「押印についてのQ&A」を経理業務でどう考えるか?

2020年6月19日に政府の3府省から発表された「押印についてのQ&A」は、契約書等に関する押印の考え方を示したものです。経理においてどう影響するかを考えてみます。

説明のポイント

  • 法務省等が公表した「押印についてのQ&A」について、経理業務への影響を考える
  • 税務ではもともと請求書等に押印の要件はない
  • 経理では、請求は相手方の都合によるところも大きい
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「押印についてのQ&A」とは

「押印についてのQ&A」は、契約書等への押印の慣行がテレワークの阻害要因になっているとの批判を受け、政府の規制改革推進会議で議論されていた内容です。

この議論を受け、法務省を含む3つの府・省が共同でQ&Aを発表しました。

このQ&Aの意義については、契約書のデジタル化を推進してきた「クラウドサイン」のオウンドメディア「サインのリ・デザイン」の記事が読みやすいです。

クラウドサインは、電子契約分野におけるシェアが高いことで知られていますが、規制改革推進会議のワーキンググループでも意見を述べており、この分野の旗振り役であるといえます。

また、規制改革推進会議WGの議事録(5/12)を読むと、とくに夏野委員、高橋委員が主導した結果、Q&Aが公表されたことがわかります。委員たちの積極的な姿勢は、高く評価されてよいでしょう。

筆者も門外漢ながら一定関心を持つ分野で、以前の記事でも、その動きをご紹介していました。

先日行われた、規制改革推進会議「第10回 成長戦略ワーキング・グループ」における法務省の回答資料は、...

請求書等についての押印をどう考えるか?

さて、このQ&Aは、契約書への押印がピックアップされていますが、経理業務についても参考になる点が見られます。

参考までに、少し採りあげてみます。

当社が発行したものという証明

経理において発行する請求書等への押印についても、「これは当社が発行したもので間違いない」という意味を込めて押印しているケースはありうるでしょう。

こうした点についてQ&Aは、かならずしも押印にこだわる必要はない、という点を明らかにしつつ、次のように示唆しています。

(問3より抜粋)
・このように、形式的証拠力を確保するという面からは、本人による押印があったとしても万全というわけではない。そのため、テレワーク推進の観点からは、必ずしも本人による押印を得ることにこだわ らず、不要な押印を省略したり 、「重要な文書だからハンコが必要」と考える場合であっても押印以外の手段で代替したりすることが有意義であると考えられる。

請求書を紙に印刷、押印、郵送してきた慣習的な商行為に、見直しをせまる意味を見いだすことができるでしょう。

処理を見直すきっかけになるか

紙にこだわる必要はないということであれば、お互いの取引における文書の信頼性は、紙(押印つき)でも、ネット経由の請求でも大きく異ならないことになります。

取引先との関係上、紙をベースにしてきた処理についても、こうしたQ&Aが公表されたことで、紙ベースの処理を見直すきっかけになるかもしれません。

Q&Aは、次のような手段で「文書の成立の真正を証明」ができることを示しています。

(問6より抜粋)
・次のような様々な立証手段を確保しておき、それを利用することが考えられる。
①継続的な取引関係がある場合 取引先とのメールのメールアドレス・本文及び日時等、送受信記録の保存(請求書、納品書、検収書、 領収書、確認書等は、このような方法の保存のみでも、文書の成立の真正が認められる重要な一事情になり得ると考えられる。)

ただし、請求書等の送付については、発注側の経理に左右される事情も大きく、柔軟な対応が受け入れられるかは、それぞれのように感じます。

「うちの経理は、会社の押印のある請求書しか受け入れないんだ!」という、発注元のかたくなな要求があった場合、下請けとしては、もはやどうしようもありません。

こうなると、押印は「文書の成立の真正」とはほとんど関係なく、たんに伝統的な経理サイクルが維持されているだけの問題になります。

しかし、即効性はなくとも、将来的に効率化されていく流れを促進させる効果は、期待できるのかもしれません。

2023年10月にはインボイス制度の導入も予定されており、請求書の形式に日の当たる機会も間近といえます。

税務から見てどうか?

誤解のないように述べておくと、このQ&Aは、税務にはまったく関わりはありません。もし取引の相手方との争いがあった場合に、その文書の存在を証明できるか? を説明しているものといえます。

このブログの記事も、周辺分野としての経理業務への影響を考えているものです。

なお、税務においては、請求書等における押印の要件はもともとありません。よって、押印のない請求書だからといって、不利に扱われるということもありません。

ただし、発送する請求書と当社控えの双方に押印することで、「本当に発行した請求書の控えである」という、経理ルールとして信頼性を高める意味合いはあったようにも感じます。

そうはいっても、税務調査の対策として効果があるのかは、筆者もよくわかりません。

まとめ

2020年6月19日に政府の3府省から発表された「押印についてのQ&A」をもとに、経理についてどう影響するかを考えてみました。

中小企業の経理では、請求する相手側の都合によるところも大きいです。

こうしたQ&Aの存在により、請求書の発送相手となる発注側企業の考え方も緩和され、郵送ではなくネット経由での請求書も容認される……という、柔軟な処理への効果も期待できるかもしれません。