令和3年度税制改正により、電子帳簿保存法の抜本改正が行われます。
この抜本改正の影響で、かげに隠れてしまった改善要望を拾い上げてみます。今回は「電子計算機処理に関する事務手続を明らかにした書類」の緩和は実現していない点を採りあげます。
説明のポイント
- 電子帳簿保存法が抜本改正されても、「電子計算機処理に関する事務手続を明らかにした書類」の作成は必要。改正要望が当初出ていたが、緩和は実現しなかった
- 小規模企業には要件として厳しすぎるのではないか、という疑問
「電子計算機処理に関する事務手続を明らかにした書類」とは
帳簿書類の電子保存やスキャナ保存を行う場合、「電子計算機処理に関する事務手続を明らかにした書類」の備え付けが必要です。
この点については、以前の記事で説明しましたので、内容の説明は省略します。
日商は緩和要望を出していたが……
振り返ってみると、この「電子計算機処理に関する事務手続を明らかにした書類」についても、緩和の要望が出ていました。
令和3年度改正の発端となった、政府税制調査会 第1回納税環境整備に関する専門家会合(2020年10月7日)から、日本商工会議所作成の資料を確認します。
日本商工会議所作成の資料によると、電子帳簿保存法への対応の課題において、「帳簿の作成・保存等に係る事務処理規程を作成できない」という意見があると述べていました。
引用:中小・小規模事業者における帳簿の重要性と電子化に向けた課題(日本商工会議所、2021年10月)
この改善案として、「小規模企業者特例として事務処理規程を不要とする等、「関係書類の備付け」要件を緩和する」という要望を出していました。
しかし、この要望は改正には採用されず、改正後の電子帳簿保存法においても、「事務手続を明らかにした書類」の備え付けはこれまでどおり必要とされています。
この規程にこだわる意味は?
帳簿書類の保存にかかる「電子計算機処理に関する事務手続を明らかにした書類」のサンプルを引用します。
国税関係帳簿に係る電子計算機処理に関する事務手続を明らかにした書類(概要)
(入力担当者)
1 仕訳データ入出力は、所定の手続を経て承認された証票書類に基づき、入力担当者が行う。(仕訳データの入出力処理の手順)
2 入力担当者は、次の期日までに仕訳データの入力を行う。
⑴ 現金、預金、手形に関するもの 取引日の翌日(営業日)
⑵ 売掛金に関するもの 請求書の発行日の翌日(営業日)
⑶ 仕入、外注費に関するもの 検収日の翌日(営業日)
⑷ その他の勘定科目に関するもの 取引に関する書類を確認してから1週間以内(仕訳データの入力内容の確認)
3 入力担当者は、仕訳データを入力した日に入力内容の確認を行い、入力誤りがある場合は、これを速やかに訂正する。(管理責任者の確認)
4 入力担当者は、業務終了時に入力データに関するデータをサーバに転送する。管理責任者はこのデータの確認を速やかに行う。(管理責任者の確認後の訂正又は削除の処理)
5 管理責任者の確認後、仕訳データに誤り等を発見した場合には、入力担当者は、管理責任者の承認を得た上でその訂正又は削除の処理を行う。(訂正又は削除記録の保存)
6 5の場合は、管理責任者は訂正又は削除の処理を承認した旨の記録を残す。
このようなサンプルになっているのは、改正後通達4-6において、次の内容が必要とされているためです。
入出力処理(記録事項の訂正又は削除及び追加をするための入出力処理を含む。)の手順、日程及び担当部署並びに電磁的記録の保存等の手順及び担当部署などを明らかにした書類
この点は改正前から変更されていないが……
この通達は、改正前と比較してとくに変化はありません。
しかし、改正前の備え付け要件はそもそも承認制度が前提であり、電子帳簿保存法に対応するソフトを利用する必要がありました。
改正後では、優良以外の電子帳簿では、訂正削除履歴に関するソフトの要件はありません。それにもかかわらず「事務手続を明らかにした書類」においては、相変わらず手順(業務サイクル)を規程において定めるように求めたり、訂正削除の履歴を残すように求めている点は気になるところです。
これはスキャナ保存だけでなく、優良以外の電子帳簿でも同様の扱いです。
誤解のないようにいっておくと、筆者は訂正削除履歴を残すことに批判的なわけではありません。小規模企業や中小企業の事務負担、導入までの心理的抵抗感を考慮すると、ハードルが高くなってしまうのではないかという点を危惧しています。
そもそも、電子帳簿保存法の抜本改正が要請されたのは、導入に対応するための事務負担が重かったためでした。
それにもかかわらず、細かい部分を見ていくと、改正後も同様に「改正前の厳しい水準を求めている部分」があるわけです。
規程のサンプルには「2 入力担当者は、次の期日までに仕訳データの入力を行う。」などと示されています。そんな部分を読むと、小規模企業において抵抗感が生じるのは当然です。業務サイクルを書面で約束することは、心理的に難しいこともあるからです。
先ほど掲載した日本商工会議所の資料でも、電子帳簿保存法の対応課題として「社内の運用体制が不十分」とする回答は最上位になっていました。
「小規模企業者特例」は再検討されてもいいのではないか?
筆者の意見をいうと、コンピュータ作成における帳簿書類においては、このような書類を作ることにそこまでの意味を感じません。とくに小規模企業においては、その傾向が顕著といえます。
たとえば会計帳簿を会計ソフトで作成したとして、その電子データをプリントした「プリント帳簿」であれば規程は不要だが、電子データで保存するならば「規程が必要」というのは、税法の要件はともかく、本質的にどこまで意味があるのか? という点で疑問を覚えるところでしょう。プリント帳簿であれば改ざん防止になるわけではありません。
また、訂正削除の履歴を書面で残すとしても、電子データで履歴が残らないのであれば、本当に意味があるのかは定かではありません。(※これは電子取引でも同じ話で、けん制としての実効性が問われる部分でしょう)
日本商工会議所が以前の改正要望で示していたように、「小規模企業者特例として事務処理規程を不要とする等、「関係書類の備付け」要件を緩和する」という要望は、引き続き検討されてよいように思われます。
まとめ
電子帳簿保存法の抜本改正の陰で隠れてしまった部分を検討する記事をお伝えしました。
今回は「電子計算機処理に関する事務手続を明らかにした書類」の緩和は実現しなかった点を採りあげてみました。
帳簿の電子保存の導入は容易になったとしても、その入り口となる部分で「規程の作成」が求められます。
そのなかでは業務サイクルや訂正削除の履歴を残す要請が見られるため、小規模企業では心理的抵抗感が大きいようにも思われます。