「輸出戻し税」を批判する税理士の先生に聞いてみたいこと

「輸出戻し税」の批判について、ブログ筆者が気になったことを書いておきます。

これは疑問を解決して理解を深めたいという目的であり、相手を論破するためのものではありません。また、「税理士の先生に聞いてみたい」と書いたのは、税制を研究・熟知している方に聞いてみたいという思いからです。

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前回1~4.輸出免税制度は国際ルールだから有利不利はないのでは?

当ブログの前回の記事で、国際比較の観点から「輸出戻し税」批判への疑問を提示しました。

日本の消費税は「海外と比較してどうなのか」という点が気になっているので、前回に引き続き、内閣府や財務...

説明をかいつまむと、輸出免税制度やそれにともなう還付は国際的な共通ルールとされており、外国でも輸出企業は付加価値税の還付を受けています。

日本と外国を比較すると、海外諸国のほうが付加価値税の税率の高い国が多いです。もし「輸出戻し税」が価格転嫁により大企業を優遇するしくみで、国家を「衰退」させるものであれば、税率の高い国のほうがもっと「衰退」するように思われます。輸出を手がける大企業は海外との共通ルールによって消費税の還付を受けているだけですが、それで日本だけがなぜ「衰退」するのかは説明されていません。

もしその原因が日本だけの特殊要因であるとすれば、批判すべき主因は消費税ではなく、日本独自の産業構造にあるのでは、という疑問を提示しました。

以下は、1~4で書いた国際比較とは異なる観点で、「輸出戻し税」批判に対する疑問を整理したものです。

5.「輸出戻し税」がお得な話であれば、大企業はめいっぱい「補助金」をもらおうと試みるのでは?

もし「輸出戻し税」が本当に「お得な話」なのであれば、企業は利益を最大化させようと試みる組織体ですから、すべての大企業がめいっぱいの「輸出戻し税」をもらおうとするはずです。

この「輸出戻し税」を増やす方法は、下請けへの支払いを増やすことです。これにより仕入税額控除が拡大し、それによって還付税額も増加します。

そうなると下請けへの搾取どころか、下請けへの支払いは拡大することになるわけで、お互いにwin-winとなるのではないでしょうか。つまり、搾取は起こらないように思われます。

6.個人の輸出業による還付は批判の対象か。買いたたきをする国内専業企業は批判の対象か。

上記5.の疑問に対しては、「そうではない。消費税分を払わずに下請けを搾取しているのに、消費税分の還付を受けていることがおかしいのだ」という反論がありうることでしょう。

このため、次の例を用意しました。

(1)国内で家具を仕入・製造して輸出する大企業がある。消費税は輸出免税で0%なので、仕入にかかる消費税の還付を受けている。

(2)家具を国内で仕入れ、海外の取引先に輸出している個人事業がある。売上高は年間2,000万円である。消費税は輸出免税で0%なので、仕入にかかる消費税の還付を受けている。

「輸出戻し税」批判論者の意見によれば、(1)は批判の対象ということです。

もし輸出にかかる還付がズルいのであれば、個人事業である(2)も批判されるべき対象でしょうか。個人事業なので、仕入にかかる買いたたきはないはずです。

「そうではない、大企業は消費税を口実に下請けを搾取しているからズルいのだ」という意見になるでしょうから、次の事例も検討します。

(3)国内で家具を仕入・製造して国内で販売する大企業がある。消費税は国内販売で10%課税、仕入にかかる消費税は控除され、結果として納税している。

(3)の場合、「搾取している」はずの大企業なのに、消費税を納税しています。納税しているならば、これは批判の対象でしょうか。

消費税のしくみとして国内専業の企業であれば、どんなに下請けを搾取し、買いたたいたとしても、消費税はおおむね納税になります。

価格転嫁の問題を批判しているはずなのに、批判の対象はなぜ(1)のような輸出企業だけなのでしょうか。消費税を口実にした価格転嫁の問題であれば、(3)も批判すべき対象と思われますが、なぜ国内専業の大企業は批判しないのでしょうか。

疑念を持たざるを得ないのは、「輸出戻し税」という、目に見える還付の事実だけが批判しやすいから、これを標的にしているだけなのでは……ということです。

7.国内専業企業は「補助金」をもらえない?

