当面認められた「優良以外」の帳簿の電子保存 問題はどこにあるのか

以前の記事で、電子帳簿保存法における電子帳簿の区分は、「優良」とそれ以外の電子帳簿に区分されていることをお伝えしました。

税制改正大綱の議論では、優良以外の帳簿について、電子保存を認めることに反対する意見があったと報じられています。

こうした反対意見をどう受けとめたらよいのでしょうか。筆者の感想を述べておきます。

ハッキリいって面倒くさい話ですので、興味がある人だけお読みください。あくまで一税理士の意見であり、世の中には多様な意見が存在することをご承知願います。

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これまでの経緯

令和3年度税制改正の結果、会計ソフトを用いて作られた帳簿は、広く電子データのまま保存が認められることになりました。

しかし、訂正削除の履歴記録の機能を持たない会計ソフトについてまでも、これも電子帳簿として電子データのままの保存を認めるかについては、かなり議論を呼んだと報道されています。(エヌピー通信社の配信記事、2020年12月)

この訂正削除の履歴記録の機能を持たない会計ソフトがあることについては、以前からこれを厳しく批判する有力なグループ(以下「批判グループ」と呼びます)が存在しているそうです。

令和3年度税制改正の議論において、このグループは与党政治家を経由して影響力を行使し、履歴を持たない会計ソフトについて「改ざんの恐れがある一般電子帳簿の普及を認めるべきではない」と主張し、これに反対したとのことです。

甘利税調会長の強いリーダーシップの結果、ほとんどの会計ソフトにおいて電子保存が認められる結果となったものの、批判グループへの配慮もあったためか、税制改正大綱では「当面」電子保存を認めるという暫定的な書き方になっています。

こうした論争をどう受けとめたらいいのでしょうか。会計帳簿はひろく電子保存が認められるようになったのだから、いまさら蒸し返す必要もないだろう、という意見もありそうです。

この点を考えてみると、かなり根深い問題でもあるようです。以下、私の考えを整理します。

1.コンピュータ会計の歴史は50年以上

長らくコンピュータ会計に関する著作を続けてこられた豊森照信氏の著書によると、日本においてコンピュータ会計が普及し始めたのは、昭和40年代前半とされています。(『改訂版コンピュータ会計帳簿の考え方・整え方』1997年、P.65)

同氏の著作のいずれを読んでも、紙の会計帳簿とコンピュータ会計では、その仕組みはまったく異なることが強調されて解説されています。

紙の帳簿であれば、伝票作成から帳簿を記帳して財務情報を完成させるところを、コンピュータ会計では「データ入力をもって会計データとして把握整理を行い、会計情報を完成させたのち、帳簿を印刷する」といった手順が説明されています(豊森、前掲書)。

簿記の勉強をした経験のある人も過去を振り返ってみると、その知識は紙の帳簿を前提としたもので、コンピュータにおける会計処理では役に立たない部分もある……と感じた人も多いはずです。

「手作業の記帳のバイブルは電子会計におけるバイブルとなってはいない」と、豊森氏は強調しています(豊森照信『電子会計・帳簿の考え方と実践』2003年、P.67)。

つまり、紙の帳簿とコンピュータ会計は「思想」的に別のものであり、これをどのように接合させるか、という点が課題としてあるわけです。

税法上の原則は紙の帳簿であることから、コンピュータ会計としては紙の帳簿に合わせる必要があるため、結果として「プリントした帳簿」を要求されてきた経緯があります。

2.「積年の問題」は簡単には解決できない

他方で、紙の会計帳簿のルールを重視し、コンピュータ会計のあり方も紙の会計帳簿の原則にあわせるべきだと考えるグループがいます。

今回、「優良」だけに電子保存を認めるべきと主張しているのは、このグループです。

このグループの主張を私なりに理解すると、紙の会計帳簿であれば訂正の記録を残すことはルールになっているところ、コンピュータ会計でもこうした訂正削除履歴をきちんと持つものだけが、本来の会計帳簿であるということになるでしょう。

筆者としては、こうした原理的な主張も当然に理解はできるのですが、「積年の問題」をむりやり今日の議論に持ち込んでいる危うさも気になるところです。

前述のとおり、コンピュータ会計は50年以上の歴史があります。この間において、コンピュータ会計で利用されてきたソフトは、訂正削除履歴のあるものだけではありませんでした。

近年普及している新興のクラウド会計は、2021年現在において、税務署長の承認に堪えうる訂正削除履歴の機能は有していません。しかし、こうしたクラウド会計が今回の電子帳簿保存法の抜本改正の原動力となり、その主軸に据えられていることも留意すべきです。

