前回に引き続き、免税事業者向けの解説記事です。
インボイス非登録の免税事業者が、取引先から「免税事業者であることを証明してほしい」といわれた場合には、どうすればいいのでしょうか。
想定
Q. 私は2023年10月以後も免税事業者である個人事業主です。免税事業者ですので、インボイスの発行はできません。ところで、インボイスの発行ができないことを取引先に伝えたところ、「免税事業者であることを確認できる資料を提供してほしい」といわれました。
私はこれまでに、消費税の課税事業者になったことはなく、税務署に消費税に関する届出などもしたことはありません。
私が「インボイスの発行ができないこと」や「免税事業者であること」を取引先に証明することはできるのでしょうか?
検討
A. 結論からいうと、自分が免税事業者であることや、インボイス制度に登録していないことを証明することは困難です。
インボイス制度では、課税事業者がインボイス制度に登録した場合に、その登録した事業者を公表します。このため、制度に登録していない事業者は公表されていないので、把握することはできません。
また、登録した事業者は、取引先である課税事業者からインボイスの交付を求められた場合は、インボイスを交付する義務があります。(Q&A問24)
登録事業者である場合は交付義務があるわけですから、これを逆にいえば「インボイスを発行できない」と断ることじたいが、「インボイス制度に非登録である」と同じ意味になります。
経済合理性の観点でいえば、インボイスに登録しているにもかかわらず非登録であるとウソをつくことは、取引において利益がないどころか、不利益に作用する可能性があるので、意味のある行為ではありません。このことから、取引先に「非登録」と伝えることは、それがそのまま「非登録」であると判断してよい、と考えられるでしょう。
課税事業者の場合は、税務署に届出書や申告書を提出していますが、免税事業者の場合はそのような書類を提出していませんので、「何もしていないこと」を証明することは難しいものといえます。
法人は推測が可能
取引先のインボイスの登録・非登録を知りたい相手側の立場で考えてみます。インボイスの登録状況を知りたい場合で、その取引先が法人である場合については、インボイスの登録状況の推測が可能です。
インボイスの登録番号は、「T」から次の番号は法人番号と同じであることから、法人番号をもとにインボイスの登録番号の有無を検索すれば、インボイスの登録・非登録の推測ができるためです。
これに比べて個人事業主では、この推測はできません。個人番号(マイナンバー)とインボイスの登録番号は別であるためです。個人番号は12桁ですが、登録番号は13桁であることからも番号が異なることがわかります。
支払調書の記入のために収集していた個人番号をインボイス登録番号の検索に用いても、登録・非登録の推測はできません。(※個人番号の目的外利用を容認しているわけではなく、検索の可否を検証しているにすぎません。)
まとめ
インボイスの登録状況について「免税事業者であることを証明してほしい」といわれた場合の考え方について説明しました。
インボイス制度は登録した事業者だけを公表する制度であることから、免税事業者やインボイス制度に非登録であることを、誰の目にも明らかなように証明することは困難です。
「免税事業者であることを証明してほしい」という質問そのものが、制度の想定外といえますが、混乱が生じている状況がうかがえることから記事としました。