上記6に関連する話です。

批判論者は「輸出戻し税」を「輸出企業優遇税」とも主張していますが、これが事実であるとすれば、輸出を手がける大企業だけが「補助金」を受け取っている、ということになります。

そう考えると、同一商品を販売しているとしても、国内専業の企業は輸出を手がけていませんから、競争上不利になります。

「輸出戻し税」が有利であるならば、いい思いをしなかった国内専業企業は、輸出を手がける企業と比較して不利になるはずなので、企業団体の会合でも文句をいってもよさそうですが、このような問題はあるのでしょうか。

この点を海外の大企業の立場で考えてみると、輸出免税による還付が国際的なルールである以上、海外の大企業も「輸出戻し税」が得ということになり、これを受けとることに励むはずです。

「自国販売だと補助金がもらえない。このままでは不利になるので日本にも輸出したい」ということで、海外から日本への輸出も殺到することになりそうですが、そのような事実はあるのでしょうか。

8.なぜ税制改正による「輸出戻し税」の廃止を主張しないのか

ふと気づいたことですが、「輸出戻し税」を批判する論者の意見をよく読むと、「輸出戻し税」を厳しく批判するわりに、「輸出戻し税を廃止せよ」という主張は見られません。

もし「輸出戻し税」が輸出する大企業への「補助金」で、ズルいのであれば、批判論者は真っ先に「廃止せよ」と主張するはずです。

国税庁の統計によれば、国と地方をあわせた令和3年度の消費税の還付税額はおよそ年間約7.5兆円です。ある批判論者の意見では、このうち1兆円超が大企業に「輸出戻し税」として還付されているそうです。

この1兆円超の「補助金」を廃止して、その増税分を消費税を減税する財源にすればよさそうなものですが、批判論者はなぜかそのような主張を述べません。これはなぜでしょうか。

なお、「輸出戻し税」を廃止するのであれば、国際的なルールに反することになりますので、その理由の説明も必要でしょう。

9.消費税がなくなれば、価格転嫁の問題は発生しないのか

「大企業は消費税を口実に中小企業の下請けを搾取している。消費税は悪税で、減税すべきである」という主張が正しいとすれば、消費税を減税・廃止することで、価格転嫁の問題も解決することになりますが、本当にそうでしょうか。

消費税と価格転嫁が強くひも付くのであれば、一般消費税が創設される前には、価格転嫁の問題はほとんど存在しなかったことになります。批判論者は一般消費税の創設前後で、価格転嫁の問題がどのように変化したのか、そのデータを示す必要があるでしょう。

ブログ筆者の予想では、かりに消費税が廃止されても、別の理由を口実に買いたたきは存在しつづけると思われます。

10.「税の流出」があるなら対策が行われるのでは?

税理士であれば誰でも知っていることですが、財務省や国税庁という組織は、税の還付にことさら厳しいです。

不思議に思うのは、批判論者が主張するような「補助金」があるとすれば、財務省はこれに目を付けてすぐに税制改正を実施し、「税の流出」の穴を塞ぐのではと思われます。なぜこのような対策を実施しないのでしょうか。

批判論者は、財務省を「いつも増税ばかりを考えている」などと批判しているわけですから、「増税が好き」な財務省は「輸出戻し税」を廃止して、増税を試みるのが当然と思われます。それなのに、この制度が続いている理由はなぜでしょうか。

「政府と大企業が結託しているから」という理由であれば、前回のブログ記事の2で説明したとおり、海外の大企業も同じことになっているはずですが、海外の方が税率が高いので、日本の大企業は「補助金」不足で不利になります。また、上記7で示したとおり、国内専業の大企業が不利になるので、この点について抗議しているのかも明らかにする必要があります。

ブログ筆者の意見(まとめ)

前回と今回の記事で、1~10まで、「輸出戻し税」批判に関する疑問について述べてきました。

ブログ筆者の意見を整理すると、「価格転嫁の問題であれば輸出企業だけを対象にするのは違和感がある。消費税としては海外と同様で有利不利は存在しない」ということになります。

消費税が原因で「日本が海外と比較して衰退」したということであれば、消費税は国際的なルールに基づいているわけですので、「海外と比較して日本の消費税のどこがおかしいのか」という点も明らかにすべきでしょう。

日本の消費税が海外と同様の共通ルールに基づいていることが明らかであれば、消費税が「衰退」の原因であるとは断言できないと思われます。そのほかの原因もありうる、複合的な要因かもしれないということです。

消費税に基づく価格転嫁の問題と日本の「衰退」をひも付けるとしても、もっと丁寧な説明をしてほしいです。かりに大企業が中小企業を搾取したとしても、利益が大企業に移転しただけで、日本国内全体が「衰退」したとは、必ずしもいいきれないと思われます(大企業も日本の一部であるため)。

もし私の考え方が間違っているのであれば、それは批判論者の説明不足と思われますので、丁寧な説明を追加していただけますようにお願いします。

なお、この記事の意図は、お互いの意見を交換することで、理解がより深まることを目的としています。相手を論破する目的ではありません。例えばブログ筆者は、ラーメンは「あっさり」系が好きですが、「こってり」系のラーメンが好きな人をけなして否定するつもりはないということです。

「輸出戻し税」を批判する税理士の先生は、ブログ筆者がここで示した意見をご覧になった場合は、ぜひ丁寧な説明を追加いただけますようお願いします。

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