平成30年分の確定申告 「ID・パスワード方式」導入の影響を検証する

電子申告の利用状況についてウオッチする記事です。平成30年分の確定申告の利用状況について、「ID・パスワード方式」を導入したことによる影響を検証します。また、以前の記事で作成した「書面 対 e-Tax」の利用割合のグラフを最新にしました。

説明のポイント

  • 平成30年分の確定申告から始まった「ID・パスワード方式」の導入は、電子申告の利用者をどれだけ増やしたか
  • 自宅からのe-Tax申告者は「倍増」したが、税務署PCからの移行組も半数程度いる
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ICT利用率への疑問

当ブログは以前の記事で、国税庁が示す確定申告のIT化の割合である「ICT利用率」について、疑問を呈しました。

国税庁が確定申告の効率化の実績として用いている「ICT利用」について、疑問をのべておきます。 ...

行政効率化の目標はe-Taxの利用であるのに、ICT利用率には、書面印刷の割合が多く含まれています。つまり、申告書をパソコンで作るけど、提出は紙ベースも含むということであり、中途半端な指標といえます。

国税庁は2019年8月の発表で、ICT利用率は「82.7%」と述べていますが、これだけをもって「IT化」と考えるのはやや難しい面もあるでしょう。

せっかくパソコンで申告書を作っているのに、なぜデータで送信せずに、紙に印刷して提出する納税者が多いのでしょうか?

その理由は、e-Taxで送信するためにはマイナンバーカードが必要で、その取得の手間を惜しんでのことでしょう。(あとはe-Taxに対する不安感や、理解する手間が面倒なこともある)

ID・パスワード方式は効果があったのか?

次に、平成30年分の確定申告の目玉である「ID・パスワード方式」の効果について検証します。

国税庁による2019年5月の発表によれば、自宅からe-Taxで申告書を提出した人数は、前年比で2倍になったとのことです。

「倍増」という表現が、「やったぜ!」という国税庁の喜びを表しているようです。

当然ですが、これは平成30年分から始まった「ID・パスワード方式」の影響が大きいでしょう。

「ID・パスワード方式」は、マイナンバーカードがなくても、税務署でIDの交付を受ければ、e-Taxを利用できる制度です。

マイナンバーカードがなかなか普及しないため、業を煮やした国税庁がやむを得ず実施した特例的な対応といえます。

書面 vs 電子申告の利用割合

次に、平成30年分の結果における書面提出割合と、e-Tax提出の割合を見てみましょう。

平成30年分の確定申告における割合では、書面提出は54%(前年から-3.8%)、e-Taxは46%(+3.8%)という結果でした。

 

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出典国税庁「平成30年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について」をもとに筆者作成

e-Tax利用率は、前年から+3.8%という結果でしたが、依然として書面提出のほうが割合としては多いままです。

国税庁の取り組みは「ID・パスワード方式」導入で一定の功を奏したといえそうですが、現状を劇的に変えたとまではいいづらいです。

書面提出の手書き派は年々減少しつつある

しかし、希望もありそうです。

書面提出の内訳を見ると、パソコンを使わずに手書きで書面提出した割合は、ここ数年は全体からみて約3%のペースで減りつつあります。この動向は続いています。(34.7%→31.1%)

また、「確定申告書等作成コーナー」を使ったものの、「ID・パスワード方式」を使わずに、書面提出した人も前年比較で見ると、ほとんど同じ割合になっています。(21.2%→21.3%)

この動きを見る限り、

  • これまで手書きしていた人が、「確定申告書等作成コーナー」を使って書面提出するようになっている
  • これまで「確定申告書等作成コーナー」で書面提出していた人が、e-Taxを利用するようになっている

という流れが生まれつつあるように見えます。(このほかに、手書きしていたシニア層が、パソコンを使える世代に交代しつつある可能性もある)

自宅からのe-Taxは「倍増」したが、移行組が含まれるため純増ではない

なお、自宅からe-Taxで申告した納税者は、2.8%→5.6%に倍増となっています。人数としては625,000人増えたという集計です。

ただし、この倍増は単なる「純粋な増加」とは言い切れない可能性もあります。

なぜかというと、前年に税務署でe-Taxで申告した納税者には、確定申告の直前にハガキを郵送して「ID・パスワード」をお知らせしまくった、という経緯があります。

この点を考慮してみると、税務署PCの利用率が19.1%→17.6%で1.5%減っており、やはり影響はありそうです。

すると、「倍増」(2.8%増)の内訳は、

  • 税務署PCからの移行組(1.5%増)
  • 純粋な増加(1.3%増)

に分かれるといえそうです。

ちなみにここでいう「純粋な増加」とは、

  • 税務署でID・パスワードの交付を自主的に受けた納税者
  • マイナンバーカードを取得した納税者

のことをいいます。純粋な増加が1.3%という割合を見ると、なかなか微妙な印象です。

税務署に行ってIDの交付を受けたり、マイナンバーカードの交付を受けるというのは、やはり手間なのでしょう。

まとめ

平成30年分の確定申告において、e-Taxの利用状況を検証する記事でした。

とくに今回始まった「ID・パスワード方式」の効果がどれぐらいのものかについては、国税庁があれだけ広報を頑張ったわけで、検証しておく必要があると感じていました。

その結果ですが、自宅からのe-Taxの利用者数は「倍増」したものの、その内実は「税務署PCからの移行組」が含まれており、この点を考慮する必要があるでしょう。

今後も劇的なe-Tax利用率の上昇は難しそうですが、手書き申告書の提出者が減少しつつある傾向は継続しており、「確定申告書等作成コーナー」の利用(つまり国税庁のいう「ICT利用」)は促進されていくと考えます。