クラウド会計の利用率が「25%」というのは本当か?

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クラウド会計の利用率について、2016年末時点で「全法人の約4分の1以上、個人事業主と合わせて100万を超える事業所が導入している」と述べる書籍がありました。

そこに書かれている、利用率「25%(4分の1)」は本当なのか、気になったので調べてみました。

説明のポイント

  • 国税庁の統計である申告数をベースにすれば、25%という利用率は見積もり過剰
  • ある民間会社の調査レポートでは、4%台を示すものもある
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クラウド会計の利用率

クラウド会計に詳しい会計士・税理士らによる書籍は、2017年1月に発刊されたものです。

この書籍は、一般の方に向けた内容ではありません。既に会計ソフトに知識のある方向けで、MFクラウド会計を利用した解説が中心となっています。

会計について知識があるものの、まだクラウド会計をよく知らない方にとっては、とくに興味深く読める書籍です。

この書籍は有名出版社から発刊されたものであり、この書籍に関するネットの連載も見られます。

書籍はとてもよくできているのですが、この書籍が述べている、クラウド会計の利用率が「4分の1(25%)」という話は、本当なのでしょうか? この点が気になりました。

計算の前提

クラウド会計を利用する層は、法人および個人事業主です。このため、利用率の計算は、

  • 分子……利用者数
  • 分母……事業者(個人事業主+法人)の総数

をもとに計算した割合になります。

事業者のなかには、そもそも会計ソフトを利用していないところも多数あります。このため、「会計ソフトを利用する総数」に対するクラウド会計利用者の割合を「利用率」と考える場合もありますが、この検証は「全法人」についてのものであるため、考慮しません。

分子(利用者数)について

利用者数について、クラウド会計の解説本は、次のように述べています。

2016年末現在、クラウド会計を使用している企業の数は、少なく見積もっても100万事業所を超えるといわれています。

この「100万事業所」という数字が、何を根拠としているのかはわかりません。私が探したところでは、クラウド会計の利用者を網羅した調査は存在しませんでした。

ただし、シェアの高いクラウド会計ソフトである「MFクラウド会計」「freee」の2つのサービスは、次のように発表しています。

60万と40万を合計すれば、100万ユーザーになります。(※ただし、「ユーザー」であって、「事業所」ではない)

また、これらの発表日が古いことに留意が必要です。

MFクラウド会計も、freeeも、最近はユーザー数の詳細を発表しなくなっています。実際のユーザー数は、2016年末において、これらを大きく上回っていると予想されます。

上記2社以外にも、「弥生会計オンライン」や「crew」など、他のクラウド会計ソフトを利用するユーザーもいます。

「ユーザー数=実際の利用者数」なのか?

ネガティブな考え方としては、「freee」や「MFクラウド会計・確定申告」を重複して利用している層や、利用をあきらめて放置している無料プランのユーザー層も一定存在するということです。

どのソフト会社も「かんたん」をアピールしていますが、誰でも使いこなせるツールかといえば、そうとは言い切れません。

また、ソフト会社は宣伝効果を狙って、ユーザー数を大きく見せたい意欲があるでしょう。このため、アクティブではない層も含めて「ユーザー数=実際の利用者数」と考えるのは、違和感があります。

分母(個人事業主+法人)

分母となる事業者数について、クラウド会計の解説本は、次のように述べています。

日本の法人数は400万社弱ですから(2016年中小企業庁調査)、たった4、5年で、全法人の4分の1がクラウド会計を導入したことになります。

しかし、中小企業庁による調査で「法人数」を調べたものは、私の探した限りでは、見当たりませんでした。

なお、中小企業庁が発刊した「2016年版 中小企業白書」では、総務省の統計である「経済センサス」を根拠に「企業数」を掲載しています。これによれば、日本の企業(法人+個人事業主)の数は、382万社とされています。

参考:「2016年版中小企業白書」(中小企業庁)の付属統計資料「都道府県別企業数、常用雇用者・従業者数(民営、非一次産業、2014年)」

あくまで推測になりますが、この書籍が全法人数を400万弱とした根拠は、経済センサスということになるのかもしれません。

経済センサスで見積もるのは正しいのか?

経済センサスにおける企業数には、自宅開業のフリーランスや、アフィリエイター、個人の不動産オーナーなどはカウントされていません。

参考経済センサス‐基礎調査に関するQ&A(総務省)のうち「B-2 どのようなところが調査の対象となるのですか?」を参照

クラウド会計の利用者は、その利用形態に親和性の高い、フリーランスやアフィリエイターなどが相当数含まれていると推察されます。

こう考えると、経済センサスを根拠として「法人数」を400万と見積もるのが、本当に正しいのかは怪しい印象です。

税務の申告数で見積もるほうが適切では?

日本で利益を生む活動を行う限り、税に関する申告を避けることは困難です。このことから、帳簿をつけることの目的・終着点は、大半の中小企業・個人事業主にとって税務の申告であるといっても過言ではありません。

つまり、アクティブな「法人と個人事業主の総数」とは、税務の申告数であると考えられます。

実際に国税庁の統計を見てみると、次のとおりの申告数です。

  • 事業所得 ……3,736,516人
  • 不動産所得 ……1,572,309人
  • 普通法人 ……2,628,476社

参考統計情報(国税庁)より平成26年の法人税、所得税

これらの申告数を合計すると、普通法人と個人事業主を合計した総数は、約800万であると考えられます。

クラウド会計の利用率「25%」は本当か?

結論です。利用率を「25%」と見るのは、次の理由から怪しいと考えます。

まず、企業の総数を400万(分母)とするのであれば、事業所をもたない個人事業主を無視した分析になります。この分母は、国税庁の統計を採用して、800万と見積もる方が適当と考えます。

また、割合の分子である「実際の利用者数」も、広く公表された数字は存在せず、実際のところは不明です。

試算として、仮に利用者数を100万とすれば、100万÷800万=「利用者数12.5%」という計算になります。

調査会社のレポートでは「4.4%」という結果も

また、クラウド会計に関する調査会社のレポートにおいては、クラウド会計の利用率を事業者の全体の「4.4%」(※会計ソフトを利用していない層も含んだ総数の割合)とする調査結果もあります。

調査の全体数は13,000程度ですが、4回目を数える調査結果であり、信頼性は高そうです。

参考第四回 クラウド型会計ソフトの利用動向調査を実施しました(デジタルインファクト、2016年8月4日)

この調査結果を考えると、クラウド会計の利用者が100万という点も、少々怪しいといえそうです。

なぜなら、この「4.4%」を根拠にすれば、クラウド会計の実際の利用者数は、35万程度(800万×4.4%)と計算できるからです。

ここから、クラウド会計ソフト業界の全体の売上高も、おぼろげな推測が可能です。

まとめ

クラウド会計の利用率「25%」という話は、私が調べた限りでは、怪しい結果になりました。

いつかは25%になる日も到来するでしょうが、それは現在(2016年末)ではないと考えます。

同業者の考え方を検証するのは心苦しいのですが、いかにセールストークであるとしても、2016年末の状況下で「25%」とした利用率は、過大な見積もりと考えます。

この「利用率」については、書籍の前書きだけでなく、この書籍を宣伝するWebサイトの連載においても同様の趣旨が書かれています。

異なる別の見方があることを知らせるため、あえて指摘する次第です。

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