こうした過去の問題や経緯をどう受けとめたらよいのでしょうか。

また、電子帳簿保存法が創設されたのは1998年です。

この法律の創設により、会計帳簿も税法上において電子保存が税務署長の承認により認められるようになりましたが、これは訂正削除履歴を持つ会計ソフトに限定されていました。

 

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この創設から、承認制度が終了する2021年までの間において、税務署長の承認により電子保存が認められた件数は果たしてどれぐらいでしょうか。

正直に言って、「笑ってしまうほど」に少なかったのが実情ではないでしょうか。

これらの過去を振り返って、筆者(私)がハッキリといえることは、ほとんどの会社では会計ソフトを使っているにもかかわらず、会社の倉庫には「プリント帳簿」が山のように積み上がったということです。

これはいわゆる「IT敗戦」ではないでしょうか。

こうした実情があるのに、原則を振りかざしても、むなしいばかりではないでしょうか。

3.電子データは電子データのままで保存する時代へ

紙の保存が原則であることから、コンピュータのほうがむしろ紙に合わせるように要求されてきたのが、おおざっぱな過去の経緯になるでしょう。

しかし、安価なコンピュータの普及、通信網の発達、クラウド型会計ソフトの登場により、電子データが重視される一方で、紙の位置づけはどんどんと低められつつあります。

電子データを紙に出力するということは、むしろ「不自然な状態」と考えられつつあることにも、目を向けるべきでしょう。

電子帳簿保存法における「電子取引」において、紙の出力による保存を認めなくなる令和3年度税制改正も、電子データのままであるほうがネイティブな状態であるとされているからです。

他方、これまでの「プリント帳簿」はどうでしょうか。電子データで作成したものを、無理に手描きの帳簿と同じようにあわせた結果が、プリント帳簿というものでした。

4.印刷すれば訂正削除履歴を確保できるのか

「優良」帳簿だけに電子保存を認めるべきと主張するグループは、紙の帳簿のルールに重きを置いています。

簿記の出発点を考えれば、その主張はよく理解できます。

しかし、気になるのはこれまで「プリント帳簿」を容認してきた姿勢です。

どんな会計ソフトであっても、税務署長の承認がなければ、会計ソフトから帳簿をプリントするしかありませんでした(2021年までは)。

そもそもの疑問として、「プリント帳簿」であれば、紙と同等の履歴機能を有するかというと、そうではないでしょう。

プリント帳簿において訂正する場合は、プリントされた帳簿に訂正を加えるのではなく、元の会計データを訂正します。(豊森、前掲書1997年、P.169)

この点を考えると、「プリント帳簿」だから、紙の会計帳簿と同等であるかというと、そんなことはありません。

前述のとおり、批判的なグループは、今回の税制改正大綱の議論において「優良」以外の帳簿は電子保存を認めるべきではないと主張したそうです。

しかし、電子保存をしなければ、あとはプリント帳簿しかありません。このプリント帳簿は紙の会計帳簿と本質的に同等とはいいづらいわけですが、ここで電子保存を認めない(=プリント帳簿すべき)と主張するのも、どこか違和感のある話です。

つまるところ、議論すべき対象は「会計ソフトの仕様」ということです。保存対象が「紙か電子データか」を議論するのは、論点がずれているように感じます。

意図的な論点ずらしを行って、自らの主張の正しさを強調するような姿勢であれば、広い理解は得づらくなるのではないでしょうか。

まとめ(筆者の意見)

とりとめもない話になりましたが、筆者の意見として整理すれば、50年以上の歴史があるコンピュータ会計において訂正削除履歴の仕様が統一されなかったものを、税法上の保存要件にまで持ち込まれて議論されると、正直にいって戸惑いを感じるばかりです。

手書きの帳簿を作成していない世代として言わせてもらえば、「なんで過去に解決できなかった積年の問題を、いまさら持ち込んできてワチャワチャしてるのか?」という不思議な気持ちです。

批判的なグループは、訂正削除履歴の重要性を主張しておきながら、その機能を持たない会計ソフトには、相変わらず「プリント帳簿」のままにさせようとしたことも、矛盾する主張のように感じます。

もし簿記の原則をつらぬくのであれば、そもそも「プリント帳簿」は、紙で作成された会計帳簿のような訂正履歴機能は持たないわけですが、そのあたりの考え方はどうなのでしょうか。

さらに、過去の経緯についても問いたいです。そんなに問題視するのであれば、会計ソフトの各社に呼びかけ、訂正削除履歴の仕様を統合しようとする努力はしていたのでしょうか。

今回の電子帳簿保存法における議論の経過を見るに、日税連はほとんど蚊帳の外でした。

多くの人が「効率化」のために前のめりになっていく中で、厳しいことをいう「お目付役」がいることは重要です。

しかし、筆者としては、税理士が蚊帳の外に置かれるのではないかと、焦燥感も覚えずにはいられません。