ネット通販の領収書は印刷不要か? 電子帳簿保存法第10条の電子取引とは

電子帳簿保存法第10条における「電子取引」の保存要件について、興味深い解説を紹介します。また、ネット通販の領収書は印刷する必要があるのか? という素朴な疑問についても触れます。

説明のポイント

  • 電子取引のデータは、データのまま保存するのが原則
  • 事務処理規程の整備など、保存要件を満たす必要がある
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電子取引における電磁的記録の保存

電子帳簿保存法というと、「スキャナ保存制度」にスポットライトが当たっていることから、「税務署に申請しないなら、別に関係ないんでしょ?」というイメージが先行しています。

しかし、電子帳簿保存法における「電子取引」については、税務署の承認は関係なく、電子取引をしているすべての企業・個人事業主に関係のある法令です。

電子取引が発生している場合は、電子帳簿保存法の保存ルールに従う必要があります。このルールを守っていない場合は、青色申告の取り消しの恐れもあります。

これまで税務調査で何も言われなかったとしても、それは単に調査官が電子帳簿保存法をよく理解していなかった、という可能性もあります。

電子取引とは何か

電子取引とは、電子帳簿保存法の第2条に定義されています。

取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいう。以下同じ。)の授受を電磁的方式により行う取引をいう。

また、電子取引の詳細について、電子帳簿保存法取扱通達2-3は、次の取引を例示しています。

(1)いわゆるEDI取引
(2)インターネット等による取引
(3)電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイルによる場合を含む。)
(4)インターネット上にサイトを設け、当該サイトを通じて取引情報を授受する取引

乱暴にいえば、ネットで商取引をしたら、それが「電子取引」ということです。

電子取引の情報はどのように保存すべきか

電子取引に関する保存の定めは、電子帳簿保存法の第10条に見られます。

(電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存)
第十条  所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。ただし、財務省令で定めるところにより、当該電磁的記録を出力することにより作成した書面又は電子計算機出力マイクロフィルムを保存する場合は、この限りでない。

この条文を読むと、電子取引を行った場合の記録の保存方法は、原則が「電磁的記録の保存」となっており、例外(ただし書き以降)が「印刷した書面の保存」ということになっています。

つまり、なんでもかんでも紙に印刷して保存するということではなく、電子取引については定められた要件のもとに「電磁的記録」で保存するのが自然です。この保存については、当然ながら税務調査においても、調査の対象範囲に含まれます。

電子取引に関する法令等の理解については、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会が発表した「電子取引データの保存の考え方」という解説書が詳しいです。

この解説書では、電子帳簿保存法第10条における「電子取引」に関して、法令から通達までの読み方を説明しています。

参考:【PDF】電子帳簿保存法第10条「電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存」に関する解説書第2版(2016年10月)(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会)

このほかに、柴田孝一氏(セイコーソリューションズ株式会社)の記事も、電子帳簿保存法における電子取引の位置づけを理解する上でわかりやすいので、おすすめです。

参考第17回 電子帳簿保存法第10条「電子取引の取引情報保存」(ERPNAVI by 大塚商会、2017年2月14日)

ネット通販の領収書は印刷すべきか

最近、この「電子取引」に関する内容で興味深い解説が見られました。船越洋明氏(株式会社コンカー)が投稿した記事です。

参考電子帳簿保存法・スキャナ保存対応 ポイント解説「電子領収書はどのように取り扱えばいいか?」(コンカー、2017年3月28日)

内容は読んでいただくとして、かいつまんでいえば、ネット発行の電子領収書は印刷してからスキャナ保存するのではなくて、もともと「電子取引」なのだから、そのまま電磁的記録として保存するのが本来のかたちである、ということです。

スキャナ保存制度ばかりが注目を集めていますが、電子取引についてもよく理解しないと、スキャナ保存への対応を誤る可能性もありそうです。

ネット通販の領収書は印刷不要か? という疑問

「ネット通販のネットで発行された領収書って、印刷しなきゃだめなの?」ーー個人事業主や、ひとりで働いている社長であれば、こう思うこともあるはずです。

この疑問の背景には、クレジットカードの明細データを読み取って、自動記帳するクラウド会計ソフトの機能が挙げられるでしょう。

会計ソフトが自動記帳するので、自分で紙の領収書を見ながら帳簿を入力する工程は不要です。このため、なんでもかんでも領収書を印刷することの意味が薄れつつあり、無駄に感じるわけです。

会計事務所に記帳を丸投げしている場合は、すべての請求書や領収書を印刷することを確認用に求められるはずです。しかし、自分で記帳することが当然になれば、印刷不要のニーズも増えてくるでしょう。

疑問への答え

先の疑問の回答です。電子帳簿保存法取扱通達2-3と趣旨の解説によれば、ネット通販はASP(Application Service Provider)事業者を介した「電子取引」に該当します。

そして、電子取引における電磁的記録の保存については、次の要件が示されています。

  1. 事務処理規程を作成する(またはタイムスタンプを付す)
  2. 取引情報に係る電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に速やかに出力できる
  3. 国税に関する法律の規定に基づく保存期間保存されるなどして当該保存期間を通じて当該電磁的記録の内容を確認できることが契約書等で明らかにされている

つまり、上記の要件を満たせば、ネット通販の領収書は印刷不要です。事務処理規程を作成するなど要件を満たして、領収書を電磁的記録として保存します。

通販会社の購入履歴では、7年も前の履歴は参照できない恐れがあります。購入時の履歴が電子メールで参照できない場合は、領収書のPDFをダウンロードして保存する必要があるでしょう。

これらの要件を満たさないままで、紙にも印刷していない場合は、電子帳簿保存法と関連税法の要件違反になります。

【追記】当記事初出時では電子データの検索要件について触れていませんでした。電子取引のデータ保存要件では、検索要件も必要とされています。

【更新】事務処理規程の作成について

2017年7月4日、国税庁が更新した電子帳簿保存法Q&Aにおいて、「(電子計算機を使用して作成する帳簿書類及び電子取引関係)問58」に、ひな型「電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」が示されています。

規程の作成については、ひな型をもとに作成すればよいでしょう。

国税庁が示したひな型は、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会が発表した【PDF】電子帳簿保存法第10条「電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存」に関する解説書第2版(2016年10月)のP.21 をベースとしていると考えられます。

まとめ

電子帳簿保存法第10条における「電子取引」について、最近の情報から興味深い解説を紹介しました。

電子帳簿保存法は、話題のスキャナ保存にとどまらず、電子取引についても理解が必須と考えます。実務に関わる方は、日本文書情報マネジメント協会の解説書を一読しておくとよいでしょう。

参考文献

袖山喜久造『改正電子帳簿保存法 完全ガイド』(2016年)
国税庁 電子帳簿保存法関係法令集等
公益社団法人日本文書情報マネジメント協会【PDF】電子帳簿保存法第10条「電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存」に関する解説書第2版(2016年10月)

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