このブログでも何度か触れてきたように、電子取引の電子データは「国税関係書類以外の書類」とみなされます。
もし将来的に電子取引が商取引の主流となった場合、保存されているのは「国税関係書類以外の書類」とみなされた電子データが大半になるわけですが、それで問題はないのでしょうか。
うっすらと疑問に感じていることで、ブログに記しておきます。
説明のポイント
- 「効率化」の到達点は、すべての取引が電子取引になること
- 電子取引による電子データは「国税関係書類以外の書類」とみなされるが、それが保存書類の大半を占めることになった場合でも、税務上の位置づけとして支障はないか
紙は減り、電子データは増大する
前回の記事に関連しますが、電子レシートの普及を進めるためとして、適格簡易請求書も電子インボイスとして交付が可能になった、という改正が平成30年度にありました。
この点を見てもわかるとおり、経理や税務において紙は減少し、電子データは今後も増大する流れを否定することは難しいでしょう。
また、平成27年度改正から令和3年度改正にかけて、スキャナ保存は電子帳簿保存法の話題の中心となってきました。
しかし、そもそもその取引が最初から電子取引であれば、紙は生じなかったはずです。つまりスキャナ保存とは、電子取引へ移行する「前段階の過程」の話であって、どうしても紙の書類が発生する場合の暫定的な対応と見ることができるでしょう。
「効率化」の到達点は、取引の過程で紙は介在せず、すべてのやりとりが電子取引になることです。
ゴタゴタはありましたが、令和3年度改正において、電子取引におけるオリジナルの電子データの保存を当局が要請したのも、取引に関する電子データが飛躍的に増加し、その保存の重要度も年々高まっているからと見ることができるでしょう。
電子取引のデータは「国税関係書類以外の書類」とみなす
電子帳簿保存法によれば、電子取引における電子データは「国税関係書類以外の書類」とみなすこととされています。
この点、なぜ「国税関係書類」ではなく、「国税関係書類以外の書類」とみなすのでしょうか?
以前、この意味を解説する文献を探してみたのですが、筆者のとぼしい力量では、結局のところ、よくわかりませんでした。
このため、以前のブログにも書いた考察を再度述べておきます。
まず「国税関係書類」とは、紙の書類です。一方、電子データで、それを「国税関係書類とみなす」ことができるのは、自己が一貫してコンピュータで作成した電子データを紙に出力したもの(データ→書類)か、スキャンして保存したもの(書類→データ)に限定されます。
これは、紙と対応する電子データが、限りなく同一である可能性が高いことで、「国税関係書類とみなす」ことが可能であると思われます。(※コンピュータ作成の場合は出力直前のデータを保存し、スキャナ保存の場合はタイムスタンプを利用することで同一性を担保する)
この点、電子取引を考えてみると、「国税関係書類」とみなせるかは難しいといえます。電子取引はもとから電子データで、同一性の比較対象である紙の書類が存在しません。
このため、電子取引における電子データを紙の「国税関係書類」に含めることはできず、それでも税務調査の対象に含めるためには無視もできないので、やむをえず「国税関係書類以外の書類」とみなさざるをえないのではないか……と、筆者のなかで納得しています。
将来的に電子データが主体となったらどうなる?
あくまで将来の想像ですが、紙によるやりとりが一切存在せず、すべてのやりとりが電子データで済むようになったら、税務はどうなるのでしょうか。
税務調査でも、会議室に段ボールやファイルを積み上げる必要はなく、「そこにコンピュータ(もしくはクラウド)があるので、あとは帳簿書類を好きに見てください」ということになるのでしょうか。
こうした将来像のなかで気になっているのは、前述のとおり電子取引における電子データが「国税関係書類以外の書類とみなす」と位置づけられていることです。
紙の書類は存在せず、電子データがメインということであれば、会社に保存されているものは、紙の書類(国税関係書類)ではなく、「国税関係書類以外の書類」とみなされた電子データばかり……ということになります。
この点、「国税関係書類」ではないものばかりということで支障はないのでしょうか。だったら「国税関係書類」とは何なのか、ということになるでしょう。
現時点では、税務に関係のある電子データは「書類とみなす」ものとして扱っています。しかし、これが電子データばかりになれば、法令上の定義である「書類」とのあいだに違和感が生じるかもしれません。
どうしても、現時点における紙ベースの思考から脱却することは難しいのですが、もしそのような電子データが主体の時代であれば、「書類」よりも「電磁的記録」のほうが優先順位が上になるはずです。それでも、電子データは「書類とみなす」のままなのでしょうか。
電子データがメインという視点で見てみると、電子帳簿保存法は電子データの普及期に役割を果たす応急措置であって、将来的に限界を迎える可能性もある……と思うわけですが、このようなことを述べても「妄想」と嘲笑されそうです。
電子データの利用が拡大したからといって、法令上は「書類とみなす」のままでも何の問題もない、という見方も当然にあるでしょう。
まとめ
とりとめもない話をしましたが、この記事で伝えたかったのは、電子取引が増大していくのに、その保存は「国税関係書類以外の書類とみなす」のままだと、いずれなんらかの支障が出てくるのではないか? というささやかな疑問があったからでした。
このような疑問を提起しても、頭ごなしに否定する人が多そうのであらかじめ予防線を張っておくと、ブレーンストーミングとして提起したものとお考えいただければ幸いです。
1998年、電子帳簿保存法において電子取引における電子データの保存制度が創設され、それから24年後の2022年には、電子データのままの保存を義務づけるようになりました。紙から電子データへの移行は徐々に進んでいます。
いずれ書類と電子データは並列の関係に移行し、電子データは書類として「みなす」のではなく、取引にかかる電子データは「国税関係電磁的記録」といった新しい位置づけに変わるかもしれません。
ものすごい適当で雑な予想ですが、20年後ぐらいの予想として述べてみました。