電子帳簿保存法について言及された判決と裁決事例をご紹介します。
説明のポイント
- 電子帳簿保存法の適用そのものが問題となって訴訟になった事例は見当たらない
- 帳簿等の保存がない状況の補足として、「電子帳簿保存法の申請はされていない」という説明が見られる
電子帳簿保存法がもとでトラブルになった事例は見当たらない
結論からいえば、電子帳簿保存法の適用が問題となって訴訟になった事例は、筆者が検索したところでは見つかりませんでした。
とはいえ、これではブログになっていませんので(笑)、いちおうヒットした事例を紹介しておきます。
1.新潟地裁(H18.2.23)
税務調査できちんとした帳簿や資料が提示できないことから、税務署側が合理的な計算で課税(推計課税)したことについて、訴訟となったものです。
被告(税務署)が帳簿等の保存義務について述べたときに、その主張を補足するかたちで、電子帳簿保存法について触れており、判決においてもその点が認められています。
事業者が仕入税額控除の適用を受けるためには、法定帳簿等を整理し、法定帳簿についてはその閉鎖の日の属する課税期間の末日の翌日、法定請求書等についてはその受領した日の属する課税期間の末日の翌日から2月を経過した日〔個人事業者については、その年の翌年の3月31日の翌日(措置法86条の6、同法施行令46条の4第2項)〕から7年間、これを納税地等に保存しなければならない(消費税法施行令50条1項)。ここにいう保存とは、納税者が税務職員の質問検査に応じていつでもこれを提示し、税務職員の閲覧に供せられる状態で保存しておくという趣旨を当然に含むものと解され(最高裁平成16年12月16日第一小法廷判決、最高裁平成17年3月10日第一小法廷判決参照)、また、電子帳簿保存法4条に規定する承認を受けていない者については、電子データの保存のみでは原則として帳簿の保存とみなされないため、電子データの内容を紙に出力して保存する必要がある。
納税者側は税務調査が始まってから「弥生会計」で帳簿をつけ始めており、それを紙に出力せずにデータで保存していたことから、税務署側が念のために電子帳簿保存法について触れたのでしょう。
「帳簿等の保存とは?」という意味では参考になりますが、電子帳簿保存法だけにしぼってみると、参考程度のはなしでしょう。
なお、帳簿等が保存されていないと認められたことから、消費税の仕入税額控除(仕入や経費にかかった消費税を、納税する消費税からマイナスできること)の適用は否認されています。
東京高裁(H18.7.31)・最高裁(H18.12.22)でも納税者が敗訴しています。
2.H24.7.4裁決(非公開)
先ほど紹介した判決と似たような裁決事例で、税務調査のときに帳簿を提示しなかったというものです。税務調査において青色申告の取り消し、法人税の更正処分、消費税における仕入税額控除の否認等の処分があったことについて、国税不服審判所であった裁決です。
税務署側は帳簿の提示を再三求めたが提示されなかったと主張し、納税者側は「元帳を提示できなかったのは、本件サーバーの故障から再印刷することができなかったから」「自宅に帳簿を保存していたが失念していた」と主張しています。
調査時には印刷した帳簿を提示していないので、もし仮にデータがあるとしても、それで要件を満たしているのかという観点から、裁決の基礎事実において次のように触れられています。
請求人は、電子帳簿保存法第4条第1項に規定する納税地等の所轄税務署長の承認を受けていない。
自宅にあったという帳簿は、裁決の審理において提出されたことから、印刷された帳簿があったことは認められています。しかし、調査時に提示できなかったことから、帳簿等の保存がなかったものとされています。
比較してみると?(まとめ)
以上の判決・裁決を見てみると、税務調査において帳簿等の保存が問題となったものです。
その場合における「帳簿等の保存」の補足として、
という主張が、税務署側からなされているというものでした。
この記事を見ている人は、ちゃんと帳簿をつけているでしょうから、あまり参考にはならないかもしれません。
念のために注意すべきなのは、帳簿を印刷せずにデータで保存したままで、電子帳簿保存法の申請をしていない場合は、「帳簿等の保存」の要件を満たしていないという危険性があることでしょう。
この点については、以前に触れた記事もご参照ください。