セルフメディケーション税制がイマイチな理由は何なのか?【1】

平成29年分(2017年分)から始まった「セルフメディケーション税制」について、あまり利用されていない不人気な実態を考える記事です。

説明のポイント

  • 適用者の割合は、全申告者の0.1%(2万6,000人)
  • 要望からの経緯を見ると、支出額の下限は1万円という案だったが、現状は1.2万円を下限としている
  • 当初の予算よりも、実際の適用額は大幅に少ない結果になっていると考えられる
  • アンケート調査によると、認知度は高まっているのに関心は低く、これから利用したいと考えている人も増加していない
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セルフメディケーション税制とは?

「医療費控除」という制度はよく知られていますが、その医療費控除の「特例」として、平成29年分(2017年分)に作られた制度が「セルフメディケーション税制」です。

「自分の身体は、自分でメンテナンスする」という意識を国民に訴えることで、増大する医療費を抑制したいという政府の意向も含まれています。

セルフメディケーション税制の特徴ですが、指定された医薬品の購入額が12,000円以上の場合に利用できる制度です。

その12,000円を超えた部分の金額から、そのまま所得控除になります。

引用セルフメディケーション税制制度概要(厚生労働省)

通常の医療費控除との違いですが、セルフメディケーション税制で対象となるのは、スイッチOTC医薬品の購入に限定されます。

セルフメディケーション税制の対象となる医薬品には、下のロゴが箱に印刷されています。

例えば、花粉症薬のアレグラや、風邪薬のエスタックイブなどが該当します。

どんな医薬品が対象になるのかなど、詳しい解説は厚生労働省のホームページに掲載されています。

適用者の数は増えていない

セルフメディケーション税制は、創設された平成29年(2017年)からすでに2年が経過した税制です。

その2年を比較しても、適用者数は2万6,000人のままで増えていない状況です。

引用平成30年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について(報道発表資料)(国税庁、2019年5月)

適用者の2万6,000人という数ですが、還付を含んだ全申告者の2,218万人と比較すれば、その適用者の割合は、わずかに0.1%です。

これはつまり、1,000人に1人適用しているだけ、ということです。

本来の医療費控除の適用者数は増加傾向にあるのを見れば、セルフメディケーション税制が「不人気」であることは明らかです。

この記事では、セルフメディケーション税制はなにが支障となって不人気なのか? という点を整理しつつ、改善案を考えます。

創設時から経緯を検証する

税制がいったんできてしまうと、そのしくみばかりが注目されがちです。そこで、この制度ができるまでの経緯を確認します。

まず、厚生労働省の平成28年税制改正要望におけるセルフメディケーション税制の発案について見ると、

要指導医薬品及び一般用医薬品を年間1万円以上購入した世帯に対して、その費用から1万円を差し引いた金額について最大10万円までを所得控除の対象とする

と提案しています。

現行の税制では支出額から「1.2万円」を差し引くとされていますので、発案は1万円だったことと比較すると、適用のハードルを2,000円引き上げて創設されたことがわかります。

なぜ2,000円を引き上げたのかはわかりませんが、要望時の減収見込額は732億円と前提付きながらも巨額になっています。この金額に不安を感じたために、要件を厳しくした可能性はあるかもしれません。

要件が厳しくなっているのは、控除額の上限も同じです。厚生労働省の要望では10万円とされていましたが、現行の制度では上限を8.8万円としています(最大の適用枠を縮小した)。

予算と結果の違い

そして、平成28年度税制改正が実施された結果、税制創設時における減税額の試算は30億円とされていました(財務省)。

 

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しかし、ふたを開けてみれば、セルフメディケーション税制が所得税で適用された額は、約1億円程度だったとも推計されそうです。これは、国税庁の統計「申告所得税標本調査結果」をもとにした推計です。

標本調査におけるセルフメディケーション税制の適用者数は約7,000人で所得控除額は2.1億円とされています。これを実数の2.6万人の規模に合わせて推計すれば、所得控除額の規模は約8億円と推計されます。

減税額は、この所得控除額に所得税率を乗じます。仮に平均の税率15%とすれば、減税額は1.2億円になります。

当初が30億円の減税の試算だったことを考えれば、まったく当てが外れた結果になっている……という事情がうかがえるでしょう。

アンケート調査はどうなっているか?

