「アベノミクス」で、中小企業の給与と付加価値額はどう変化したか

中小企業庁が公開する統計をもとに、直近4年間で、中小企業における給与と付加価値額はどのように変化したのかを確認します。

説明のポイント

  • ほとんどの業種で、付加価値額・給与ともに上昇傾向
  • 平均給与は、景気悪化前と同じ水準に戻っただけ、という見方もできる
スポンサーリンク

 

中小企業の労働生産性とは?

当ブログでは以前に、中小企業の労働生産性に関する記事を書きました。

よく耳にする「生産性」というキーワード。自社の「生産性」を算出する方法と、公表されている平均値との比...

その記事のおさらいですが、企業の労働生産性は、従業員1人あたりの付加価値額で求めることができます。

その算出方法は「付加価値額」÷「従業員の数(または労働時間)」で求めることができました。

また、中小企業庁の「中小企業実態基本調査」から算出した、中小企業の業種ごとの「1人あたりの付加価値額」についてもご紹介しました。

【グラフは画像をクリックで拡大可能】

今回は、付加価値額といっしょに、従業員1人あたりの給与についてのデータもあわせて分析してみましょう。

中小企業の給与は増えているのか?

政府が企業に要請しているのは、労働生産性(付加価値額)の向上だけではありません。よく知られているとおり、従業員の給与についても引き上げを求めています。

平成29年度中小企業実態基本調査によれば、平成28年度決算実績に基づく従業員1人あたりの給与(賃金含む)は次のようになっています。

【グラフは画像をクリックで拡大可能】

中小企業の従業員一人あたり給与額は、全産業平均で356万円になります。(平成28年度決算実績、法人企業のみ)

では、以前と比較して、中小企業の給与は増えているのでしょうか? その4年前にあたる、平成25年度中小企業実態基本調査(平成24年度決算実績)と比較してみましょう。

下のグラフは、4年前からの産業ごとの給与の上昇率をあらわしたものです。

【グラフは画像をクリックで拡大可能】

平成24年度決算実績における、中小企業の従業員一人あたり給与(賃金含む)の額は、全産業平均で324万円でした。

ほとんどの業種では4年前と比較して、給与が上昇していることがわかります。全産業合計では9.9%の上昇となっています。

ただし、これがアベノミクスの成果といえるのかはよくわかりません。

 

スポンサーリンク

 

平成24年度決算実績における全産業の平均給与賃金は、一時的に落ち込んだ時期のものだからです。

数字だけを見れば、景気回復でもとに戻っただけ、という結果とも読めます。

上のグラフを見ると、平成24年の落ち込みは、景気悪化による人件費削減に対して雇用調整が追いつかず、平均給与は急落した結果のようにも見えます。(平成24年は、内閣府指定の景気後退期

その後の平成25年以降は、従業員数が減る一方で、景気回復期になっても従業員数は回復していない、という状況がうかがえます。「団塊の世代」の退職も影響しているのでしょうか。

付加価値額と給与の上昇率は連動しているのか?

平成24年以降の景気回復において、給与の上昇圧力に中小企業が対応できているのか、という点も気になるところです。給与を引き上げるためには、当然ながらその原資が必要です。

よって、中小企業が利益を上げていないと、給与の上昇圧力に耐えきれない恐れもあります。

そこで、中小企業の付加価値額と給与の上昇率の割合を散布図で比較してみることにします。(散布図のデータの対象は、各産業ごとのもの)

このグラフを見る場合には、

  • 付加価値額は、「営業利益(=人件費等控除後)」に「給与(人件費)」を加算した金額であること

に注意が必要です。このことは、付加価値額の上昇は、給与の上昇に影響されないことを意味します。

ほとんどの産業において、直近4年間で付加価値額が上昇しており、これに対応するように給与も上昇していることがわかります。

付加価値額の上昇率と給与の上昇率が正の相関関係にあることは、どういう意味でとらえるべきでしょうか?

好意的な見方をすれば、多くの中小企業は給与の引き上げ圧力をこなせている、と見るべきでしょう。(もし給与が上がる一方で、付加価値額が上昇していなければ、会社側の手取り額(営業利益)は減少してしまうはず)

その一方で、たんに景気回復と同時に雇用調整が進んだだけ、と見ることもできそうです。

「人手不足」という課題

日本政策金融公庫が四半期ごとに実施している「全国中小企業動向調査結果」によれば、現在中小企業が直面している経営上の課題としては「求人難」が大きい割合を占めています。

平成24年(2012年)以降は、なんらかの理由で従業員数が減っており、これ以降も中小企業における従業員数が回復していない傾向がうかがえます。

これらを考えるに、「採用難」という課題は、データと一致するものといえるでしょう。

まとめ

中小企業庁の統計「中小企業実態基本調査」から、中小企業の付加価値額と人件費の推移をもとに、「アベノミクス」による影響を分析しました。

これらを見たところでは、

  • 中小企業の従業員数は、何らかの理由で減ったままである
  • 平均給与は回復したが、もとに戻っただけという見方もできる
  • 景気回復期の人件費の上昇圧力には対応できている

という印象を持ちました。

中小企業の給与が政府の理想どおりに上昇しない理由については、世代交代、産業構造の変化などの要因もうかがえますが、こうした深い分析については筆者の手には余るように感じます。