経理を効率化するためには、仕訳や伝票における摘要も、できるだけ簡素であることが望ましいといえます。この記事では、摘要に含まれる「○月分」という記載を考えます。
説明のポイント
- 伝票や仕訳における摘要の「○月分」は必要か?
- 手作業で毎月数字を変更しているなら、負担削減として一考の余地あり
摘要の「○月分」は本当に必要か?
最近読んだ書籍で、興味深い指摘がありました。
古旗淳一著『経理高速化のための7つのITツール活用戦略』(税務経理協会、2016年)は、経理向けに処理を高速化する技術を説いた書籍です。
同書では、公認会計士による著者のノウハウが多数解説されており、社内で経理を担当している方にとって、役立つヒントが得られることでしょう。
さて、当ブログで同書を採りあげたのは、「摘要の記載方法」に関して興味深い指摘があったからです。
該当箇所を引用します。
前月の伝票をコピーして新しい仕訳を切る場合、「○年○月分電気料金」のような毎月修正が必要な記載があると、修正漏れを起こすミスが発生しやすいでしょう(P.130)
そもそも「○年○月分」の記載は本当に必要なのかと考えてみるべきでしょう(P.145)
一般的な会計帳簿の作成では、振替伝票を手作業で毎月コピーしていることもあるでしょう。
この場合、前月分からコピーした摘要欄に「○月分」という記載があれば、コピーのたびに手作業で修正が必要になります。
こうした手作業は意味がないので、省略したほうがよいのでは、ということです。
税法の要件はどうなっている?
帳簿における摘要の記載について、税法上の要件はどうなっているのでしょうか。
法人税法では、青色申告法人は仕入に関するもの以外の経費について「その取引の年月日、支払先、事由及び金額」を記載するものとされています。
消費税法では、「相手方の氏名又は名称、年月日、仕入に係る資産又は役務の内容、税込対価の額」が仕入税額控除の要件とされています。
法令ではこれしか書いていないので、具体的にどうやって摘要を書くのかについては、個々で考えていくしかありません。
国税不服審判所ホームページにおいては、消費税の仕入税額控除と帳簿等の記載不備に関する裁決事例が読めます。しかし、どれも微妙すぎる事例で、今回の話を考えるうえでは参考になりません。
一般的には、相手方の名称と内容が書いてあれば、当然に要件を満たせるといえるでしょう。
具体例
具体例として、電気料金における仕訳を考えてみましょう。
- (A)2020/9/30 10,000円 「電気料金 2020年9月分」
- (B)2020/9/30 10,000円 「電気料金」
(A)は「○月分」を含む摘要です。丁寧ですが、「○月分」はコピーのたびに手作業で変えるため、手間がかかります。
一方、(B)には「○月分」がありませんが、「電気料金」だけでも、記載要件は問題なく満たせるのではないでしょうか。
伝票には「年月日」の記載がありますので、計上した期間が「年月日」と乖離していない限りは、「○月分」の記載がなくとも、通常の経理サイクルに基づいて経費が定期的に生じていると考えるのが当然でしょう。
記載がないと不安ならば……
どうしても「○月分」のような表示がないと「不安」「見づらい」……ということであれば、伝票の「年月日」に対応する記載をしてはいかがでしょうか。
具体的には、9月分を未払として月末に計上しているのであれば、「電気料金 当月分」と記載すれば、伝票の年月日と対応することは明らかです。
この伝票を毎月コピーするならば、摘要を修正する手間はかかりません。
また、9月分の電気料金を10月に支払っており、支払日ベースで経費計上しているのであれば、「電気料金 前月分」などとすればよいでしょう。
期間が月初~月末にぴったり当てはまらないケースでも、テンプレートの記載をうまく工夫すればよいと考えます。
まとめ
古旗淳一著『経理高速化のための7つのITツール活用戦略』(税務経理協会、2016年)より、興味深い指摘に刺激を受けたので、当ブログで内容の一部をご紹介しました。
当ブログで摘要に注目した理由ですが、みんなが当たり前のように入力するのに「どうやって最低限の要件を満たしつつ、省エネできるのか?」を徹底的に検討したガイダンスは見当たりません。
記帳の負担は最小限であることが望ましいといえますので、同書の指摘は非常に有用であると考えます。
なお、近年では、銀行口座やクレジットカードの履歴データをインポートし、仕訳として作成することも増えました。
カードや口座振替の情報を利用すれば、その履歴には自動的に「○月分」という記載が載っていることも多いため、こうした自動記帳の場合では手作業の負担は生じないでしょう。