文化庁が毎年実施している「国語に関する世論調査」。その調査では、本来の意味とは異なって使われている可能性のある日本語が調査されています。
その調査の対象となった慣用句について、一覧表としてまとめました。自分用に作っていたものですが、せっかくなのでシェアしておきます。
前編からの続きです。
調査対象となった慣用句のリスト(後編)
これらの内容は、言葉の意味を示し、「どちらのほうが慣用句として正しいと思うか」を質問して、調査された結果を示したものです。
その結果をリスト化して、左側を「本来の慣用句」、右側を「本来とは異なるもの」という形式でまとめています。
リストに「○」があるものは、「本来の意味とは異なるもの」の回答率が高かったものです。
調査年度 | 以下の意味を慣用句でいうと | 本来の慣用句 | 本来とは異なるもの | 本来とは異なるものを選択した割合が高い |
---|---|---|---|---|
H28 | はっきりと言わない曖昧な言い方 | 言葉を濁す | 口を濁す | |
卑劣なやり方で,失敗させられること | 足をすくわれる | 足下をすくわれる | ○ | |
存続するか滅亡するかの重大な局面 | 存亡の機 | 存亡の危機 | ○ | |
H27 | 周囲のみんなに,明るくにこやかな態度をとること | あいきょうを振りまく | あいそ(う)を振りまく | |
そんなに思いどおりになるものではないこと | そうは問屋が卸さない | そうは問屋が許さない | ||
混乱したさま | 上を下への大騒ぎ | 上や下への大騒ぎ | ○ | |
眠りから覚めたときの気分が悪いこと | 目覚めが悪い | 寝覚めが悪い | ○ | |
H26 | 企業が学生を早い時期に採用すること | 青田買い | 青田刈り | |
夢中になって見境がなくなること | 熱にうかされる | 熱にうなされる | ||
いよいよ,ますます | いやがうえにも | いやがおうにも | ○ | |
心配や不安を感じ,表情に出すこと | 眉をひそめる | 眉をしかめる | ||
H24 | つっけんどんで相手を顧みる態度が見られないこと | 取り付く島がない | 取り付く暇がない | |
実力があって堂々としていること | 押しも押されもせぬ | 押しも押されぬ | ○ | |
物事の肝腎な点を確実に捉えること | 的を射る | 的を得る | ||
いよいよというときに使う,とっておきの手段 | 伝家の宝刀 | 天下の宝刀 | ||
激しく怒ること | 怒り心頭に発する | 怒り心頭に達する | ○ | |
H23 | 本心でない上辺だけの巧みな言葉 | 舌先三寸 | 口先三寸 | ○ |
何かを食べたくなる,転じて,あることをしてみようという気になる | 食指が動く | 食指をそそられる | ||
ひっきりなしに続くさま | のべつまくなし | のべつくまなし | ||
世間の人々の議論を引き起こすこと | 物議を醸す | 物議を呼ぶ | ||
快く承諾すること | 二つ返事 | 一つ返事 | ○ | |
H22 | することや話題がなくなって,時間をもて余すこと | 間が持てない | 間が持たない | ○ |
古くからのやり方にのっとった様子で | 古式ゆかしく | 古式豊かに | ||
僅かの時間も無駄にしない様子 | 寸暇を惜しんで | 寸暇を惜しまず | ○ | |
大きな声を出すこと | 声を荒(あら)らげる | 声を荒(あ)らげる | ○ | |
前に負けた相手に勝つこと | 雪辱を果たす | 雪辱を晴らす | ○ | |
H20 | チームや部署に指示を与え,指揮すること | 采配を振る | 采配を振るう | ○ |
目上の人の気に入られること | お眼鏡にかなう | お目にかなう | ||
はっきりとしていて疑う余地のない様子 | 火を見るより明らかだ | 火を見るように明らかだ | ||
是が非でも。どんなことがあっても | 石にかじり付いてでも | 石にしがみ付いてでも | ||
よく分かるように丁寧に説明すること | 嚙んで含めるように | 嚙んで含むように | ||
H19 | 全力で物事に取り組むこと | 心血を注ぐ | 心血を傾ける | |
論理を組み立てて議論を展開すること | 論陣を張る | 論戦を張る | ○ | |
何かがきっかけになって,急に物事の本質が分かるようになること | 目から鱗(うろこ)が落ちる | 目から鱗が取れる | ||
胸のつかえがなくなり,気が晴れること | 溜飲(りゅういん)を下げる | 溜飲を晴らす | ||
H18 | 前言に反したことを,すぐに言ったり,行ったりするさま | 舌の根の乾かぬうちに | 舌の先の乾かぬうちに | |
差し出て振る舞うものは他から制裁されること | 出る杭(くい)は打たれる | 出る釘(くぎ)は打たれる | ||
H17 | 我慢できない思い | 腹に据えかねる | 肝に据えかねる | |
H16 | 前回失敗したので今度は「○○」と誓った | 汚名返上 | 汚名挽回 | ○ |
まとめ
以上の出典は、文化庁「国語に関する世論調査」です。
前編に引き続き、誤りやすい慣用句の内容をまとめました。とくに、リストに「○」がついた慣用句は誤解を与えやすいため、ブログなどでは使わないほうがよいのでしょう。
ちなみに、このリストをまとめたのは、ある読者の方から言葉の誤用があることを教えてもらったことがきっかけです。(ありがとうございます)
その誤用の言葉とは、「なし崩し」です。
筆者は「うやむやにする」というマイナスの意味を含む目的で使っていましたが、本来的には「物事を徐々に片づけていくこと」というものであり、マイナスの意味はないとのことでした。
「なし崩し」は、文化庁の調査リストには含まれていませんでしたが、このような言葉の誤用(=変化)は、他にもたくさんあるのでしょうね。