税務署の収受印は、正確性をどこまで保証するか

筆者が気になる「しくみ」のひとつに、申告書における税務署の「収受日付印」の効力があります。この収受印の有効性について考察する記事です。

説明のポイント

  • 控えに押された収受印は、提出した申告書と同一であることを保証するものではない
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収受印が「提出実績」の確認とされる意味

現在申請受付中の持続化給付金について提出書類の要件を読むと、「確定申告書の別表一」の控えに、税務署の収受日付印が押されていることとされています。(個人の場合は確定申告書第一表)

税務署の「収受日付印」とは、次のようなスタンプです。

持続化給付金の申請に限らず、申告書の提出が求められる他の手続きにおいても、この収受印を要件とされることがあります。

ただし、この収受印が申告の有効性を示すかというと、それは微妙な点もあります。固定観念を壊す話として、収受印にまつわる実務を検証してみましょう。

申告書の原本とは、提出したもの。控えはあくまで「控え」

収受印は、税務署の窓口に申告書を持参した場合において、窓口の担当員が押印するものです。

収受印は、提出した申告書と、持参した控えの申告書の双方に押印されます。

提出した申告書に押された収受印は、その申告書が収受された日付を証明します。

その申告書は、税務署で保管されます。納税者が原本の申告書を確認したい場合は、税務署に閲覧を申請する必要があります。

一方の控えについては、この「控え」はあくまで納税者が自身のために用いるものです。つまり、「控え」は原本ではありません。

また、納税者が保管する「控え」について規定はありません。収受印の有無に限らず、自分が判断すれば、それが「控え」となります。

例えば法人税の申告書では、収受印は、別表一だけに押印されています。別表一以外の別表に収受印が押されることはまずありません。

控えに押された収受印の意味とは

ここで注意したいのは、「控え」に押された収受印は、提出した申告書と同一であることを保証する意味で押されているわけではない、ということです。

窓口の担当者は、申告書のすべてを念入りにチェックして、控えと同一であることを確認して押印しているわけではありません。

そうなると、収受印の押印の意味が気になるわけですが、これは原本の申告書に押印された収受印について、納税者が確認する意味があると考えます。

収受印に誤りがあることに気づいた場合は、その場で申し出る必要があるでしょう。

ここで「考えます」とあいまいに書いたのは、国税通則法には、申告書の収受に関する規定が見当たらないためです。

申告書と控えが同じでなかったら、どうなるか

提出する申告書と、「控え」の申告書を「別もの」で提出した場合、それでも「控え」に収受印は押されるでしょうか?

窓口担当者にもよるでしょうが、押印される可能性は高いといえます。

「別もの」の控えに押印をもらったとしても、この行為をインチキと断言できるかは、微妙な点があります。

申告書に「控え」を作成するかは納税者の任意なのであって、税務署としては、受け付けた原本の申告書で申告実績や納税額を判断します。

繰り返しになりますが、「控え」は納税者自身のためのもので、その控えに押された収受印も、申告書と同一であることを保証するものとはいえません。

また、勝手に税務署の収受印を模造し、これを自分の作った控えに押印しても、罰則は設けられていません。

ここまで述べてきたのは、申告書控えに税務署の収受印があっても、申告の有効性を確実に保証するものとはいえない、ということを説明したいからでした。

当然ですが、内容の異なる控えの偽造や収受印の模造を容認しているわけではありません。あくまで有効性の検証をしているだけです。

正確性を保証するのは「納税証明書」

ここまで書いたとおり、「申告書の控えに収受印のあるもの」という要件があったとしても、これをもってして確実に提出した申告書と同一である、という保証はできないことがわかります。

では、確実に申告したことを証明する方法を挙げるとなれば、これは税務署で発行される「納税証明書」しかありません。

税務署が受領した申告書をもとに、証明書を作成しているわけですから、これが確実です。

持続化給付金の申請要件を見ると、収受印(またはe-Tax提出における受信通知)がない場合は、例外として納税証明書(その2所得金額用)でも代替が可能とされています。

効力を考えれば、納税証明書のほうが正確性は高いわけですが、あくまで代替手段と位置づけられています。

確定申告書の控えが原則の書類であるのは、ほぼすべての事業者が、すぐに準備できる書類であるためで、正確性よりも利便性を優先しているためでしょう。

まとめ

税務署の収受印のある確定申告書を要件とする場合において、その収受印がどこまで意味をもつものであるのか、検証する記事でした。

税務署の収受印のある確定申告書をもって有効と認めるのは、納税証明書の取得を省く意味があると考えられます。

控えに押された収受印については、実際のところ微妙な点があることを指摘するため、この記事を書いたしだいです。

(とはいえ、大半のひとは、そんなことはどうでもいいと思っているでしょうが……)

次回の記事は、税務署収受印の代替として位置づけられている「受信通知」について検証します。

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