ここ数年の税制改正大綱を読んでいて思うことですが、電子帳簿の保存制度への関心は薄れているように読めます。内容を比較して、気になる点をとりあげてみます。
令和3年度改正を振り返る
令和3年度では、電子取引に関する資料の保存制度の改正が注目されました。
あくまでブログ筆者の理解ですが、バックオフィスの業務改善の必要性が背景にあり、普及が進んでいたクラウド会計と、保存状態があやふやになりやすい電子データを紐づけて、トレーサビリティを確保しようという改正の意図があったと思われます。
電子データを印刷して元データを削除すると、もし改ざんがあっても確認は難しくなります。当局の意向である「元データは削除しないでね」という話が、クラウド会計の普及、データ紐づけへの理想的な目標とあわさった結果、制度改正が理想論化しやすくなったのかもしれません。
理想に比べて現実が追いついておらず、結果として急進的な改正になってしまい、混乱が巻きおこったのはご記憶のとおりです。念のためですが、検索要件が緩和されたことにも留意が必要です。制度の厳格化ではなく、もともとは保存要件の緩和がメインだったはずです。
平成17年度改正以降、電子取引に関する資料の保存制度はほどんど手つかずで、かたやインターネットの普及と電子取引の複雑化は大きく進んだ状況でした。結果を見ての批判になってしまいますが、改正の検討はもう少し慎重に行うべきだったのでしょう。
一般帳簿は「当面可能」
また、以前の記事でも紹介しましたが、当時において電子帳簿の一般帳簿の保存については、制度創設に反対する意見があったと報じられています(参考)。
そして、令和3年度の与党大綱では「その他の電子的な帳簿についても、正規の簿記の原則に従うなど一定の要件を満たす場合には電子帳簿として電子データのまま保存することを当面可能とする」(大綱P.9)という内容が書かれていました。
この点について、令和5年度では「その他の電子帳簿についても、正規の簿記の原則に従うなど一定の要件を満たす場合には電子帳簿として電子データのまま保存することを可能としたところである」(大綱P.20)と言及がありましたが、令和3年度の「当面可能」をどうするかについては言及はありませんでした。
その後の6年度、7年度でも言及はないようです。
「近年、普及しつつあるクラウド会計ソフトを活用」
記帳水準の向上への言及において、令和3年度では「近年、普及しつつあるクラウド会計ソフトを活用」(大綱P.16)という言及がありました。
近年、普及しつつあるクラウド会計ソフトを活用することにより、小規模事業者であっても大きな手間や費用をかけずに正規の簿記を行うことが可能な環境が整ってきていることも踏まえ・・・
しかし、令和4年度では「近年、普及しつつある会計ソフトを活用」(大綱P.10)という文面で、「クラウド」の文言が削られました。
なぜ「クラウド」が削除されたのかは不明です。上記したとおり、令和3年度改正の電子取引におけるクラウド会計への傾斜が批判的に見られて、これが影響した可能性もあるかもしれません。
令和5年度、6年度も「近年、普及しつつある会計ソフト」で同じだったのですが、令和7年度ではさらに縮小して、「近年、会計ソフトを活用」(大綱P.12)になっています。
近年、会計ソフトを活用することにより、小規模事業者であっても大きな手間や費用をかけずに正規の簿記を行うことができる環境が整ってきている。
会計ソフトを活用して帳簿の作成に取り組んでいるのは、べつに近年に限らない話でしょう。令和3年度の文章と比較すると、なんだかよくわからない感じになっています。
なお、令和7年度の「検討事項」でも、帳簿に関する言及はなくなっています。
まとめ
令和3年度から7年度までの与党大綱における、電子帳簿への言及を整理してみました。
ブログ筆者の印象としては、表現や目標としては後退し、関心も薄れているイメージを持ちました。
税務のトレンドでも、電子帳簿についての意見も見かける機会は減ったように思われます。
令和3年度改正の理想や目標をどう考えるかは、それぞれの意見があるでしょう。クラウド会計が普及しつくした時期において、改めて日の当たる機会もあるのかもしれません。