奇妙な「ビジネス思考」の一つに、「風邪を引くのは、自己管理ができていないからだ」というものがあります。この点を考えます。
説明のポイント
- 風邪を引くことは誰でもありうる
- 風邪を引いたからといって、だらしない自己管理、体調管理だったとは断定できない
- 精神論で従業員を断罪するよりも、社内体制の再チェックを
「風邪休み」を自己管理の問題と批判する不思議さ
例えば、仕事の忙しさがピークを迎えたときに、従業員が休んだとしたら、上司はどのような言葉をかけるでしょうか。
たまに耳にするのは「風邪で休むなんて、自己管理がなっていない!」という、もっともらしい「訓示」を垂れることです。しかし、この「訓示」はあまり意味がないどころか、むしろ組織に害をもたらす精神論といえるでしょう。
ここでいう精神論とは、「ガッツでなんとかしろ」という、精神力で何でもカバーできると信じている非科学的な考え方をいいます。
無菌室で生活しているわけではない
風邪を引いて体調不良を抱えた従業員は、本当に自己管理ができていないのでしょうか?
人間は社会的な動物です。家族と生活し、列車で通勤し、食堂では他人が作った料理を食べています。このように、従業員は無菌室で生活しているわけではありません。
社会的な環境下では、接触や飛沫(ひまつ)からウイルスに感染することが、普通にありえるわけです。例えば、マスクをしても、インフルエンザの感染を完全に防ぐことはできないといわれています。
もし完全な体調管理を求めるならば、バイオテロにも対応できるような防護服を支給する必要があるでしょう。
結果から原因を決めつけているのでは?
そうはいっても、「きちんと体調管理をしていないから、体が弱って、風邪に負けて熱を出すんだ」という反論が予想されます。
この主張でいけば、医療機関にかかる患者は、いい加減で適当な生活をしているから風邪を引いた、だらしのない人々ということです。
確かにそういう人もいるかもしれませんが、全員に当てはめるには無理がある理屈でしょう。
そもそも、従業員が本当に「きちんと体調管理をしていない」のかは、実際のところ誰にもわかりません。
結果だけをとらえて原因を決めつけるのは、論理的ではない思考であり、ビジネスでは危険な考え方です。
体調の不良と、勤務態度の不良を同一視していないか?
不思議なのは、なぜこの奇妙な「自己管理がなってない!」という「訓示」が存在しているのか、ということです。
これは一つの仮説ですが、体調不良と、勤務態度の不良を間違って(もしくは無意識的に)同一視しているのではないか? ということが考えられます。
職務規程に違反しているのは問題ですが、体調不良で休んだことが本当に規程違反なのか、確認が必要でしょう。
または、日頃からその従業員に対して常々好ましく思っていないことがあり、体調不良という機会を捉えて「訓示」(または嫌み)をいいたくなる、とも考えられます。
しかし、その「訓示」が結果としてどのような効果をもたらすのか、再考の余地はあると思われます。
上司の役目とは従業員の不在リスクを考えること
上司の役目は、状況を把握し、仕事の流れを円滑にすることです。従業員がいっとき、やむを得ない理由で休んでも、そのリスクを織り込んで考えておく必要があります。
少なくとも、「おまえが休んだせいで、みんなが大変になっただろう!」などと激怒するよりも、「もしかしたら、従業員の管理が行き届いていない点があるかもしれない」と見直すことが大事です。
人心掌握術としても、まったく逆効果でしょう。病み上がりの部下に罵声を浴びせることは、部下との関係を険悪にする恐れがあります。
まとめ
風邪を引いたり、体調不良になることは偶発的な原因で誰にでも起こりうるわけです。
従業員に「自己管理がなっていない!」と訓示するのは、「気合いで風邪を吹き飛ばせ! 気合いが足りんぞ!」と同じレベルの発言です。(気力も大事だとは思いますが、それがすべてではありません)
勘違いされると嫌なので強調しますが、自分の体調を整えることは大事だと思います。私のような個人事業主ですと、自分が仕事しないと収入もありません。でも、風邪を引くことはもちろんあります。