電帳法「電子取引」の検索要件【2】PDF領収書等は要件達成が難しい

電子帳簿保存法における電子取引は、税務署への申請に関係なく、すべての法人・個人事業主に関係するものです。しかし、先例や文献は少なく、内容を理解するのも難しいといえます。

とりわけ難しいと筆者が考えているのは、電子取引における検索要件です。現状の理解を整理する意味で、ブログに筆記しておきます。

2回目は、PDFの領収書等をネット経由で受け取った場合に、電子取引における検索要件を満たすことを考えます。

説明のポイント

  • 現状(令和3年度税制改正以前)の要件で、PDF形式の領収書等を電子保存する方法の検討
  • 帳簿と紐付ける方法が推奨される
スポンサーリンク

 

電子取引とPDF

電子取引のうち、もはや一般的といえるのは、ネット通販で購入した場合に電子メールやPDFでの請求書や領収書を受け取ることでしょう。

この点については、当ブログでも4年前の2017年に一度言及したことがあります。

電子帳簿保存法第10条における「電子取引」の保存要件について、興味深い解説を紹介します。また、ネット...

ただし、その当時にあまり触れなかった点があります。その点とは、検索要件のことです。

この点が令和3年度税制改正の対象とされたため、前後を整理しておく必要があると考えます。現状を理解することで、改正への理解も深まるからです。

検索要件とは?

電子取引の検索要件については、前回の記事で紹介しました。

電子帳簿保存法における電子取引は、税務署への申請に関係なく、すべての法人・個人事業主に関係するもので...

JIIMAの解説書にも、検索要件の解説がありますので、あわせてご参照ください。

なお、これは令和3年度改正を反映していない内容ですので、ご注意ください。

電子取引で発行されたPDF形式の領収書等

2017年の状況を思い出すと、国税庁の電子帳簿保存法Q&Aでは、PDF形式の領収書等についての記載はありませんでした。

2017年のQ&Aを見ると、電子取引の解説は3件しかありません。(参考国会図書館アーカイブより、国税庁ホームページの電子帳簿保存法Q&A(2017年4月1日)

その後の現在では、電子取引に関する国税庁Q&Aが大幅に充実し、取扱通達2-3に関する解説が具体的に追加されています。

現時点(2021年)のQ&A「電子取引」問3より、PDFの領収書等に関する部分を引用します。

問3 当社は以下のような方法により仕入や経費の精算を行っていますが、データを保存しておけば出力した書面等の保存は必要ありませんか。
(1) 電子メールにより請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)を受領
(2) インターネットのホームページからダウンロードした請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)又はホームページ上に表示される請求書や領収書等の画面印刷(いわゆるハードコピー)を利用
(3)~(7) 略

【回答】
(1)~(7)のいずれも「電子取引」(法2六)に該当すると考えられますので、所定の方法により取引情報(請求書や領収書等に通常記載される日付、取引先、金額等の情報)に係るデータが保存されていれば、出力した書面等を保存する必要はなく、また、別途書面の請求書等を授受する必要もありません。
ただし、以下の点に留意が必要です。

イ (1)(2)については一般的に受領者側におけるデータの訂正削除が可能と考えますので、受領したデータに規則第8条第1項第1号のタイムスタンプの付与が行われていない場合には、受領者側でタイムスタンプを付与すること又は同項4号に定める事務処理規程に基づき、適切にデータを管理することが必要です。また、対象となるデータは検索できる状態で保存することが必要ですので、当該データが添付された電子メールについて、当該メールソフト上で閲覧できるだけでは十分とは言えません。

このQ&Aで示したとおり、ネット経由で発行されたPDFの領収書等は、電子取引に該当します。そして、この記事でのテーマであるのが、太字で示した部分である検索要件についてです。

検索要件を満たすことは、電子取引における保存要件の一つとされていますが、このQ&Aで書かれているとおり、メールソフトの添付状態で保存したPDFでは、保存状況としては不完全であることが明示されています。

では、どのように検索要件を満たせばいいのかを考えると、その点を具体的に指示した内容は見当たらないので困ってしまう……という状況にありました。

現時点(2021年)のQ&A「電子取引」問22を見ても、「サーバ等に保存」「自社システムに保存」というばかりで、実務におけるイメージがつきづらいです。

PDF保存の領収書等についてどのように検索要件を満たすか?

では、どのようにPDF形式の領収書等を保存すれば、検索要件を満たすことができるのでしょうか?

資料から具体的な例を挙げてみます。

1.PDFを帳簿に紐付ける

もっとも理想的なのは、領収書等のPDFをダウンロードしたのち、これを会計システムに紐付けることでしょう。

  • PDFをアップロードして、そこから仕訳を作成する
  • すでに作成された仕訳に、PDFを紐付ける

といった手法であれば、「取引年月日、取引金額」などの項目に応じて、組み合わせで検索することも容易といえます。

電子帳簿保存法に関してもっとも多く参照されている解説書と思われる、袖山喜久造税理士監修『詳説 電子帳簿保存法』(2020年)でも、電子取引データの保存要件に帳簿との相互関連性の確保はないものの、検索機能の確保のために請求書データと帳簿データについて紐付けして保存する必要性が言及されています(P.269)

また同書のスキャナ保存の項目について見ると、帳簿検索から書類データを表示することで検索要件を満たすことが多くなっている、と述べています(P.215)

電子取引としてのPDF形式の領収書等は、スキャナ保存のPDFと似たような扱いを受けるであろうことから、この見解も参考になります。

2.PDFを集計表に紐付ける

クラウド会計のようなソフトにPDFを紐付ける方法以外にも、集計表をExcelなどで作成し、これに取引年月日、取引金額などの情報とともに、PDFデータを紐付ける方法が考えられます。

Excelであれば、絞り込みや、組み合わせ検索も可能であるため、現行の検索要件を満たすことが可能といえます。

この方法は、電子帳簿保存法に関して著作のある佐久間裕幸公認会計士・税理士が、日本税務会計学会(2020年11月)において発表された方法です。ただし、これは本発表のあとに意見として言及されたものです。

このため、筆者(私)がここで述べるのもおこがましいことになりますが、現状の検索要件における見解の一つとして重要であると考え、ご紹介しました。

3.PDFに含まれる文字情報を直接検索する

PDF自体が、文字情報を保有することから、単にパソコン内部にPDFを保存したとしても、ここから取引年月日や、金額などを検索することは可能といえます。

ただし、この点は微妙な問題を抱えています。

まず、PDFの保存については、文字情報を保有しないPDFも存在するということです。この対応については、PDFのファイル名に取引情報を付与すれば、対応は可能といえます。

難しいのは、組み合わせ検索や範囲指定です。OSに付属する検索機能では、このような高度な検索は不可能でしょう。

ただし、令和3年度税制改正では、この検索要件が大幅に緩和されるため、ローカルのドライブへの保存でも今後は対応できるかもしれません。この点については次回の記事で検討します。

まとめ

電子帳簿保存法における電子取引について、検索要件を検討しています。

第2回目は、PDFの領収書等が発行された場合に、この検索要件をどのように満たすのか、という点を整理しました。

令和3年度税制改正以前の制度では、単に領収書等のPDFをローカルのドライブに保存しただけでは、電子取引の検索要件を満たすことは難しいといえます。

この電子取引の検索要件の困難さと、インボイス制度における電子インボイスの保存義務が関係し、令和3年度税制改正に至ったのでは、という推測もできそうです。

次回の解説では、令和3年度税制改正の内容を検討します。

電子帳簿保存法における電子取引は、税務署への申請に関係なく、すべての法人・個人事業主に関係するもので...

スポンサーリンク