遅ればせながら、本年もよろしくお願いします。昨年は電子帳簿保存法のことばかり書いていましたが、今年も気の赴くままに書いていこうと考えています。
今年1回目は、「税理士業とデジタルノマド」について考えます。
「ノマド」とは
「ノマドワーカー」というと、一般的にノートパソコンを抱え、コワーキングスペースやカフェなどで働く人を意味することが多いようです。
しかし、この記事で述べたい「ノマド」は、もう少し「遊牧民」に近い意味です。
例えばこの記事(21世紀の遊牧民「デジタルノマド」の時代が到来した テレワークで現実化する日本人技術者の予言とは?」)で書かれているような、「デジタルノマド」のほうをイメージしています。
つまり、定住することはなく、遊牧民のように、時節に応じて勤務地や住居を変えることを意味します。
税理士業は「定住」が基本
税理士業について考えてみると、基本的には事務所をノマド的に移動させることは、まずないように思われます。
もちろん、同一地域内で事務所を移転させることは当然にあるでしょうが、県をまたぐ移動を繰り返すといった状態は、まず見られないと思われます。
以下、その理由を挙げてみましょう。
理由1.従業員の通勤との兼ね合い
一般的な事務所であれば、従業員がいることが多いでしょう。
従業員がいるのに、「来月から隣の県に事務所を移転する!」と伝えたら、不満が生じることはまず間違いありません。つまり、定住性が生じるのは、従業員との関係性が理由のひとつにあるでしょう。
理由2.地元との関係性の固定化
定住性が生じるのは従業員だけでなく、税理士本人においても同様です。
顧客との関係では、基本的に事務所の「周辺」に顧客がいることが多いと思われます。もしそれが「周辺」ではないとしても、例えば東京にある事務所が、大阪の顧客ばかりを抱えているということは想定されません。
つまり、事務所の場所は、必然的に顧客との距離的な関係を意味します。客先への巡回訪問を行っていれば、遠方であるほどコストがかかるため、事務所をノマド的に移動させることは意味をなさないし、不信感を与える可能性もあります。
理由3.税理士会の関係
税理士そのものとしての立場もあります。税理士は必ずどこかの税理士会の支部に所属しますので、その支部において関係を築くうちに、定住性が必然的に生じるはずです。
理由4.生活圏のしばり
もっとも大きいのは、税理士本人と家族の関係でしょう。例えば、子供が地域の学校に通うようであれば、定住が好ましいはずです。
また、実家との関係でも、年配の親を気に掛けて近隣に住むこともあるはずです。
日本でもデジタルノマドを先進的に実践している方々の環境を見ると、独身の方が多いように思われます。
「勤務地」を移動する?
以前に見た記事で、世界中を旅しながら弁護士をされている、という方がいらっしゃることを知りました。
その記事を読んだところ、当然ながら世界中に事務所を移転させているわけではなく、拠点となる事務所は固定ですが、その勤務する本人は必ずしも事務所にいるわけではない、というスタイルのようです。
この場合はテレワークの延長であって、勤務地が任意の旅行地になるというスタイルと考えてよいでしょう。
テレワークの広がりで理解が広がったように、事務所と勤務地は必ずしも同一である必要はないということです。
現実的なのは事務所固定・勤務地自由か
業務が完全にオンライン化した場合、業務は必ずしも場所にとらわれる必要はなくなります。これは、IT企業を中心に、勤務地の自由化が進んでいることでもわかるとおりです。
では、税理士業はどうでしょうか。
ここまで述べた話で比較すると、事務所を移転させるようなノマドは、コストが大きいように思われます。
これに比べて、勤務地を自由化するテレワークは、比較的導入しやすいようにも思われます。(従業員がいる事務所の場合は、業務の管理方法が問題になるでしょう)
オンライン化するほど場所の制約はなくなる
テレワークの広がりで明らかになったことは、オンライン化が進んでいるほど、勤務地の制約は少なくなるということです。
顧客との関係性でいえば、オンラインを通じた業務関係を定着できるかがポイントといえそうです。もし巡回による訪問を基本としている場合は、これをオンラインに切り替えられるかが問題といえます。
(※誤解されないようにいうと、現地への巡回訪問を否定しているわけではありません。現地への訪問でしか確認できないチェックも当然にあります。しかしそのようなチェックの必要性がとぼしい場合は、オンライン化を進められるのではないかという意味です)
すべてがオンライン化した場合は、場所の固定化という制約もなくなりますが、税理士業では事務所の所在がノマド的に流動化するようなことは少ないと思われます。
現実的な路線として考えられるのは、前述のとおり、拠点となる事務所は固定で、勤務地を自由にするテレワークの拡大のように思われます。
現状の課題としては、オンラインに特化できるようなスタイルを定着させることは、ハードルが高いという点でしょう。
まとめ
税理士業とデジタルノマドの関係について考えてみました。
事務所を移転するノマドというよりも、勤務地を自由化するテレワークのスタイルは可能に思われます。しかし、そのためにはオンライン化を実現できていることが条件といえます。
もし税理士一人だけの事務所であり、オンライン化も完全に達成できているのであれば、事務所そのものをノマド化して移動させることも可能でしょうが、生活圏のしばりがないことが必要です。
仕事とは、「事務所の椅子に座ること」ではなく、「業務を仕上げること」なわけですから、勤務地は本質的に自由なはずです。
しかし過去は「制約」があるからノマドを実現できなかったのであって、その「制約」がない場合は勤務地の自由化が可能といえます。
「寒い時期、暑い時期、花粉の飛ぶ時期に別の地域で働けたらなあ……」というのは、誰しも憧れるスタイルと思われます。
ちなみに当事務所は税理士1人だけの個人事務所で、オンライン化も進んでいます。このため、勤務地自由のスタイルは比較的実現しやすいです。
一定時期に別の場所に滞在するというスタイルも、いずれは試してみたいと考えています。