電子文書は印紙税を廃止に追い込むのか?

電子文書に印紙税は課税されない、と解釈されています。

省コストであり、ビジネスにとって有利なことですが、その印紙税という課税制度が不安定な状態におかれていることもご紹介しておきます。

説明のポイント

  • 印紙税は、電子化していない事業者が負担する不公平な制度になっている
  • 長らく批判の声があるが、制度見直しの動きはない
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急速に広まる電子文書と関連サービス

急速に広まる電子文書。

郵送不要、印紙税不要、保管コスト不要というコスト削減のメリットから、熱い視線を集めています。

最近は、電子証明書を不要とする電子契約サービスが人気を集めており、そのサービス提供の裾野は、爆発的とっても過言ではないほどに拡大しつつある気配があります。

また、政府が推し進める目玉政策のひとつが、「生産性の向上」です。

ビジネスにおける省コスト・スピード促進を実現できる電子文書の活用は、生産性向上に寄与することは間違いないでしょう。

電子文書に印紙税はかからない

電子契約サービスの大きな魅力となっている、「印紙税がかからない」という点については、やや微妙さをはらんでいます。

それは、「電子文書について印紙税は課税されない」ということについて、ハッキリ明記された法令がないということです。

電子文書に印紙税がかからない根拠とされているのは、

  • 注文請書を電子メールで送信したときに、印紙を貼らなくてもいいという福岡国税局の回答(2008年)
  • 小泉総理の答弁書(2005年)で「電磁的記録により作成されたものについて課税されない」と述べている

の2点とされています。(参考新日鉄住金ソリューションズ斎木氏による記事

電子文書は「010101……」といった情報データの集合体であり、パソコンのディスプレイを通じてようやく画面に表示できるものですから、紙の文書とは性質がまったく異なります。

このため、現行の印紙税法では、電子文書への課税は困難であるというのが、広く知られた解釈になっています。

印紙税が生み出す不合理さ

このように、電子文書であれば、印紙税は不要と解釈されています。しかし、昔ながらの方法で紙で契約書を作った場合は、印紙税がかかるわけです。

契約という同じ行為をしているのに、紙の契約書にだけ、印紙税が課税されるというのは、どう考えても不公平な話です。

先ほど紹介した、小泉総理の答弁書を引き出した櫻井充議員の質問主意書を見ると、以下のように書かれています。

電子商取引でもインターネット上で契約書などが交わされることがあるが、添付ファイルなどの形で交わされる電子文書については印紙税の課税対象外となっている。同じ契約書などであるにもかかわらず、文書か電子文書かで印紙税の課税・非課税を判断することは不公平極まりなく、税の基本原則に反していると言わざるを得ない。電子商取引によって発生する電子文書による契約書などの捕捉が技術的に困難なのであれば、税の基本原則に合うように、印紙税そのものを見直す必要があると考えるが、政府の見解を示されたい。

 

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この質問主意書は、2005年に提出されたものであり、電子取引などのサービスが拡大するにつれて、その不合理もどんどんと拡大します。

この問題は、以前から多くの学者・団体が指摘しており、東京税理士会でも税制改正への意見書で印紙税の廃止を提言しています。

印紙税は、経済取引により生じる経済的利益に担税力を求め課税する間接税に近い流通税であるとされている。これは文書課税ともいわれるように、経済取引において作成される課税事項が記載された文書に対して課税されるものである。
現在の経済取引は、事務処理の機械化や取引形態の変化により作成される文書の形式、内容等が変化し、電子決済、ペーパーレス化等が進み、文書課税としての印紙税には不合理・不公平な現象が生じている。したがって、印紙税は廃止すべきである。

電子文書に課税される可能性はあるか

ここまでご紹介したとおり、印紙税については時代にそぐわない課税制度などの批判が大勢を占めています。

では、不公平を解決するために、逆に「電子文書にも課税する」という可能性はどうでしょうか。背筋の寒くなる話ですが、可能性はゼロとはいえません。

例えば、2003年に書かれた税務大学校の論文においては、課税の公平性を保つために、電子文書にも課税する可能性を探ったものが見られます。

参考草間久雄「最近における印紙税の課税回避等の動きと今後の課税の在り方」(税大論叢42号、2003年)

現行の印紙税法では、電子文書に課税することはできないと解釈されています。

しかし、法令への手当をすれば、電子文書にも課税することは、不可能ではないのでしょう。(猛反対が起こるでしょうが)

税収確保と不都合さの間で立ちすくむ制度

経済産業省は、税制改正の要望において印紙税の見直しを平成22年度から検討事項として求め続けています(参考)。

内容としては、制度の抜本的な見直しを求めるものですが、ニュアンスとしては「廃止縮小」を求めていることが行間からうかがえます。

しかし、この要望が正面から採り上げられたことはなく、放置された状態となっています。

これは税収確保の目的もあるでしょう。印紙による収入は1兆円(平成30年度予算)程度とされています。

わかりやすい比較対象として、法人税の税収は12兆円とされています。規模的にみて、印紙税をすぐに廃止するのは難しい話なのでしょう。

しかし、税収のためならば不合理を放置しておいていい、というのも変な話です。国民の税への信頼を裏切ることにつながります。

「効率化遅延税」のような位置づけに変質する?

電子文書を利用すれば、印紙税はかからない。

これを、政府が推し進める「事業の効率化」「生産性向上」と重ね合わせると、どうなるでしょうか。

多くの企業が電子化を推し進めることは、政府の方針とぴったり一致します。

このままの状態を放置するならば、印紙税は、電子化を推し進めた企業には課税しないという、アメとムチのような課税制度に変質していく可能性があります。

まるで「効率化遅延税」とでもいうのでしょうか。例えば、中小企業のIT投資に補助金(500億円)を出しつつ、印紙税には課税を継続している実態をみると、そのような懸念を抱きます。

これは、課税方法としては問題のある話です。「経済的利益に担税力を見出す」という印紙税の課税根拠そのものが、疑われる話となるでしょう。

まとめ

電子文書にまとわりつく、印紙税の話題を紹介しました。

色々と材料をあげてみましたが、印紙税は、税収確保と課税の問題の間で立ちすくんでしまっている制度ということがわかります。

このまま電子文書の普及にともなって、やがてしぼんでいく制度になるのでしょうか。

私論ですが、印紙税は段階的に縮小すべきでしょう。その消失する税収の穴埋めについてですが、印紙税は「経済的利益」に課す税金ですから、ビジネスの領域に増税を施すことが一案と考えます。