財務省担当官の解説より 電子取引が紙印刷不可の理由と、要件不備の場合の考え方

先日公表された財務省担当官による令和3年度税制改正の解説において、電子帳簿保存法のうち、電子取引に関する改正について気になる記述がありましたので、かいつまんで紹介します。

説明のポイント

  • 電子取引の紙保存が廃止されたのは、「他者から受領した電子データとの同一性が担保されないこと」が理由
  • 要件不備の場合は、「納税者における追加的な説明や資料提出が必要となるものと考えられます」とのこと
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電子取引が紙印刷不可にされた理由

令和3年度改正で、電子取引にかかる電磁的記録については紙印刷の措置は廃止されました。この理由が、財務省担当官の解説(P.980)に見られました。

これまで、出力書面等については、真実性の確保の要件を満たす措置(上記Ⅰ3⑴参照)を行う必要がありませんでしたが、税務手続の電子化を進める上での電子取引の重要性に鑑み、他者から受領した電子データとの同一性が十分に確保されないことから、出力書面等による保存措置を廃止することとされたものです。

と書かれています。(太字はブログ筆者による)

この点、電子データで受け取ったものは、そのまま保存するのが自然といえますので、とくに違和感はないでしょう。

要件を満たさない電子取引の記録保存はどう扱われるのか?

電子取引にかかる電磁的記録は、「国税関係書類以外の書類とみなす」とされています。

この点について解説した部分を読むと、電子取引にかかる電磁的記録について保存要件を満たさない場合の考え方が示されていました。(P.980及びP.982)

この改正後においては、所得税(源泉徴収に係る所得税を除きます。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引の取引情報に係る電磁的記録について、上記Ⅰ 3 の⑴から⑷までの要件に従って保存を行うことができない場合には、その電磁的記録は、国税関係書類以外の書類とみなされませんが(上記Ⅰ 4 ⑵参照)、申告内容を確認するための書類となり得るものとして、その電磁的記録の保存を行うことが求められます。(P.980)

要件未達の場合は、通常どおりの「国税関係書類以外の書類」とはみなされないが、それでも保存は必要であると書かれています。

この「国税関係書類以外の書類」とみなされる電磁的記録については、所得税法及び法人税法における保存書類とみなされるものではありませんが、申告内容を確認するための書類となり得ることとなります。なお、保存要件に従って保存が行われていない電磁的記録については、「国税関係書類以外の書類」とみなされないことから、申告内容を確認するためのものとして扱われるためには、納税者における追加的な説明や資料提出が必要となるものと考えられます。(P.982)

そして、要件未達の場合の補足の手段として、「申告内容を確認するためのものとして扱われるためには、納税者における追加的な説明や資料提出が必要となるものと考えられます」と述べられています。

書面印刷は廃止された一方で、検索要件に対応しきれない懸念も多々ありましたが、要件未達の場合でも追加説明・資料提出などによって補うことが認められる場合もあり、要件未達=即「青色取消し」ということではない……という感じでしょうか。

解説は担当官の私見とされていますが、このあたりはグレーゾーン含みという感じです。今後改訂される国税庁Q&Aも確認したいところです。

細かい点ですが……

先ほど引用した部分(P.982)のうち最初のところをもう一度ご覧いただきたいのですが、保存要件を満たした場合の電子取引の電磁的記録について読んでみると、なぜか「申告内容を確認するための書類となり得ることとなります」と書かれています。

この点、なぜ「なる」という言い切りではなく「なり得る」というぼかし表現なのでしょうか?

保存要件を達成していないものであれば、「なり得る」という可能性含みであることはわかります。これは前述のとおりです(P.980)。

しかし、保存要件を達成したものについては、確認するための書類(=国税関係書類以外の書類)であることは明らかなのに、それでもなぜか「なり得る」という書き方で、一歩後ろに引いたような表現になっています。

「ダウンロードの求めに応じる」とは?

今回の改正で新たに登場した要件のひとつである「ダウンロードの求めに応じること」という内容も気になるところです。

この点と、質問検査権との関係がどうなっているのかについて、財務省担当官の解説が「注」の部分にありました。(P.968)

上記のダウンロードの求めについては、国税関係帳簿書類の電磁的記録等による保存制度の適用の有無にかかわらず、税務当局において、質問検査権の行使(具体的には「国税に関する法律の規定による…… 提示又は提出の要求」)として行うことができることとされているものです。

電子帳簿保存法だけを見ると、「ダウンロードの求めに応じること」という要件になっており、まるでもう一つの選択肢として「応じない」があるようにも見えます。

しかし、この解説を読むと、「ダウンロードの求め」はもともと質問検査権が根拠だから、「応じる」という選択肢が通常、という理解になるのでしょうか。

なお、従来の「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」問5を読むと、電磁的記録については、「提出」とはプリントしたものを渡すことがメインで、ファイルコピーはサブ的な書き方になっています。

ちなみに、説明上の「ダウンロード」という言葉は簡略的な表現であり、施行規則では「提示又は提出」と書かれています。

一般的に「ダウンロード」とは「提出」を意味しているものと理解されるでしょうが、画面に「提示」した場合でも、電子帳簿保存法の要件上は容認されるのでしょうか。

まとめ

最近公開された、財務省担当官の令和3年度税制改正の解説から、電子帳簿保存法における部分の説明のうち、気になる点をピックアップしてみました。

話の内容としては週刊「税務通信」3662号にも取材内容として触れられているとのことで、内容として重複していそうです。

この点の順序を見ると、財務省担当官の解説として公表できるようになったものを、メディアにも明らかにしたという流れになるのでしょう。

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