セルフメディケーション税制に注目しているのは、やはり医薬品を扱う業界のようです。

調べてみると、日本OTC医薬品協会と日本一般用医薬品連合会が実施している、セルフメディケーション税制に関するアンケート調査があることがわかりました。

これらの団体によるアンケート調査は、2016年からすでに5回実施されています。

そして最新のアンケート調査が「セルフメディケーション税制に関する生活者16万人調査」として、2019年6月にプレスリリースが出されています。

このアンケート調査から要旨を抜粋すると、

  • 1次調査の対象者16万のうち、約100名が適用していると回答した
  • 還付金額の平均値は3,000円だった
  • セルフメディケーション税制の認知度は70%台と高いが、利用したいという意向は11%で、過去と比較しても低いままである
  • OTC医薬品の活用で、医療費は下がっていると分析している

といった点が注目されるでしょう。

アンケート調査の信頼性について検証してみると、1次調査の回答数である16万のうち、セルフメディケーション税制を適用したと回答した人数は、約100名です。

その割合は0.06%ですので、国税庁の統計の0.1%に近似します。信頼度は高いと見てよさそうです。

アンケート調査で注目される点

この調査でとくに注目されるのは、アンケート調査のたびにセルフメディケーション税制の認知度は高まっているのに、利用したいと回答した割合はむしろ減っており、11%程度しかいないということです。

調査結果でもこの結果を受け止めて、

今後、認知度が向上してもセルメ税制の利用拡大は見込みにくい状況にあることが示唆されました

と述べています。

このアンケート調査の結果を受けて、OTC医薬品の対象品目の拡大や、1万2000円という支出額の下限の引き下げを税制改正の要求にしていく、と書かれています。

制度の改善案を見てみると、

  • 対象品目を全OTC医薬品に拡大する
  • 下限額を0円にする
  • 控除する下限額を0円にした上で、1万2,000円超の購入条件を付加する

といった方法が検討、試算されている点は、興味深いところです。

減税の効果に住民税は考慮されているか?

アンケート調査でちょっと気になった点を指摘しておきます。調査結果を見ると、還付金額の平均は3,000円とされていました。

所得税の税率を10%と仮定して、OTC医薬品を4万円購入したとすれば、還付金額は(4万-1.2万)x10%で、2,800円となります。

せっかくレシートを集めて確定申告をしても、還付金額が3,000円程度では、その労力に見合わないと考える人がいても不思議ではありません。

ただし、このアンケート調査では、住民税の減税効果までも認識されているのかは不明です。

住民税では、還付という目に見える還元ではありませんが、翌年度に納税する住民税は、セルフメディケーション税制の申告によって減税されます。

先ほどの「OTC医薬品を4万円購入」の事例にそえば、所得税が2,800円還付されるだけでなく、住民税も2,800円減額されるわけです。(住民税の税率は10%で固定)

目に見える還付金額だけでなく、翌年度の住民税の減税額にも注目して広報する必要があるかもしれません。

ちなみに、アンケート調査における還付額は平均3,000円とされています。この記事の推計では、セルフメディケーション税制の減税額は1.2億円(平均税率15%)と推計し、適用者数の実数は2.6万人でした。これを適用者数1人あたりにしてみると、4,600円の減税になります。このあたりが、セルフメディケーション税制の1人あたりの所得税減税額といえそうです。

ここまでのまとめ

2017年に始まったセルフメディケーション税制について、ここがよくないという点を分析する記事を書いています。

ここまでの内容を整理すると、

  • 適用者数は全申告者の0.1%にすぎない
  • 創設時の経緯を見ると、支出額の下限は1万円という案だった(現行は1.2万円)
  • 初年度の減税は30億円が見込まれていたのに、まったくあてが外れた少額の減税になっている
  • アンケート調査によると、認知度は高まっているのに、これから利用したいと考えている人はほとんどいない

ということがいえそうです。

長くなるため、この続きは次の記事で書きます。

平成29年分(2017年分)から始まった「セルフメディケーション税制」について、あまり利用されていな...