電子取引 「書面保存の全面否定ではない」説は以前からあった?

注目される改正電子帳簿保存法について、国税庁から「お問合せの多いご質問(令和3年11 月)」という資料が発表されました。

この点について、考えたことを整理します。

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「もし対応できなかったら?」の不安は後退

以前のブログで書きましたが、電子取引の保存が要件未達の場合に、財務省担当官の解説では「納税者における追加的な説明や資料提出が必要」、国税庁の一問一答(Q&A)でも「申告内容の適正性については、税務調査において、納税者からの追加的な説明や資料提出、取引先の情報等を総合勘案」という態度が示されていました。

しかし、奥歯に何か挟まったものいいで、経費としての認定の面でも「安全圏」がわかりづらく、不安さをぬぐえない部分がありました。

今回の国税庁の補足説明では、こうした点がもう少し詳しく明らかになりました。

補4 一問一答【電子取引関係】問 42
【補足説明】
電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存義務に関する今般の改正を契機として、電子データの一部を保存せずに書面を保存していた場合には、その事実をもって青色申告の承認が取り消され、税務調査においても経費として認められないことになるのではないかとの問合せがあります。
これらの取扱いについては、従来と同様に、例えば、その取引が正しく記帳されて申告にも反映されており、保存すべき取引情報の内容が書面を含む電子データ以外から確認できるような場合には、それ以外の特段の事由が無いにも関わらず、直ちに青色申告の承認が取り消されたり、金銭の支出がなかったものと判断されたりするものではありません。

正直な話、実務上において万全な対応に至らず、部分的でも要件未達のケースはどうしてもありうると思われますので、こうした点が示されたことはよいことでしょう。

また、今回の電子取引の改正点について顧客に説明すれば、「それ、いいね!」などという反応が返ってくることはほとんどないでしょうから、実務の心理的な負担が減ったのも喜ばしいことといえます。

この追加発表には働きかけもあったらしい

弥生の岡本社長のブログによると、弥生などの各社において、今回の懸念について働きかけを行った旨が書かれています。

Q&Aで青色申告の取消しについて「総合勘案」と書かれていても、「青色申告の承認の取消の対象となり得ますので注意してください」とあったら、心配するのはやむをえないことでしょう。

一問一答の改訂直後に、情報はすでに出ていた?

ところで最近知ったのですが、どうやらこうした「書面保存の全面否定ではない」という情報は、以前から存在していたようです。

例えば、ファーストアカウンティング株式会社による解説記事(2021年8月)を見ると、一問一答が発表された後の投稿において、今回の措置は紙保存を禁止するものではない、改正の理由はオリジナルの電子データの削除を防ぐため、という国税庁への取材による改正の意図を読むことができます。

この点、電子帳簿保存法についてアンテナの高い人たちのあいだでは、既知の情報であったようです。

それだったら当初の一問一答に、その意向をもう少し反映させることはできなかったのかな……という疑問もわくところですが、やむを得ない面もあったのでしょう。

【訂正】
当ブログの過去記事で、本来「紙保存の廃止」と書くべきところを、不用意に「紙保存の禁止」と書いていた箇所が2点ありましたので訂正しました。上記のとおり「紙保存の禁止」だと、本改正の意図とは異なることになります。ちなみに、国税庁Q&Aを読み直してみたところ、書面印刷を「認められません」という直接的な否定の語句は見当たりませんでした(「電磁的記録の保存に代えることはできません」という記述と、令和3年までの電子データを令和4年以降の要件で保存することは認められない、という記述はある)。たまたまかもしれませんが、表現に神経を使っている可能性もあります。

検索機能の確保が「ギャップ」を生んだのでは……

電子取引の電子データの保存について、税務上の大きな懸念は、今回の発表でひとまず解消されたものといえそうです。

落ち着いたところで、どうしてこんな混乱が生じたのか……というバックグラウンドを考えてみます。

その要因のひとつには、検索機能の確保(検索要件)があるように思われます。検索要件があることで「システム化どうする」という意識が強くなるわけです。

人的余裕のない小規模な企業ほど、その負担は大きくなります。

例えば、検索要件の緩和措置をもっと広く対象にしたうえで、将来的にせばめていく方法もあったのでは……と考えます。検索要件がなくても、とりあえずオリジナルの電子データは、ローカルやサーバーに保存されるわけです。

改正の目的はオリジナルの電子データの保存だったということですが、そこに検索機能の確保があるために、求められるシステム化の理想像と、現実とのあいだにギャップが生じたのも一因では……と陰ながら考えています。

オリジナルの電子データ保存が求められる意味について、財務省担当官の解説では「税務手続の電子化を進める上での電子取引の重要性に鑑み、他者から受領した電子データとの同一性が十分に確保されないこと」と説明されています。

まとめ

注目される改正電子帳簿保存法について、国税庁から「お問合せの多いご質問(令和3年11 月)」という資料が発表されたので、その周辺の話を考えてみました。

「総合勘案」という表現では、やはり不安はぬぐえない話でしょうから、このような資料が出たのはよかったと思います。

そもそも電子取引の電子データは「国税関係書類以外の書類とみなす」「申告内容を確認するための書類となり得る」という、なんだか「2軍」のような扱いです。

当局の意図と実務とのあいだには、考え方のギャップもあったのかもしれません。

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