「年金一括受給で修正申告→延滞税」の記事を読んで思ったこと

最近読んだ記事で、年金の受取りについて過去分をさかのぼって一括受給をした場合は延滞税がかかることがある、という話がありました。気になる記事だったので、このブログでもご紹介したいと思います。

説明のポイント

  • 公的年金をさかのぼり一括受給したことで過去の年分について修正申告が必要な場合には、延滞税がかかる可能性もあるため、忌避感が生じている
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年金の繰り下げ受給で延滞税がかかる

ここで採りあげたいのは、ファイナンシャルプランナーの方が執筆した記事です。

その記事は「年金繰り下げで一括受給した人の末路、「税務署が延滞税請求」の衝撃」(ダイヤモンドオンライン、2022年4月)ということで、「末路」「衝撃」などと、なかなかセンセーショナルな見出しがついています。

タイトルでも概要は説明されているようにも思いますが、公的年金の受給を繰り下げて待機しているところ、過去分をさかのぼって一括受給した場合でも、この一括受給した年金の課税はもともと支給されるはずだった各年分ごとの収入とされます(振込年の「一時所得」ではない)。

そして、過去の年分の所得と納税額が増加することで、修正申告が必要になるということですが、札幌地裁の平成27年7月15日判決(税務大学校の税務訴訟資料に掲載)を参照しつつ、修正申告によっては延滞税がかかる可能性もあることなどから、一括受給することは弊害が大きいのでおすすめできない……と述べられています。

年金一括受給と税務

平成27年の札幌地裁判決については、過去にどこかの税務記事で採りあげられて、ブログ筆者も一度目にしたような気もするのですが、もしかしたら記憶違いかもしれません。とりあえず、税務の界隈で「これは衝撃だ!」のように語られた記憶はありません。

自分のなかでの意識と、記事のタイトルとのギャップに、ふに落ちない面もあったので、整理してみることにします。

まず、過去の公的年金をさかのぼって受給した場合でも、もともとの年分ごとに課税される取扱いは、所得税基本通達に書いてあります。

36-14 雑所得の収入金額又は総収入金額の収入すべき時期は、次に掲げる区分に応じそれぞれ次に掲げる日によるものとする。(昭63直法6-1、直所3-1、平14課個2-22、課資3-5、課法8-10、課審3-197改正)
(1) 法第35条第3項《雑所得》に規定する公的年金等
イ 公的年金等の支給の基礎となる法令、契約、規程又は規約(以下この(1)において「法令等」という。)により定められた支給日

また、税務関係者が目にすることが多い、東京国税局作成の「誤りやすい事例集」でも、注意喚起がされています。

<誤りやすい事例>過去に遡及して国民年金の支払を受けた場合、その全てについて支払を受けた年分の収入にしている。(引用者注:これは誤りの例です)
<解説>年金の収入計上時期は、その支給の基礎となった法令等に定められた支給日であるため、前年分以前の期間に対応する年金が一括して支給されても、年分ごとに区分して収入金額を計算する。(所基通36-14(1))

そして過去にさかのぼって修正申告をすれば、当然に所得や税金に影響しますし、その結果によっては延滞税がかかるのも当然といえます。

ただし延滞税は、遅延利息としてのペナルティ的な利率であるため、不満が生じる理由になるのかもしれません。国が用意しているルールのとおりに一括受給をしただけなのに、なぜかペナルティを課された! ということです。

判決の資料を読むと、延滞税は各年とも数千円程度だったとされていますが、納税者はよほど納得がいかなかったのでしょうか。

延滞税についてはたしかにかわいそうな気もしますが、札幌地裁の判決では、

  • 普通に年金を受給して納税している場合と比べると(一括受給をしたとしても収入は各年分ごとに計算するわけだから)納税を恣意的に先送りできるようになってしまう
  • 延滞税が課されている期間は申告期限からおよそ1年間のみ(正確には申告期限から1年経過後~修正申告時点までは延滞税の計算期間から控除される)なので配慮もされている

として退けられています。

納税者はその後控訴、上告していますが、納税者側に訴えの利益がなかったことを理由に、原判決そのものが取消しとされています。

過去に話題になった記憶はないが……

先ほども述べましたが、この札幌地裁の判決文が税務大学校の税務訴訟資料に掲載されたあとも、さほど話題になった記憶はありません。

納税者が敗訴しており、延滞税の金額も小さく、税務の取扱いとしても従来ととくに変わるところはない、という点が事情としてあったといえます。

ところが、ファイナンシャルプランナーの方はこれを驚きと感じており、一括受給は「弊害があるので選択肢からは外そう」とコメントされています。

税務だけではなく、年金の受け取り方法をアドバイスする側の立場からすると、別の見方ができるということなのでしょう。

また、これまでは年金の繰り下げをする人も少なかったために、あまり気にされなかったものが、昨今は繰り下げ受給が話題となってきたことで「再発見」された話ともいえそうです。

納付はたしかに増えるが……

記事のニュアンスとして少し気になったのは、一括受給すると税金や社会保険料が増えるという部分です。

たしかに、修正申告により所得が増えたことで生じた延滞税や延滞金に関しては、一括受給をしていなければ生じなかった納付なので、その点は同意です。

これに比べて、普通の所得税、住民税、社会保険料については、もともと繰り下げしなかった場合と同じ金額になるので有利不利はありません。

また一括受給を選ばなかった場合でも、繰り下げ受給によって今後増額する年金収入に対して課税されるわけですから、この点でも有利不利を論じるのには違和感があります。

感覚的な話としてですが、修正申告で税金が生じると、本来的に納付しなければならなかった税金であっても「なんだか損をした」感覚に陥りやすいことは事実でしょう。さらに延滞税や延滞金がかかることで、その感覚が強まる可能性もありそうです。

年金をアドバイスする側としては、こうした不満を受けとめざるを得ませんので、一括受給をアドバイスすることに戸惑いを覚えるのかもしれません。

まとめ

最近話題の年金繰り下げについて、過去分を一括受給した場合の税務について触れた記事がありましたので、気になるテーマとして採りあげました。

記事の見出しに「末路」とあるのは、少々オーバーな表現のような気もしましたが、年金の受け取り方へのアドバイスや、実際に一括受給したあとも手間がかかることを考えると、なるほどと思いました。

追記(2022/8/21)

2022年8月、第209回国会において吉田はるみ議員が質問主意書を提出しています。時期的に見て、ファイナンシャルプランナーの方が執筆した記事を受けてのことと推察されます。これに対して答弁書が送付されており、現在の取扱いとその取扱いについて変更の予定はない旨が書かれています。

・・・所得金額等の算定に当たり、支分権が発生した各月の属する各年において計上すべきとする取扱いについては、令和五年四月以降も変更はない。

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