新制度の電子帳簿保存法はスマホ撮影に対応し、利用しやすくなるといわれています。クラウド会計を利用している場合の、現時点での電子帳簿保存法への考え方をお伝えします。
説明のポイント
- 書類の保管が不要になる制度だが、導入には準備も必要
- 導入までの留意点を挙げている
- クラウド会計の対応状況のまとめ
書類の保管が不要になる制度
政府は、紙による文書保管を不要にする「e-文書法」を推進しています。
このうち税金に関する分野では「電子帳簿保存法」という、帳簿書類(領収書や請求書)などの紙の保管を不要とする制度がつくられています。
電子帳簿保存法のメリットは、次のとおりです。
- 紙の保管が不要になり、保管スペースが軽減できる
- 書類の紛失リスクを減少できる
- パソコンを前提とした業務に移行できる
- 経費精算などの業務負担を軽減できる
電子帳簿保存法の改正により、新制度に対応する申請の受け付けが、平成28年9月30日から始まります。新制度では、次の改善が図られています。
- スマホによる撮影でのスキャン保存が可能になった
- ひとり会社も含む小規模企業者(※おおむね常時使用する従業員の数が20人(商業又はサービス業については5人)以下の企業・個人事業主)は、社内で相互チェックのしくみがない場合、その部分を税理士に依頼できる
一見、便利そうだけれど……
保管すべき紙を破棄してよいならば、「便利そうだし、一度やってみたい」と興味を示す企業もあるでしょう。
しかし、導入までの道筋には当然苦労がつきもので、次の負担が生じます。
- 税務署に申請書を提出する(→【PDF】国税庁による記載例)
- 社内規程をあらかじめ整備する(→【PDF】国税庁による規程サンプル)
- 対応するシステムの導入を検討する
業務負担の軽減が見込めるとしても、これまでの業務ルールを変更するのは、当然ながら労力が必要です。社長と経理、関与する税理士が意欲的にならないと、実現への道のりは困難といえます。
また、小規模な企業の場合、経理業務は思ったほど複雑ではありません。このため、期待していたよりも得られるメリットが小さい懸念もあります。
その他の留意事項も挙げておきます。
- 思い立ってもすぐに承認は受けられない。導入予定日の3ヶ月前の日までに、あらかじめ申請書を提出して承認を受ける
- 書類等を受領・作成したのち記録の入力・タイムスタンプの付与までに期間の制限があるため、業務のフローが滞りなく処理されていることが条件
- 紙をスキャンしても即座に破棄できるわけではない。きちんとスキャンできたのか確認も必要
- タイムスタンプを付与するには、コストがかかる。(※クラウド会計系では、タイムスタンプの費用も標準料金に含まれていることが多い)
- 規程や体制を整備して、チェック担当者を設ける。例えば、社長が経理を兼ねている場合や、自分ひとりで働いている場合は、社外の税理士などにチェックを依頼する。(※一人だけの会社・個人事業主では、税理士の関与が必要)
- クラウドサービスに書類データを保管した場合は、あとで電子帳簿保存法への対応を取りやめた場合は、そのデータを出力する必要がある
- 他のサービスに移行しても、旧サービスで保管している書類データをそのまま移行するのは難しい
電子帳簿保存法の詳しい要件は、国税庁の資料を参照してください。内容を理解するのは難しい点もありますので、税理士に質問しながら導入の可否を検討するのがよいでしょう。
参考
- 【PDF】電子帳簿保存法におけるスキャナ保存の要件が改正されました(平成28年8月)(国税庁)
- 電子帳簿保存法Q&A(国税庁)
- [手続名]国税関係書類の電磁的記録によるスキャナ保存の承認申請(国税庁)
クラウド会計を利用している場合はどうか?
データを手もとに保管しないクラウド会計と、電子帳簿保存法の関係は、指向的に相性のよい組み合わせです。また、電子帳簿保存法への対応を検討する企業は、IT投資への理解度が高いことから、クラウド会計を利用している割合も高いと考えます。
そこで、会計分野のクラウドサービスを提供する業者において、電子帳簿保存法への対応状況を見てみます。
先行して電子帳簿保存法への対応を進めていたfreeeでは、タイムスタンプを付与する機能を実装しており、参考になります。
freee
- 電子帳簿保存法への対応に積極的で、サービスを実施済み
- 個人・法人ともに最上級の料金プラン(月額3,980円/税抜)の利用で、電子帳簿保存法に対応
- タイムスタンプの付与に対応
- 領収書の読み取りはOCR
参考:電子帳簿保存法への対応/料金プラン(freee)
参考:レシート類の原本を破棄可能にする(電子帳簿保存)(freeeヘルプセンター)
MFクラウド会計・MFクラウド確定申告
- 新制度の電子帳簿保存法とタイムスタンプの付与に対応予定
- MFクラウド会計に連携した経費精算サービス「MFクラウド経費」は、電子帳簿保存法に対応すると発表
参考:電子帳簿保存法に対応(MFクラウド会計)
参考:電子帳簿保存法への対応(MFクラウド経費)
弥生会計
- スキャナ保存制度に対応しており、タイムスタンプ付与にも対応
- 領収書の読み取りはOCR
- 経費精算は「Staple for 弥生」で、電子帳簿保存法とタイプスタンプ付与に対応予定
- ScanSnap(スキャナー)の0円レンタルサービスを実施中
参考:やってみよう!スキャンデータ取込(弥生)/Staple for 弥生
参考:スキャナ保存制度オプション有効中の、タイムスタンプの確認方法(弥生オンラインサポート)
クラビス「STREAMED」
経費精算・入力代行サービスのSTREAMEDにおいても、電子帳簿保存法への対応がアナウンスされています。
参考:電子帳簿保存法の対応について(STREAMEDヘルプセンター)
まとめ
クラウド会計に関する各社の対応状況を見てみると、今の段階ではまだ情報が出そろっていません。検討する情報が集まってからでも、その決断は遅くないでしょう。
実際に導入を検討する場合は、業務フローの見直しを始めることも必要でしょう。なお、新しい業務フローの準備が整ったとしても、電子帳簿保存法の申請を急ぐ必要はありません。
一定期間は紙と電子データを並行して保存しつつ、業務に問題ないことを検証してから移行することでもよいでしょう。