医療費控除を目的とした還付申告は、474万人?

医療費控除の適用者数について、国税庁と総務省の統計の差から、医療費控除で還付申告をした人数を算出してみました。

【追記】その後、別の資料があることに気づいたため、初出の記事を改訂しています。

説明のポイント

  • 国税庁「申告所得税標本調査結果」は、納税した人の統計(標本調査)
  • 総務省「市町村税課税状況等の調」は、全納税義務者の統計(全数)
  • 2つの統計の差から、還付申告における医療費控除の適用者数を考えてみる
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国税庁と総務省の統計で、医療費控除の数が違う理由

筆者は以前から、国税庁と総務省の税務に関する統計において、医療費控除の適用者数が相当に異なっていることが気になっていました。

その原因をよく考えてみると、統計において、集計対象である納税者の範囲に差があることが理由のように思われます。せっかくなのでブログでまとめておきます。

国税庁統計における医療費控除の適用者数

医療費控除の適用者数についてネットで調べみれば、ほとんどの場合で表示されるのが、国税庁の統計を基にした数字です。

医療費控除の適用者数が載っている国税庁の統計は、「申告所得税標本調査結果」です。この統計は、タイトルでもわかるとおり「標本調査」であることに留意が必要です。

その「申告所得税標本調査結果」によれば、平成29年分における医療費控除の適用者数は「1,911,303人」とされています。(セルフメディケーション税制を除く)

また、要注意なのが、この統計は「申告納税者数」(平成29年分で641万人)が対象であることです。

例えば、給与所得者ですでに年末調整が終わっているものの、そのあとで税務署で申告して税金の還付を受けた人は、申告納税者数に含まれていません。

ちなみにそのような還付の申告した人は平成29年分で1,281万人います。(統計の「申告所得税」の項目を参照)

総務省統計における医療費控除の適用者数

次に、総務省の統計を見てみましょう。

総務省は、全国の自治体を管轄しており、その総務省がまとめている税務統計が「市町村税課税状況等の調」です。

国税庁の統計に比べて「ど」がつくほどマイナーであり、注目されることもあまりない統計なのですが、こちらは全ての市区町村の納税義務者の集計結果であることがポイントです。なお、標本調査ではなく、全数の集計結果になります。

この「市町村税課税状況等の調」第14表によれば、平成30年度における医療費控除の適用者数は「6,655,147人」とされています。

納税義務者の範囲ですが、「税額控除後、減免前に納税義務のある者」とされています。納税義務がない者や、均等割のみ納税義務を有する者は、この統計の対象からは除かれます。

収入のある人は基本的に住民税の納税義務があり、平成30年度の納税義務者数は6,304万人です。

国税庁統計で平成29年分だった期間は、総務省統計の平成30年度が対応します。なんだか1年ずれているように見えますが、所得税で平成29年分の確定申告を行った年のデータをもとに、平成30年度の住民税が決定されるので、同じ期間の所得が対象となります。

【追記】国税庁の発表に適用者数の計数が載っている

この記事を書いたあとで気づいた点について、ここで追補します。Tabislandの記事に、次の記載があることに気づきました。

適用者が最も多い医療費控除に関しては、同年度も749万人

(引用:Tabisland、2018.05.30

統計ではありませんが、国税庁の発表として、医療費控除の適用者数が発表されています。国税庁の発表資料を見ても、そのような情報は載っていませんが、マスコミ用のペーパーなどがあるのでしょうか。

平成30年分の確定申告の発表資料は、医療費控除の適用者数も情報として載るようになりました。

なんでこんなに違うのか?

医療費控除の適用者数を見ると、国税庁の標本調査で「191万人」だったのが、総務省の集計だと「665万人」でした。

人員にして474万人の差というのは、どういうことなのでしょうか?

差が大きく出る理由は、国税庁の統計では「納税した人」だけが対象ですが、総務省の統計では、還付申告した人も含む単なる「納税義務者」が対象となっているのが理由でしょう。

還付申告は474万人?

医療費控除の適用者数を見ると、国税庁の標本調査で「191万人」だったのが、総務省の集計だと「665万人」でした。

先ほども述べたとおり、国税庁統計が「申告納税者数」で、総務省統計は「納税義務者数」を調査範囲としています。

このことから、医療費控除を適用して還付申告した人は474万人である、という推計が可能でしょう。

また、総務省の統計(665万人)と、国税庁の発表(749万人)に差がある理由は、気になるところです。

安易な断定は難しいのですが、もともと納税の必要がない人が一定割合おり、その人たちが所得税の確定申告をしている可能性が考えられます。(確定申告の集計発表では適用者数として現れるが、住民税の納税義務者数では除外される)

このほか、市区町村の役所で住民税の申告だけをしている場合も、このズレの原因に含まれる可能性はあります。

世帯数で見てみると?

日本の世帯数は、5,332万世帯とされています。(総務省、平成27年

この世帯数と医療費控除の適用者数(665万人)を比べてみると、およそ12%が医療費控除を提供している世帯といえます。

医療費控除は同一世帯内における納税者が分散して申告する可能性は考えづらいため、このような考えが可能といえます。

マイナポータルの活用に意味はあるか?

ちょっと脇道にそれますが、最近話題となった情報にも触れておきましょう。

マイナポータルを活用し、医療費控除の対象となる集計を自動的に実施する方針が2018年10月の政府税調で公表されています。

この方針に沿って、健保法が近々改正される見込みとのことです。(朝日新聞、2019年5月15日

医療費控除の適用者数が665万人ということを考えれば、それなりに影響のある出来事といえそうです。

引用:政府税制調査会(2018年10月10日)資料

まとめ

国税庁と総務省の統計を比較し、そこから医療費控除の還付申告数を推計してみました。

これによると、医療費控除の適用した申告者のうちの還付申告だったのは474万人と推計しました。

医療費控除の適用者は、老年層が中心ということを考えれば、なんとなく理解できる結果のように思われます。

老年層が中心となる医療費控除において、マイナポータルを活用して集計、というのがどこまで浸透するのかも、興味深いところです。

例えば税務署が用意した申告用のパソコンでマイナンバーカードを使えば、一括で集計されて、すぐに申告可能という流れになれば楽でしょう。

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