2020年1月20日より、「法人設立ワンストップサービス」が開始されました。このブログは税務を扱っていますので、この点を中心にチェックしてみます。
説明のポイント
- 政府の肝いりで始まった「ワンストップサービス」だが、税務関連の問診を見てみると、難易度が高く、適切な届出書を選んでいるのかもよくわからないという懸念もある
「法人設立ワンストップサービス」とは?
国際比較によると、日本は「起業がしづらい環境」だそうで、点数も低くなっているそうです。
この対策として「世界最高水準の起業環境を実現するため」に、政府の肝いりで始まった制度が「法人設立ワンストップサービス」です。
参照:法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会(首相官邸)
2020年1月のサービス開始時点では、「設立後の届出」を一括して処理することができます。
資料によると、2021年2月には「定款認証・設立登記」も含めたワンストップサービスに進化する予定となっています。(参考)
税務の届出はどうなんでしょう?
さて、このブログは税務を扱っていますので、新しい制度である「法人設立ワンストップサービス」に興味をもちつつ、その税務の届出関係について見てみることにします。
「法人設立ワンストップサービス」のページにアクセスすると、シンプルな印象のページが表示されます。
「かんたん問診・申請」に答えていくと、どのような書類を提出するか教えてくれます。これは便利そうです。
さっそく試してみましょう。
問診の2問目ですが、「課税特典を受けることができます」という質問がありました。これは、青色申告の承認に関するものです。
もしこの問診を受けないままに、トップページから「申請可能な手続一覧」を表示した場合は、青色申告の承認申請には「必須」と書いていません。
こちらだと、うっかり申請を忘れそうな印象もあります。
で、3問目からは、棚卸資産の評価方法を聞いてきます。文章中に「適切な評価方法」という質問をしてくるので、これに「いいえ」を選ぶことには相当の勇気が必要でしょう。
そして、この後も難しい質問が続出します。社長1年生の気持ちを考えるに、これはかなりつらい気もします。
あと怖いのが、消費税の課税事業者に関する選択です。「なんか還付がもらえそう?」ということで「はい」を選択すると、1期目から課税事業者を選択することになりかねません。
2023年10月でインボイス制度が始まったあとなら、さほど問題はなさそうですが、いまのところは微妙です。(2023年10月以後は、質問そのものが変わりそうな気もします)
……というように、税務関連の判断を見ると、どうにも難しめの質問をビシバシ連発しています。これが「かんたん問診」といわれると、ちょっとガスター10もってきて、という印象です。
本当にわからなければ、「わからない」という選択肢も、あるにはあります。ただし、そういう選択肢を押すのは本当に大変です。
選択肢ひとつで、まったく意図しない届出書が出てしまい、エラいことになりかねないのが、税務の怖いところといえます。
この点を考えると、まずは必要最低限の書類を出させて、さらにオプションで追加できるというシステムのほうがいいのでは……と思ったりします。
とりあえず、「かんたん問診」がさほど「かんたん」じゃない雰囲気であることは、よくわかりました。
なお、国税関係で可能な手続きの一覧は、国税庁ホームページでも公表されています。
まとめ
政府の肝いりで始まった「法人設立ワンストップサービス」について、どんな感じなのかを見てみました。
使いやすいサービスが提供されるのは歓迎ですが、不親切なつくりですと、利用者は増えないままになる懸念もあります。
また、届出書などを提出しやすくなる環境も歓迎されるものの、かえって意図しない届出書を出していないかも気になるところです。
法人設立の意向のある方への関与については、このようなサービスが新たに提供されていることや、このサービスをどのように使用するかについては、実務家としても注意を払う必要があるように感じております。
余談ですが、ワンストップサービスの届出書の判断が難しいのは、そもそも「制度そのものが複雑に分岐しすぎていることの問題」をかえって浮き彫りにしたようにも感じます。
これは、ワンストップサービスをつくれば解決するという問題ではなく、開業に関する税制そのものをシンプルにすることも検討していく必要があるのでしょう。