電子帳簿保存法の「プリンタ備え付け」要件からデジタル化を考える

電子帳簿保存法におけるプリンタ備え付けの要件を考えます。

「プリンタは使わない、邪魔だから置きたくない」という意向があっても、この要件を考えると、プリンタの備え付けは税務上どうしても必要と思われます。

税務とデジタル化を考える内容です。

説明のポイント

  • 現状の税務ではプリンタは必要
  • プリンタは本当に必要なのかという疑問。デジタル化の究極は紙がない状態だが、それでもプリンタは必要か
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プリンタ備え付けの要件とは

まず、電子帳簿保存法におけるプリンタの備え付け要件を見てみましょう。(施行規則第2条2項2号)

二 当該国税関係帳簿に係る電磁的記録の備付け及び保存をする場所に当該電磁的記録の電子計算機処理の用に供することができる電子計算機、プログラム、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付け、当該電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力することができるようにしておくこと。

ちなみに、このブログで注目してきた電子取引も、この要件を準用しています。

税務にプリンタは必須か

ビジネス上はともかくとして、税務上において「プリンタをもっていない」という選択は可能なのでしょうか?

すべての取引や記帳を紙で行い、事務所にパソコンを一切置かず、電話は固定電話とガラケーを徹底すれば、プリンタを置かない選択は可能かもしれません。

一方、パソコンで帳簿を作成した場合でも、その帳簿を紙に出力して保存するのであれば、電子帳簿保存法には関係なく、出力のためにプリンタが必要です。(紙の帳簿保存)

帳簿を電子データのまま保存する場合は、電子帳簿保存法(電子帳簿)としてプリンタ備え付けの要件が生じます。

パソコンを置かずに紙の帳簿を徹底しても、もし手持ちのスマホから通販で備品を購入すれば、やはり電子帳簿保存法(電子取引)のプリンタ備え付けの要件が生じます。

「プリンタを備え付けない」は難しい

帳簿の保存についてはもとから紙で作成していればプリンタは関係ありませんが、もし電子取引が生じた場合は、電子データのままの保存が必須です。

電子帳簿保存法が関係する要件では、いずれもプリンタの備え付けが含まれています。

この点を考えると、例えばネット通販でビジネス用の備品などを1回でも買えば、その時点でプリンタの備え付けが必要です。

では、業務が完全にデジタルで完結しているので、事務所にプリンタは通常不要だが、どうしても必要なときは近所のコンビニの複合機を活用したい……という場合はどうでしょうか。

この点への可否を示した資料を見たことはありませんが、「電磁的記録の備付け及び保存をする場所に」の要件に当てはまらない可能性がありそうです。

これらを考えると、現状の税務においてプリンタの備え付けは事実上必須といえるでしょう。

なぜプリンタ備え付けの要件があるのか

プリンタの備え付け要件がある理由は、筆者が探しても明確には示されてはいないようです。プリンタがあるのが当たり前すぎて、こうしたことに疑問を呈するほうがむしろ「異端」でしょう。

よってあくまで推測になりますが、税務調査において、調査官が紙での資料提出を受けたいことが理由のひとつになるでしょう。

しかし、うっすらとした疑問も浮かびます。

国税関係帳簿の要件では、原則は紙の帳簿であるところを、電子データで保存してもよいという要件ですので、この場合は「いつでも紙に出力できるように」という意味でプリンタの備え付け要件は理解できます。

これに比べて、電子取引は国税関係帳簿の要件を準用していますが、電子取引の電子データは紙とはなんら関係がありません。これを紙に出力させる状態を保たせるというのは、絶対的に必要な措置なのでしょうか。

もともと電子データなのですから、原本である電子データを調査官に提供することを選べるのも、それは納税者の任意でも違和感はないように思います。

もしその電子データを本当にプリントしたければ、調査官が電子データを持ち帰ってプリントすればよいだけの話です(調査官は電子データの紛失を避けたいので嫌がる傾向があるとしても)。

調査上の有利不利の観点からの指摘もあるでしょうが、それは置いておくとして、ここでの疑問は「プリンタが絶対に必要なのか」という点です。

このほか、「国税関係書類以外の書類とみなす」のだから、「みなす書類」として紙に出力できる状態は必要……という可能性もありますが、筆者の力量ではちょっとわかりません。

デジタル化の足を引っ張っている?

現状ではプリンタを持っていることが当たり前すぎて、こうした点に疑問を覚えることは通常はないでしょう。

しかし、デジタル化が促進していけば、いずれは「プリンタ不要論」も目立ってくるようになるのではと思います。

デジタル化は、紙を介在しないことを目標としていますので、デジタル化の究極点は「プリンタ不要論」に行き着くからです。

現状でプリンタ不要論を主張すれば、「電子帳簿保存法はどうすんのよ」という批判を免れることは難しいため、口をつぐむしかないことになります。

モバイルプリンタのような手軽な製品もあるにせよ、税務上のプリンタ備え付け要件が、フリーランスを中心としたデジタル化の促進の足を引っ張っている……という批判もいずれはあるかもしれません。

まとめ

電子帳簿保存法におけるプリンタ備え付けの要件から、デジタル化の促進を考えてみました。

パソコンがあれば、通常はプリンタも購入しているでしょうから、このような疑問を呈すること自体が「異端」といえるでしょう。

しかし、もしデジタル化が完結していれば、紙への出力は不要ですから、プリンタを使う機会はありません。

「紙がベース」という思考から逃れるのがどうしても難しいのですが、デジタル化の促進にあわせていずれは「プリンタ不要論」を考える必要もあるのでは、と微妙に気になっています。

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