税理士たちが、税金の制度を変えた方がいいと思う事例を紹介します。税務の現場で強く要望されている改正は、政府が力を入れる方向性と温度差があるように感じられます。
説明のポイント
- 理想の税制に向けて税理士も意見を出している
- 重要な改正要望は6項目。
- 現場で不都合が生じている税制に、政府の関心は薄い?
税理士の役目と税法
税理士はご存じのとおり、税金の専門家です。税のことを一番よくわかっている職業であり、税務の最前線に立つ職業でもあります。その税理士の存在を定めた法律に「税理士法」というものがあります。
ハッキリいって税理士以外は一生読むことがなさそうな法律なのですが、税理士にとっては大事な法律です。
税理士法には、次のように書かれています。
(建議等) 第四十九条の十一 税理士会は、税務行政その他租税又は税理士に関する制度について、権限のある官公署に建議し、又はその諮問に答申することができる。
(税理士法より)
税理士は、仕事として税金に関する法律(税法)を扱っていますが、その仕事を通して、税法の不具合や問題点を見つけることがあります。
税理士の集まりである税理士会は、このような不具合や問題点を修正するように、政府や官庁に対して要望を出しています。
税理士の意見書
私の所属する東京税理士会においても、「平成29年度税制及び税務行政の改正に関する意見書」が今年(2016年)3月にまとめられました。
よくまとまっている意見書ですが、税理士以外には知られていないのが残念です。
そこで、税理士が「こんな風に税の仕組みを変えたらいかがでしょう?」と提案していることをこのブログでも広報しておきます。
意見書の内容とは?
意見書の内容をいくつか紹介しましょう。
丁寧に説明しても、税法に興味のある人だけが起きていて、それ以外の人は眠くなりそうな話なので、簡単に説明します。
重要な改正要望
重要な改正要望の項目は、6つあります。
難しい言葉が並んでいてブラウザの「×」マークを思わずクリックしそうですが、そこをグッとこらえてお読みください。
- (所得税) 公的年金等控除の見直し
- (所得税) 所得控除全体の見直し、人的控除は税額控除制度へ移行
- (法人税) 役員給与の損金不算入規定の見直し
- (消費税) 基準期間等による納税義務免除の制度を廃止して、申告不要制度を創設
- (消費税) 簡易課税制度の適用事業者が高額な設備を導入した場合は、原則計算への変更を認める
- (地方税) 外形標準課税は中小企業へ導入しない
1.(所得税) 公的年金等控除の見直し
年金を得ながら働く人が増えているため、「給与所得控除」と「公的年金等控除」の二重取りになるケースが増えています。給与は「給与所得」で計算され、年金は「雑所得」で計算されているためです。
これだと世代間の不公平が発生するので、働きつつ年金を受給している人の税計算は、「年金+給与」によって控除額を計算するように変更しましょう。
2.(所得税) 所得控除全体の見直し、人的控除は税額控除制度へ移行
所得税の計算方法(所得から所得控除を差し引いて税率を掛ける)だと、高収入で税率の高い人ほど所得控除について得することになります。
しかし、税率の高い・低いことによって、控除額が変動する意味は、あまりありません。必要な人に必要な分だけ、税金の減額が届くようにするほうが公平な政策といえます。
このため、所得控除ではなく、税金そのものを減額する(税額控除)方式に変更すれば公平性がより保たれます。また、税負担のない低所得層には、税額控除により還付金が出るようにすれば、生活の援助にもなるでしょう。
3.(法人税) 役員給与の損金不算入規定の見直し
法人税法の条文では、役員に払う給与は原則として損金(経費)にならない。しかし、条件を満たせば損金になるよ、という法律構成です。
そもそも、役員の給与が損金にならないって何だよ!(怒) あまりにも失礼すぎだろう、という話です。また、条文解釈にも無理が生じるわけです。
もっと当たり前の法律にして、役員の給与も通常は損金になるが、ルール違反の場合は損金にできないように変更すべきでしょう。
4.(消費税) 基準期間等による納税義務免除の制度を廃止して、申告不要制度を創設
消費税の課税・免税の判定は、2期前(基準期間)の課税売上高を見て、1,000万円を超えていれば、消費税の納税義務があります。
しかし、この判定の仕組みには結構無理があります。抜け穴探しが行われてきた歴史があったり、現場のトラブルでは、届出書の有無で免税事業者が還付を受けられない不都合も生じています。
もうこんな複雑なしくみはやめましょう、ということです。当期の課税売上高をもって判定して、申告の要不要を決める制度にすれば効率がいいわけです。
5.(消費税) 簡易課税制度の適用事業者が高額な設備を導入した場合は、原則計算への変更を認める
消費税の「簡易課税制度」は、売上を基準に消費税の納税額を計算できる便利な制度です。しかし、仕入れで発生した消費税額は一切考慮されません。このため、簡易課税制度の適用を受けているときに、高額な設備を買ってしまうと、買った分の消費税の還付は受けられません。まさに最悪です。
もともと「簡易」というくらいなわけですし、場合によっては簡易課税を原則課税に戻すようにできたほうが、トラブルも少なくなるのでは?ということです。
6.(地方税) 外形標準課税は中小企業へ導入しない
外形標準課税は、1億円を超える資本金の会社に行われている課税制度です。
通常の法人には、営業活動の「利益」に課税されるのが普通ですが、外形標準課税は人件費や資本金にも課税理由を見いだすのが特徴です。このため、赤字でも課税が発生します。
中小企業には赤字を出しながら経営を続けている企業も多いのですが、もし外形標準課税が中小企業にも適用された場合には、重い負担になります。
まとめ
税理士がとくにアピールしたい改正案を述べました。こうしてみると、政策の中で議論されている内容と、税理士たちが考える提案には、やや温度差があるように思います。
不効率の解消を訴えるものも多いのですが、一度できてしまった制度を変えるのは並大抵のことではないことがわかります。
実は、今回紹介した重要6項目の改正要望以外にも要望があります。これらの一部も、次のブログで紹介しています。