電子取引の電子データの保存については、検索機能の確保が必要とされています。では、たんなる書面と比べてみるとどうなのか。その対比の差を考えます。
説明のポイント
- 書面での保存は「整理」が求められているが、「整理」と「検索性」は同等か?
- 検索機能の確保のほうが事務負担が重いと感じるのは、紙処理がベースのためで、過渡期の問題か(ただし、税法上も紙が原則)
電子取引の保存は検索機能の確保が必要
電子取引における電子データの保存は、「検索機能の確保」が必要です。
従来の検索機能については、組み合わせ検索、範囲検索も必須だったところ、令和4年以降においてはダウンロードの求めに応じる場合、これらの要件は不要とされ、単一の検索でもよいことになります。
また、電子取引の電子データは「国税関係書類以外の書類」とみなされます。この「国税関係書類以外の書類とみなす」ことの理由については、以前の記事で採りあげました。
「国税関係書類以外の書類」とみなされた電子データについては、「申告内容を確認するための書類となり得る」(財務省担当官の解説)とされています。「確認するための書類」というように直接的な表現ではなく、取扱いに慎重さが垣間見えます。
それにもかかわらず、やはり検索機能の確保は必要ということで、ひと手間かかる処理が求められるように感じることでしょう。
書面保存は「整理」が必要
では電子データではない書面(紙)の場合、どのような保存が求められているのでしょうか。
法人税法施行規則を見ると、
第五十九条 青色申告法人は、次に掲げる帳簿書類を整理し、起算日から七年間、これを納税地・・・に保存しなければならない。
というように「整理」が求められています。
ちなみに商法第19条では「営業に関する重要な資料を保存しなければならない」と書かれており、「整理」という文言はありません。
書面の「整理」と、電子データの「検索機能の確保」の違い
書面は「整理」でよいが、電子データは「検索機能の確保」が必要です。では、これらの「整理」と「検索機能の確保」を対比させてみると、どうでしょうか。
書面の「整理」について考えてみると、請求書があれば請求書どうしで日付ごとに並べてファイリングしておくという対応は、実務上は当然としても、義務として絶対的に求められているのかはよくわかりません。
もちろん適当でよいわけではなく、税務調査があったとすれば、速やかに提示提出できるレベルの「整理」は必要でしょう。
(※関連情報や書籍をきちんと漁ったわけではないので、研究不足の可能性にご注意ください)
これに比べると、電子データの「検索機能の確保」は、電子データを保存したうえで、システム管理・索引簿作成・ファイル名による管理のいずれかが求められます。
そうなると、書面の方が負担が軽く、電子データの保存のほうが事務負担が重いのではないか……? という疑問も生じるところです。
ちなみに、令和3年までは容認されていた電子取引の書面出力による保存も、「書面に出力する」という点でみると、紙をセットしてプリントしているという行為において、やはりひと手間があったことに違いはありません。
しかし、この書面出力を「負担だ」と批判する意見は、過去に見たことはありません。
それは、令和3年度改正における紙出力の廃止で新たな対応を求められている会社が多いように、実際の経理は紙ベースである会社がほとんどであり、その紙ベースの処理に合わせるほうが楽だったから……とも考えられるでしょう。
重要度の観点からは?
保存されている書面は「国税関係書類」と「国税関係書類以外の書類」に分類されますが、電子取引の電子データは「国税関係書類以外の書類」とみなすものとされます。
もし請求書のPDFデータを保存していても、「国税関係書類以外の書類」とみなします。そして前述のとおり、「国税関係書類以外の書類」は、「申告内容を確認するための書類となり得る」という扱いです。
「申告内容を確認するための書類となり得る」という意味は、きちんと保存されている場合を条件としていると考えてよさそうです。
そう考えると、電子データの保存のほうが要求が高度なうえに、「国税関係書類」ではないものなのに、わざわざ「検索機能の確保」をしなければならないのか……という点で疑問も浮かぶところです。
この点、「国税関係書類以外の書類」だって税務調査の対象範囲なのだから、重要度の面では変わらないし、青色申告の取消し規定だってある……という見方もあるかもしれません。
結局のところ書面の保存が税法上の原則であって、電子データの保存は電子帳簿保存法における「みなす」という「傍流」である以上、紙ベースの価値観から抜けることは難しいです。
よって、なぜそんな電子データの保存にそこまで求めるのかという批判はつきまとうはずです。
電子帳簿保存法の当初の想定を超えているのでは
以前の記事で紹介しましたが、電子帳簿保存法が創設された1998年において、電子取引の保存が想定していたのは、EDI取引における電子データがメインだったという話があります。
そして、構造化されていない電子データ(PDFなど)が商取引で活用されていったのは、1998年よりも後のことと考えてよいでしょう。つまり、構造化されていない電子データをどう扱うかという点において、創設当初の想定を超える事態になっている可能性があります。
そう考えると、「検索機能の確保」を一括して要件を設けていることについては、疑問も生じるところでしょう。
構造化されていない電子データに「検索性」を持たせることは、それなりに事務負担が生じます。
帳簿等のシステムに電子データをひも付けできれば、検索機能の確保としてのデータを二度打ちせずに済むわけですが、そうではない場合はやはり負担感がつきまといます。(帳簿にも数字を記入し、索引簿やファイル名にも数字を記入する)
この点については、共通仕様の電子インボイスが普及すれば、構造化された電子データのやりとりになるため、こうした検索性の付与もいずれ不要となっていくのかもしれません。
まとめ
書面保存で求められる「整理」と、電子取引の電子データの保存で求められる「検索機能の確保」を対比させて考えてみました。
個人的な意見ですが、電子データに検索性を持たせるというのは、書面における「整理」に比べると、事務負担の違いの点でやや疑問を覚えるところでもあります。
例えば、売上高が1,000万円以下の事業者については検索機能の確保は不要とされますが、その規模の事業者であれば、検索機能の確保がなくても電子データを会社自身で探すことが可能と考えられているわけです。
状況を概観してみると、現在は、紙ベースの処理から電子データの処理が基本とされる転換期にあると見ることができるでしょう。
現状では、Excelから出力したPDF請求書なども広く活用されています。構造化されていない電子データが電子取引に含まれており、理想と現実との摩擦につながっているといえそうです。