参照することは一筋縄ではありません。
となると、もはや実務としては、国税庁ホームページの掲載情報は「いつの間にか消える可能性のあるもの」という影におびえるしかありません。
そして、そうなったときのために「とにかく参照した取扱いは、PDFにしておく」という対処をとらざるをえません。
このように「いつの間にか消える問題」とは、国税庁ホームページの信頼性、という根本的な点につながるわけです。
「重要な情報」じゃないから差し替えていいのか?
国税庁が発信する情報は、国税庁内部での実務の基準となる「法令解釈通達」以外にも、「その他法令解釈に関する情報」「文書回答事例」もありますし、ホームページで読むことができる「質疑応答事例」「タックスアンサー」もあります。
これらのうち、「質疑応答事例」や「タックスアンサー」の位置づけについて考えてみると、国税庁としては、あくまで取扱いの参考事例だし、専門家向けじゃないよ、という言い分なのかもしれません。
しかし、税理士のような専門家であっても、タックスアンサーや質疑応答事例を「参考」として論文の注釈に掲載することもあります。
それは、ここにしか載っていない情報があるからです。
もし国税庁が「サービスで発信している簡易な情報だから、べつにオレたちの都合で勝手に差し替えたっていいんだ」という言い分ならば、国税庁の信頼性そのものが問われることになるでしょう。
ここまでのまとめ
国税庁ホームページは、実務の重要なインフラですが、それに比して重要性が正しく認識されていない可能性がある点に着目し、問題点を指摘しています。
過去に掲載されていた情報が「いつの間にか消える問題」は、国税庁ホームページの信頼性につながる話といえます。
ある意味では、行政の運営にも関わる問題といえますが、これが国税庁においてとくに先鋭化するのは、国税庁が「カネ」というシビアな問題を扱う当局であるためでしょう。
記事が長くなるため、続きは次の更新で述べることにします。