紙の文書は神経質なほどに保管しているのに、電子メールだと、なぜか保存の意識が薄くなりがちです。こうした傾向に警鐘を鳴らす提言が発表されていますので、ご紹介します。
説明のポイント
- 電子メールは、組織の業務記録として保存管理が必要な電子文書
- 個人的なメールとは異なり、ビジネス用のメールは気軽に全削除をしてはいけない
電子メールを雑に扱ってはいけない
紙の文書だと、神経質なほどにファイリングしているのに、電子メールだと、なぜか雑に扱っている……。
こうした意識は、だれでもゼロとはいえないでしょう。
このように問いかけている筆者も同様に、こうした意識がないとは言い切れません。
実物が存在する紙の文書とは異なり、電子メールなどの電子文書は、どうしても扱いが雑になりやすい傾向があると感じます。
これは、紙のように実体が存在せず、目に見えないという点も大きいでしょう。
実例を挙げると、サーバーの容量が不足してきたので、仕事で使っている電子メールを全削除した……という話。
この行為、ビジネスでは「NG」の可能性が高いです。
電子メールは、なぜ雑に扱ってはいけないのか?
電子メールの全削除は、なぜ「NG」なのでしょうか?
ビジネスにおける電子文書の普及促進を目指す業界団体「公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)」が発表した提言書では、次の記載が見られます。
電子メールは、意思疎通機能だけではなく、組織の業務記録として保存管理が必要な電子文書であることも、同時に認識する必要がある
引用:「電子メールの運用管理と保存—モデル社内規程の提案」(2017年10月)
こうしてみると、電子メールは紙の文書よりも、扱いが不慣れなので、むしろ厄介のようにすら感じます。
電子メールは、「組織の業務記録」を兼ね備えたものであり、その取り扱いには慎重を期すべきであることがわかります。
税法上の要件も問題になる
電子メールの保存について重要な点は、税法上の要件も関係しています。
なぜなら、税法・関税法では、取引に関係のある電子メールは、電子メールのまま保存することを要件として求めているからです。
これは、「電子帳簿保存法」という法律に記載されています。
その法律(第10条)に書かれていることをわかりやすくいうと、こんな感じです。
つまり、ネットで商取引した記録があるならば、その電子メールを気軽に「全削除」をぶちかますと、税法・関税法の保存要件に違反する可能性があるのです。
こんな話、誰も教えてくれなかった! という感じがしませんか。
これは、大企業だけの話ではありませんよ。ごく一般的な個人事業主であっても、同じ話です。
そして、もし税務調査があった場合に、その場で想定されるやりとりとしては、例えばこんな感じでしょうか?
事業者:いやーすいません、電子メールは削除しているので、残っていません(汗)
調査の現場では、これだけで何かしらのイエローカードが出された事例を筆者は知りませんが、今後はわかりません。
電子メールの保存が重要な話。これで伝わるでしょうか?
電子メールの全削除とは、紙の文書をまるごと、ごみ箱に放り込んだのと同じ行為である、と認識しましょう。
規程の整備を検討しよう
このように、電子メールは重要な記録ですので、税法の観点からも、全削除はやめてほしい行為です。
そうかといって、すべてのメールを保存しろということではありません。海外から送られてくる、どうでもいいスパムメールは、もちろんのこと削除して構いません。
どういったメールを残していくのかは、社内規程を整備することが望ましいとされています。
税法上においても、電子帳簿保存法にからむ保存要件に関しては、規程の整備が求められています。
なにかしらの規程の整備は、どの事業者においてもおおよそ必須なのかもしれません。
規程のひな型については、先ほど紹介したJIIMAの提言に「モデル社内規程」が掲載されていますので、自社の規程づくりの参考にするとよいでしょう。
電子メール・チャットソフトのログ保存を意識する
電子メールのサービス次第では、容量の大きい添付ファイルを多数添付していると、容量不足になる恐れもあります。
しかし、もし容量不足になったとしても、安易に全削除をしてはいけません。従業員にも、そのように認識してもらう必要があります。
利用する電子メールのサービスでは、どうやって過去ログを保存できるのかを確認しておく必要もあるでしょう。
また、ビジネスで利用されているツールは、電子メールだけとは限りません。例えば、チャットソフトの場合はどうでしょうか?
人気のビジネスチャットソフトである「チャットワーク」のヘルプを見ると、このようになっています。
- ログ・ファイルのサーバー内の保存は無期限
- チャットログの外部出力による保存機能は、エンタープライズプランのみ
- 添付ファイルには容量制限がある
このように、電子取引に関係する場合は、利用サービスにおけるログの保存状態も留意する必要があります。
まとめ
公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)が発表した提言書をもとに、電子メールの保存の必要性をご紹介しました。
個人的なメールと同じような感覚で、業務上のメールを安易に削除している事例もあるようです。
これはビジネスの規模の大きい・小さいは関係のない話です。紙の文書の保存と同じように、電子メール・電子文書の保存も意識する必要があるでしょう。
参考:「電子メールの運用管理と保存—モデル社内規程の提案」(JIIMA、2017年10月)