電子帳簿保存法の電子取引における令和3年度改正を再考します。旧10条ただし書きによる書面保存制度が廃止されたことで、批判的な理解がされているように思われますが、筆者はそれだけではないように受け止めています。
過去記事をベースに、ブログで思考整理したことをまとめておきます。
令和3年度改正以前はあやふやな状況だった
電子取引について、令和3年度改正を批判したり、急ぎの対応をうながす声は多数ありました。しかし、令和3年度改正以前の保存を実際にどうしていたのか、きちんと説明している人はあまり見受けられなかったことを以前に指摘しました。
過去を振り返ると、電子取引のデータ保存については、EDI取引以外のやりとりも対象に含まれることが平成17年度改正にあわせた通達改正において明確化されています。
その後のインターネットの進展により、取引形態も多様化したものの、電子取引のデータ保存制度はとくに見直しされることもないままでした。これも以前の記事で整理したとおりです。
あくまで筆者の理解ですが、旧10条ただし書きによる書面保存を認める制度があったことで、令和3年度改正以前は「データの保存が規定どおりか?」ということも、問われづらくなっていたと考えます。
データの保存要件が満たせなければ書面にすればよいわけですが、その保存状況がさほど問われることはなく、無秩序になっていたわけです。
ところが令和3年度改正による書面保存の廃止により、電子取引のデータ保存が義務づけられると、データ保存のあやふやな状況が表面化したために、このような騒動になったものと理解できるでしょう。
「この電子データはどうやって保存するのだろう?」という話が令和3年度改正以降に多数生じたのはご存じのとおりです。
しかし、電子取引の保存制度自体は、平成10年度改正から存在していたわけです。このような問いがいまになって出てくるのは、蓄積していたあやふやな状況が表面化したものと理解するしかありません。
書面保存はなぜ廃止されたか
次に、なぜ書面保存の制度は廃止されたのかを考えてみます。この点も以前にブログで検討しました。
かいつまんで話すと、令和3年度改正は検索要件の緩和がメインであって、当局の意向としては、書面保存の廃止はそこまで重視していなかったように見受けられました。また、改正の経緯を見ても、事前の兆候も見られませんでした。
改正については、当局が取引情報のトレーサビリティを重視しており、検索要件の緩和をバーターに、電子取引のデータ保存を義務化したものといえます。
この点については、筆者が知る限りで追加の情報はありません。
厳しすぎる検索要件
電子取引のデータ保存を困難にしている一因は、検索要件にあったと筆者は考えています。
電子帳簿保存法の創設当初は検索要件がいくぶんゆるかったものの、平成17年度改正で検索要件が厳格になっています。そして、電子取引のデータの範囲にPDFなどの非構造化データも同一の範囲に含めたために、問題が蓄積していく結果を招きました。
例えば、フリーランスの人がメール添付の請求書のPDF(非構造化データ)を1つ受け取ったとしても、電子データのままで保存したくても税務上の要件は厳しい、という状態でした。
これは平成17年度改正が問題だったというよりも、平成17年度改正後も、制度を丁寧に見直していくべきだったところを、制度への無関心から放置されていた……という理解になるのでしょう。
構造化データと非構造化データの検索要件を別に分ける選択肢もあったと思いますが、このような方法を国税当局が採用しなかった理由はわかりません。
令和3年度改正は、検索要件の緩和はされたものの、検索要件そのものが不要とされるのは売上1,000万円以下の事業者のみという要件でした。これでは批判を招くのは当然でしょう。
私見(まとめ)
令和3年度改正における書面保存の廃止について、これを振り返るまとめの記事でした。過去から考えていたことを系統だてて整理したものです。
令和3年度改正の問題は、データ保存の検索要件の緩和が不十分だった、というのが筆者の理解です。
検索要件の緩和という方向性は意味があったと思われますが、平成17年度改正以降に蓄積していたあやふやな状況があったことを考えると、もっと慎重に検討を重ねた方がよかったのでしょう。
いろいろな人の意見があると思いますので、この意見はあくまでこのブログの筆者の見方です。
令和3年度改正における書面保存の廃止に関わる騒動は、令和5年度改正により目途がたったものとみてよいでしょう。
データ保存を義務づけながらも、書面出力をベースにしている事業者にも配慮されており、妥協点に達した感があります。