富裕層は仮想通貨・秘密鍵の保管に注意 税大論叢の論文提言に課税リスクあり

ビットコイン

2017年12月に公開された、税務大学校論叢の最新号(88号~90号)。論叢のなかに、いま注目の仮想通貨についての論文も収録されていました。

興味のある人も多いと考え、ブログで触れておきます。

説明のポイント

  • 税大論叢の論文に、相続時の仮想通貨に関する指摘があった
  • 秘密鍵も相続時に相続されたと推定する対応を提言している
  • 富裕層は、仮想通貨の保持に注意を払う必要がある
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税務大学校論叢とは?

税務になじみのないひとには、ピンと来ない「税務大学校論叢」(略して、「税大論叢」・ぜいだいろんそう)。

その前に、税務大学校から説明が必要でしょう。

税務大学校は、国税庁における「教育機関」兼「シンクタンク」です。国家公務員として採用された税務職員に対して研修を行うほか、税制に対する研究を行っています。

その税務大学校には、税務に通じた優秀な人材が教官として就任しており、税務について日々研究をされています。

ちなみにこのブログの筆者(私)は、国税出身ではありませんが、税務大学校で教官を務められた先生に指導を受けた経験があり、その博識さには敬意をもっています。

その優秀な教官が、日々の研究の成果として発表した論文をまとめたものが「税大論叢」です。

「税大論叢」は、過去の古い論文から、最新のものまで、ネットで読むことができます。もちろん無料です。

仮想通貨に関する論文が公表されました

2017年12月19日、新しい税大論叢(88号~90号)が公表されました。

今回注目されるのは、いま話題(加熱中?)の仮想通貨に関する論文である「仮想通貨の税務上の取扱い-現状と課題-」(安河内誠・税務大学校研究部教育官)でしょう。

この論文は、2017年6月に発表されたようです。

税大論叢が注目されるのは、国税庁の税務の検討に影響をあたえることがある……ともいわれているからです。

ちなみに今年12月においては、国税庁から【PDF】「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」という資料が公表されています。この論文も当然に参照されていることでしょう。

相続時の取扱いについて興味深い提言

このブログの筆者(私)ですが、仮想通貨(ビットコイン)を相続した場合の取り扱いについて以前から興味を持っていました。

約2年ほど前ですが、このブログで言及しています。

ビットコインが、相続財産に含まれている場合の影響を考えます。 説明のポイント ...

他のブログでもその後に書かれた類似の記事を見かけますが、独自の見解のないものばかりですので、とくに言及する必要はないでしょう。

で、いまさらこの点について触れたのは、「仮想通貨の税務上の取扱い-現状と課題-」の論文において、この点の言及があったからです。

論文から引用してみましょう。

仮想通貨は、資金決済法において「財産的価値」とされ、実態においても価格がついて流通するとともに投資対象として利用されているから、相続税法における財産には当然に該当し、相続財産となる。

相続財産となる、という指摘は、誰でもうなずけるところでしょう。仮想通貨は、法的にも存在が認められたものです。

問題は次です。

その際、被相続人において管理されていた仮想通貨の秘密鍵が相続人に承継されなかったとすれば、被相続人が保有していた仮想通貨は相続人において処分することができなくなる。この場合、理論上は価値がなくなった財産を相続したものとしてその価値をゼロとして評価する、又は相続財産としないとすることも考えられる。しかし、秘密鍵が被相続人から相続人に承継されていないという事実を税務当局が把握することは困難であるから、例えば、納税者からの反証がない限り仮想通貨が秘密鍵とともに相続されたものと推定するといった対応も必要と考えられる。

(引用:論文の433pより)

秘密鍵について相続されてない場合でも、その点について相続人が反証ができなければ、秘密鍵が相続されたものとして推定し、仮想通貨を相続財産として課税する……という対応を提言しているわけです。

これはもちろん、国税庁側の意見という感じですが、大変に興味深い提言です。

富裕層は、仮想通貨の保持・取扱いに注意

ビットコインのイメージ

実のところ、これは結構難しい問題です。

国税庁からすれば、仮想通貨にもまんべんなく課税したいはずです。

なぜかといえば、銀行預金から仮想通貨業者を経て、ウォレットに転送されているとすれば、出金元である銀行の明細から仮想通貨の存在が推定されるからです。

しかし、相続人にとっては「晴天の霹靂」かもしれません。秘密鍵がないことについて、「無いものを無い」と反証することは非常に困難です。

それが相続財産隠しなのか、本当に秘密鍵がわからないのか。それを分けるラインは難しいといえます。

論文の意味する「対応」が、現状と将来について、どこまでの線引きを示しているのかはわかりません。

もし仮に、この論文が示す「対応」の取扱いが想定されるとするならば、富裕層は、仮想通貨の保持に一層の注意が必要です。

昨今、相次ぐ取引所へのハッキングのために、取引所に仮想通貨を預けておくことを危険視し、仮想通貨の長期の保管については、個人的なウォレットに移すことを推奨する記事が散見されます。

しかし、取引所から個人的なウォレットに転送する場合は、相続財産の課税リスクに注意をはらい、富裕層は、秘密鍵(復元用パスフレーズ)の相続にも留意すべきでしょう。

仮想通貨を金などと同様に、資産分散のひとつとして位置づけているとするならば、相続財産としての取扱いについて、リスクをはらむからです。

まとめ

ビットコインをはじめとする仮想通貨については、その情報について注目されているようです。実務家として気になる情報があったので、このブログで触れておきました。

仮想通貨の急激な価格高騰により、その課税リスクは非常に高まっているといえます。

目端の利くひとがズルをする目的で使った場合など、仮想通貨と税務の問題は、いやがうえでも顕在化することになるでしょう。

なお、ここで紹介した論文では、滞納処分に関する指摘などもあり、実務家として非常に興味深いものでした。

このブログでは一部を抜き出して紹介することになってしまい、著者の先生には恐れ入りますが、ブログというメディアの都合上、ご了承いただきたく存じます。

参照「仮想通貨の税務上の取扱い-現状と課題-」(税務大学校論叢)

参考文献

お断り
記事の引用は自由ですが、ビットコインを始めとする仮想通貨に関する質問は、雑誌記事等であっても一切お受けしていません。また、仮想通貨に関する所得税の確定申告の依頼についても、筆者は受任しておりません。

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