クラウド労務ソフトのSmartHRが、ペーパーレスの年末調整に対応したと発表しました。この点について、実務を解説します。
説明のポイント
- SmartHRにペーパーレスの年末調整機能が実装
- ペーパーレスの年末調整は、税務署の承認まで最短1ヶ月が必要
SmartHRとは
SmartHRとは、株式会社クフ(KUFU)が提供するクラウド型の労務管理ソフトです。中小企業を中心に、社会保険の申請・管理ができるクラウドサービスを提供しています。
競合する類似のサービスは見当たらず、労務管理を効率化できる手段として注目されます。
SmartHRについては、今年(2016年)9月に「0円プラン」が提供されたことを以前の記事で紹介しました。
SmartHRがペーパーレスの年末調整に対応
SmartHRは2016年10月17日、ペーパーレスの年末調整に対応したと発表しました。
開発会社のクフによれば、この機能によって、年末調整にかかる所要日数を3分の1に短縮することも可能と試算しています。
参照:【プレスリリース】PCやスマホで年末調整ができる「ペーパーレス年末調整機能」を公開しました(クフ、2016年10月17日)
従来の年末調整とは
現在、多くの中小企業では年末調整を紙ベースで行っています。
この場合、従業員に来年分の「扶養控除等申告書」と当年分の「保険料控除申告書」の2枚の用紙を配布します。従業員は、これらの申告書に手書きで記入し、会社に提出します。
会社は、従業員から提出を受けた申告書を、法定保存期間において保管します。
参照:[手続名]給与所得者の扶養控除等の(異動)申告 (国税庁)
参照:[手続名]給与所得者の保険料控除及び配偶者特別控除の申告(国税庁)
ペーパーレスの年末調整とは
ペーパーレスの年末調整とは、従業員に申告書を紙で配布するのをやめて、すべてオンラインの記入に置き換えることを意味します。これを実現できるのが、SmartHRを利用した年末調整です。
また、税務署の承認を得ることで、従業員が記入した各種の申告書を印刷せず、そのままクラウド上に保管することも可能になります。
従業員に申告書を記入してもらう流れは、下記のSmartHRのヘルプを参照してください。
参考:従業員側のデモ画面(SmartHRヘルプセンター)
印刷を不要にする税務署への申請
ペーパーレスの年末調整を実現するためには、税務署長から電磁的方法によるための承認を得る必要があります。
提出する書式は、「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」です。
参考:[手続名]源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請(国税庁)
この申請書を提出後、提出した日の属する月の翌月末で承認されたものとみなします。
これを「みなし承認」といい、承認の通知は通常行われません。この電磁的方法によるためには、税務署長の承認を得るまでに、最低1ヶ月間が必要です。
また、年末調整に関係のある各種申告書の提出期限は次のとおりです。
- 平成29年分の扶養控除等申告書の提出期限 ……平成29年の最初の給与が支払われる日の前日まで
- 平成28年分の保険料控除申告書の提出期限 ……平成28年の最後の給与が支払われる日の前日まで
年末調整は、保険料控除申告書の提出期限までに行います。つまり、平成28年分の年末調整をSmartHRによりペーパーレスで行うためには、
- 今月末(10月末)までに承認申請書を提出
- 11月末にみなし承認
- 12月中にペーパーレスで年末調整を実施、年内最後の給与を支払い
という流れになると考えられます。
注意点
紙に印刷した年末調整関係の申告書は、保存時においてスキャナ保存はできません。年末調整をペーパーレスで実現するためには、一切の過程において紙を使わないことが求められます。
この件については、以前の記事で説明しました。
また、ペーパーレスといっても、保険料控除申告書に添付すべき書類がある場合は、その書類は会社に提出・提示する必要があり、会社においてもその提出書類の保管が求められます。
税制として、年末調整を「完全ペーパーレス」とするのは難しく、保管する資料が少量でも生ずることに留意が必要です。
まとめ
SmartHRの新しい機能である、ペーパーレスの年末調整を紹介しました。
恐らく今後、他社のクラウド給与ソフトメーカーからも、同種の機能がリリースされると予想されます。ペーパーレスの年末調整だけに注目してSmartHRに飛びつくのは、まだ待った方がいいかもしれません。
とはいえ、SmartHRが年末調整のペーパーレス化の実現に先鞭をつけた点は、評価できるでしょう。