「電子取引データの訂正削除の防止規程」の必要性とその作り方

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電子帳簿保存法は、電子取引に関する記録を、電子データのままで保存することを求めています。その保存要件のひとつである「訂正削除の防止規程」の整備についてお伝えします。

説明のポイント

  • 電子取引がある場合、データ保存に関しての規程の整備が求められる
  • 規程のサンプルを国税庁が示している
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電子帳簿保存法と電子取引

当記事は2018年に執筆したものです。電子取引の保存ルールの変更にともない、2021年4月以降、当記事へのアクセスが大幅に増加していますが、内容に大きな変更点はないため、執筆時のままにしてあります。改正後のキャッチアップはご自身でお願いします。

電子帳簿保存法は、インターネット、サーバー、パソコンなどの利用における電子データを、税法でもカバーするための法律です。

帳簿や取引に関する書類を、電子データのままで扱った場合に、税法でどのように捉えるかを定めています。

これは、もともとの税法が「紙」だけを想定していたためで、この電子帳簿保存法によって、電子データについてもカバーできるようにした、というわけです。

インターネットによってビジネスが広がっていれば、その取引に関するデータを「紙」で印刷していないことも多いはずです。ネットだけで取引が完結していれば、なおさらのことでしょう。

そうすると、その取引データをどのように保存するかが問われます。税法において、取引に関する電子データは、紙と同様に保存が求められているからです。

電子帳簿保存法(第10条)における電子取引の保存は、どのような要件になっているのでしょうか。わかりやすくお伝えすると、こんな感じです。

電子取引があった場合に、その取引の記録を紙で印刷しないならば、その記録にタイムスタンプを押すか、規程の定めのとおりに電子記録のままで保存してね!

取引に関するデータをわざわざ、すべて紙で印刷して保存するなど、論外のはずです。

また、タイムスタンプを押すことも、そんなシステムを持たない中小企業・ミニビジネスの事業者には困難です。

よって、基本的に電子データの保存は「規程」を作り、その規程に沿うことが求められているでしょう。

ちなみに電子帳簿保存法というと、近年話題となった「スキャナ保存」の制度などは、税務署の承認が必要となっています。

しかし、この電子取引については、税務署の承認は関係ありません。承認などは関係なく、最初から、すべての事業者に関係している話です。

規程はどうやって作ればいいか?

規程の整備は、さほど難しくありません。実は、国税庁がその規程のサンプルを公開しているからです。

そのサンプルは、国税庁が示す電子帳簿保存法Q&A「(電子計算機を使用して作成する帳簿書類及び電子取引関係)」にあります。

このうち問19を見ると、「電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」というサンプルが示されています。

少々長いですが、以下にサンプルを引用しておきましょう。

電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程

第1章 総則

(目的)
第1条 この規程は、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法の特例に関する法律第 10 条に定められた電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存義務を履行するため、○○において行った電子取引の取引情報に係る電磁的記録を適正に保存するために必要な事項を定め、これに基づき保存することを目的とする。

(適用範囲)
第2条 この規程は、○○の全ての役員及び従業員(契約社員、パートタイマー及び派遣社員を含む。以下同じ。)に対して適用する。

(管理責任者)
第3条 この規程の管理責任者は、●●とする。

第2章 電子取引データの取扱い

(電子取引の範囲)
第4条 当社における電子取引の範囲は以下に掲げる取引とする。
一 EDI取引
二 取引の相手方とのメールによる送受信
三 その他電磁的方式による取引の相手方との取引情報の授受

(取引データの保存)
第5条 取引先から受領した取引関係情報及び取引相手に提供した取引関係情報のうち、第6条に定めるデータについては、保存サーバ内に△△年間保存する。

(対象となるデータ)
第6条 保存する取引関係情報は以下のとおりとする。
一 見積依頼情報
二 見積回答情報
三 確定注文情報
四 注文請け情報
五 納品情報
六 支払情報
七 ▲▲

(運用体制)
第7条 保存する取引関係情報の管理責任者及び処理責任者は以下のとおりとする。
一 管理責任者 ○○部△△課 課長 XXXX
二 処理責任者 ○○部△△課 係長 XXXX

(訂正削除の原則禁止)
第8条 保存する取引関係情報の内容について、訂正及び削除をすることは原則禁止とする。

(訂正削除を行う場合)
第9条 業務処理上やむを得ない理由によって保存する取引関係情報を訂正または削除する場合は、処理責任者は「取引情報訂正・削除申請書」に以下の内容を記載の上、管理責任者へ提出すること。
一 申請日
二 取引伝票番号
三 取引件名
四 取引先名
五 訂正・削除日付
六 訂正・削除内容
七 訂正・削除理由
八 処理担当者名
2 管理責任者は、「取引情報訂正・削除申請書」の提出を受けた場合は、正当な理由があると認める場合のみ承認する。
3 管理責任者は、前項において承認した場合は、処理責任者に対して取引関係情報の訂正及び削除を指示する。
4 処理責任者は、取引関係情報の訂正及び削除を行った場合は、当該取引関係情報に訂正・削除履歴がある旨の情報を付すとともに「取引情報訂正・削除完了報告書」を作成し、当該報告書を管理責任者に提出する。
5 「取引情報訂正・削除申請書」及び「取引情報訂正・削除完了報告書」は、事後に訂正・削除履歴の確認作業が行えるよう整然とした形で、訂正・削除の対象となった取引データの保存期間が満了するまで保存する。

附則
(施行)
第10条 この規程は、平成○年○月○日から施行する。

※執筆時の古いテンプレを転載しています。現行のテンプレは、国税庁Q&Aでご確認ください。

こうして実際のサンプルを見てみると、さほど難しいことは書いてありません。

これを自社にあうように手直しして、「電子取引データの訂正削除の防止規程」を作ればよいでしょう。大幅に手直しする場合は、電子帳簿保存法取扱通達10-2について最低限満たすように配慮します。

また、規程のサンプルを見ると、取引データの訂正・削除にあたっては「取引情報訂正・削除申請書」が必要とされています。この申請書についてサンプルはありませんので、自社で作成すれば構わないでしょう。

この規程のテンプレは、国税庁が2017年7月、電子帳簿保存法Q&Aを整理・更新した際に追加されたものです。明示はされていませんが、そのベースになっているのは、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)が2016年10月に発表した【PDF】電子帳簿保存法第10条「電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存」に関する解説書第2版(2016年10月)のP.21 と考えられます。

とにかく規程を作ったほうが無難か?

このような規程の整備が必要とされているのは、税法と電子帳簿保存法において、電子取引における保存要件とされているためです。

いまのところ、ここで紹介したような規程が整備されていなかったことで、保存要件違反とされた事例は、筆者は耳にしたことはありません。

とはいえ、2017年7月に国税庁の手で規程のサンプルが示されたことは、重要な事実です。

指標となる事例がこれまでに見当たらない以上は、雑な言い方ですが、とにかく規程を整備しておくことが、現時点での「お守り」となる対応といえそうです。

まとめ

電子帳簿保存法における電子取引について、「電子取引データの訂正削除の防止規程」の整備のしかたと、その必要性をお伝えしました。

電子帳簿保存法を含むこの手の話は、筆者が調べてみても、あまり目にしないテーマになっています。

研究した情報も、まったくといっていいほどに不足しています。このため、筆者が調べた限りの認識で、情報共有としてお伝えしました。

参考文献

  • 袖山喜久造『改正電子帳簿保存法 完全ガイド』(2016年)
  • 公益社団法人日本文書情報マネジメント協会【PDF】電子帳簿保存法第10条「電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存」に関する解説書第2版(2016年10月)

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