2027年の税務はどうなる? 国税庁「税務行政の将来像」を読む

浦和税務署

国税庁は2017年6月23日、『税務行政の将来像~スマート化を目指して~』という文書を公表し、今後10年後の税務行政のイメージ像を示しました。この文書について読み取れる内容を考えます。

(画像は「未来っぽい」フォルムでおなじみの浦和税務署)

説明のポイント

  • 国税庁は、今後10年間の税務行政の改善計画を示した
  • 無駄な労力を省き、省いた労力を別のことに利用したいという意向
  • AIの活用という見出しが目立つ
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要点はなにか?

「税務行政の将来像」の概要

国税庁が発表した『税務行政の将来像~スマート化を目指して~』は、今後10年後(2027年)の税務行政のイメージ像です。これは、現時点での設計図であり、随時見直しを図っていくものとされています。

この文書から読み取れるのは、無駄な労力を省くことと、その省いた労力を別のことに重点的に利用したいという強い意向です。このために、ITのさらなる活用が必須である「楽屋」の事情が伺えます。

これを国税庁は「スマート税務行政」と表現しています。

ちなみに、なぜこのような文書が発表されたのか、その理由はよくわかりません。

納税者に与える変化はなにか?

1.マイナポータルを基点とした税務

まず重要なのは、マイナポータルの本格的な稼働が間もなく予定されていることです。このマイナポータルを基点とした税務処理が推進されていくことになります。

電子申告の普及率は年々増加してきたとはいえ、紙ベースでの対応はまだまだ減りません。この手続きの不効率を削減することが課題になります。

その改善の一例としては、次の点が挙げられています。

  • 不動産の売却情報を把握した税務署が、マイナポータルに申告の必要性を通知する
  • 災害時における税の減免制度をマイナポータルで通知する
  • 医療費やふるさと納税の電子データをe-Taxの申告で活用する
  • e-Taxとマイナポータルの間のプラットフォームの共通化
  • スマートフォンによる申告の実現

マイナンバー制度も、マイナポータルを基軸とし、これにe-Taxを組み合わせた税務の活用が本格化する段階を迎えます。

課題は、根強く残る紙ベースの改善です。e-Taxを利用せず、マイナンバーカードも取得しない納税者への対応をどうするか、という点にあるでしょう。(個人の所得税申告のe-Taxの利用率は50%程度で頭打ちになっている)

e-Taxの所得税申告の実施割合

2.税務相談の自動化

税務相談の自動化

この文書で象徴的なのは、「税務相談の自動化」が掲げられている点です。

現行は、国税庁のホームページに書いてある「タックスアンサー」の参照や、電話による窓口が通常の相談対応のチャネルでした。

それが今後は、「メールやチャット」というチャネルが新設されたり、相談内容をAIが分析することで、税務相談を自動回答するシステムも予定されているようです。

「よくある質問を省力化して回答する」という意味において、AIによるチャット対応は理想的です。現行の電話相談では、1件1件のよくある質問にも、すべて人力で回答しなければならないからです。

ちなみに、この「AIの活用と税務相談の自動化」という内容をもって、税理士不要論のように受けとめるのは、誤読であり過剰反応でしょう。現行においても「Google検索」という非公式のチャネルで、すでに似たようなことは実現済みです。

3.その他

これ以外にも、「税務署内に、納税者が自分で納税できる自動現金領収システムの設置」が予定されているようです。

税務署の窓口対応も、人員の負担減を目指した取り組みが図られるものと考えられます。

会計事務所に与える変化はなにか?

1.税務署の対応の変化

税務の現場も変化を求められます。税務署の変化について、会計事務所も税務署の計画を把握しておくことが必要でしょう。

この文章によれば、税務署の変化として次のような内容が挙げられています。

  • 調査担当者のモバイル端末の活用
  • マイナンバー等をキーとして申告内容を分析・マッチングしてチェックするシステム
  • 相続財産等のデータの自動算出(土地・株価)とマッチング
  • 調査情報に対する統計分析により、納税者ごとの調査必要度の判定の精緻化
  • 更正等の通知をe-Tax経由で実施

現場レベルで残っている紙ベースの不効率な処理が改められ、データベースに情報が集中されるものと考えられます。

従来のKSK(国税総合管理)システムを高度化するのか、という点も気になります。これにあわせた調査手法の変化も予想され、従来の経験則によらない部分も生じてくるでしょう。

筆者が気になったのは、調査担当者のモバイル端末の活用という点です。調査官の全てがモバイル端末を持参すれば、情報の参照、共有のレベルが高くなると予想されます。

2.会計事務所の受ける影響

一方、会計事務所側が影響を受けそうな内容としては、

  • 申告内容の疑問点について、「申告内容についてのお尋ね」はe-Taxのメッセージボックス経由とする。
  • 国税と地方税の申告等で手続きが重複するものについては、様式の統一を図った上で、いずれかの機関へ電子的に提出すれば関連手続きが全て終了するように簡便化される
  • ダイレクト納付の複数口座登録を可能とする

という項目が見られました。国と地方の「様式の統一」については、具体的にどのようなものが共通化されるのかはわかりません。

影響が大きいのは、これまで紙ベースだった「申告内容についてのお尋ね」が、e-Taxのメッセージボックスを経由することでしょう。また、マイナンバー制度によるマッチングと、データ分析により、「お尋ね」の件数が増加すると予想されます。

軽微な内容は「お尋ね」による対応で処理し、重点的な内容に人員を投入する傾向はますます強まるものと考えられます。

まとめ

税務行政が改善されることは、納税者にとっても会計事務所にとっても歓迎すべきことです。

文書を一見した感じだと、「AIの活用」という言葉に未来っぽさを感じるものの、税務の現場レベルでどのように影響をあたえるのかについては、不透明な部分を感じます。

これらを実現するためには、予算を獲得する必要もあるでしょう。

参照税務行政の将来像 ~ スマート化を目指して ~(国税庁)

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