税金の「加算税」の説明で、これを「罰金」と書いているものを見かけることがありますが、なんだか微妙に違和感がありました。自分のなかでの理解をブログに整理しておきます。
法人税法の損金不算入では別だったような……
以前、加算税について調べていたときに気になったのですが、延滞税や加算税を「罰金」として説明するページが一定数あることに気づきました。
ブログ筆者の税理士受験生の時代の記憶ですが、法人税法の不正行為等の費用の損金不算入を学習したときに、「加算税」と「罰金」は別々で書かれていたような…… そんな、ぼんやりとした記憶もあります。
まずは、ここから調べてみることにします。
法人税法からの引用です。
第7目の4 不正行為等に係る費用等
55条
4 内国法人が納付する次に掲げるものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
一 国税に係る延滞税、過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税及び重加算税並びに印紙税法(昭和42年法律第23号)の規定による過怠税5 内国法人が納付する次に掲げるものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
一 罰金及び科料(通告処分による罰金又は科料に相当するもの及び外国又はその地方公共団体が課する罰金又は科料に相当するものを含む。)並びに過料
法人税法55条では、延滞税や加算税と、罰金等は別の項目で書かれています。このつくりをみると、加算税と罰金は別ものと考えてよさそうです。
税大講本では
税法は、財政収入の確保を図り、かつ、適正・公平な課税の実現を期するために、納税義務者等に対し各種の義務を課し、更にその実効性を確保するために、一定の義務の不履行ないしは違反行為に対して行政上の制裁と刑事上の制裁を科することとしている。
行政上の制裁とは、税法上の一定の義務違反行為に対して、行政機関の行政手続により科する制裁であり、現行の国税に関しては、各種の加算税、延滞税、過怠税などの定めがある。
刑事上の制裁とは、税法上の一定の義務違反行為に対して刑事罰(刑法第9条に刑名のあるもの)を科するものであり、現行の国税に関しては、懲役、罰金、科料及び没収の定めがある。この刑事罰によって処罰の対象とされる行為が、通常租税犯と呼ばれている。(後略)
と書かれています。
これを読むと、加算税は「行政上の制裁」、罰金は「刑事上の制裁」として区別されています。
法人に税務調査があって修正申告により加算税が課されたとしても、法人税法違反として「罰則」(懲役刑または罰金刑)が課されているわけではありませんので、納得できる話です。
このほかにもわかりやすい説明として、税務大学校の論文がありました。
過少(無)申告加算税や重加算税は、行政制裁ではあるが罰則ではなく、その情状に応じて正しい申告をしている納税者とそうでない納税者との負担のバランスをとり、申告納税制度の実効性を確保するための行政上の措置として整備され、納税者のコンプライアンス向上という観点からは、その存在により適正な申告義務の履行を非刑罰的な方法で確保する役割を果たしている。
引用:柿原勝一「加算税制度が納税者の税務コンプライアンスに及ぼす影響」(2022年)
金子宏『租税法』では
金子宏『租税法』(第24版)では、加算税と刑罰の併科における憲法39条の二重処罰の禁止に関して、
加算税は、刑事制裁とは異なり、申告義務および徴収納付義務の適正な履行を確保し、ひいては申告納税義務および徴収納付制度の定着を図るための特別な経済的負担であって、処罰ないし制裁の要素は少ないから、それは二重処罰にはあたらないと解すべきであろう(P.905)
と述べています。
なぜ「罰金」で説明することが多いのか
これらの資料を見る限りでは、加算税は罰金とは異なり、行政上の制裁と整理されているようです。
ここで不思議に思うのは、なぜ加算税を罰金と説明することが多いのか、ということです。もはや揚げ足取りのようで多方面から恨みを買いそうですが、少し考えてみます。
あくまで個人的な考えですが、罰金という言葉が、世間一般で使われるなじみのあることばであり、「追加負担すべき金額」としての意味として理解しやすいことがあるかもしれません。
このため、わかりやすさ優先で「罰金」と説明している可能性もあります。あらゆるコンテンツが、論文のような緻密さや厳密さを要求されるわけではないことは、ブログ筆者も当然に理解しています。
ブログ筆者もこのブログでは「ペナルティ」ということばで、加算税を説明したことがあります。ペナルティという用語は「追加負担がかかる」というイメージを伝えやすくするためのものです。このペナルティが日本語化されると、罰金として説明されやすくなる、という事情もあるかもしれません。
このほかにも、税理士の職業上の経験もあるでしょう。税理士の日常の業務において罰則(例えば法人税法違反)の適用を実際に目にすることはまずありませんので、刑事上の制裁と縁が遠い、という事情もあるかもしれません。
実際のところ、加算税を一言でどう説明すればいいのかというのは、突き詰めて考えると結構難しいです。「罰金」は誤解があるので避けるとして、代替候補としては「ペナルティ」や「追加負担」が考えられそうですが異論もありそうです。