このブログでこれまで紹介してきた、電子帳簿保存法における電子取引の「検索要件の簡素化」について、改正後の対応を再度考えてみます。
連載の最終回です。
説明のポイント
- 改正後、領収書等のPDFを検索要件を見たしてどう保存するか
- 紙保存が廃止とされ、あいまいな対応はできない
これまでの振り返り
まず、記事の第2回では、現行の電子帳簿保存法の検索要件において、どのように検索要件を満たすか、有識者の意見を紹介しました。
近年見られるようになった見解として、電子取引に該当する領収書等のPDFをダウンロードした場合は、帳簿などに紐付けをしないと検索要件の達成が難しい、という考え方があります。
そして、この要件を満たせない場合の「回避策」として、書面印刷も可能になっていたわけですが、令和3年度税制改正により書面印刷は不可とされます。
税制改正では検索要件が「簡素化」されます。この内容は、第3回で説明しました。
その「簡素化」の理由については、この書面印刷の不可が影響しているものと見られます。このほかにも、電子インボイスへの影響や、クラウドサービス、電子メールの保存に対応するためといった事情もあるのでは……という考察を、第4回と第5回の記事で紹介しました。
有識者の重要な指摘として、電子メールの保存では完全に検索要件を満たせるソフトは存在しない、というものがありました。
その理由として、そもそも電子取引における検索要件とはEDIを意識したものであり、電子メールの保存は意識されていなかったためではないか、と考えられているようです。
領収書等のPDFの保存は謎が多すぎる
このブログの記事で主な論点としているのは、第2回で紹介したとおり、領収書等のPDFの保存をどうすればいいのか、という点です。
別になにか特殊なことをしたいわけでなく、普通の経理で私たちはどうすればいいのか、という単純な疑問です。
ところが、この点について「検索要件」をつきつめて考えると、謎が多く困ってしまうわけです。こうした疑問は第2回の記事でも紹介しました。
「ウェブサイト上に領収書を保存する」は検索要件を満たすか?
第2回の記事の追記として、さらなる疑問をあげておきます。
PDF形式で保存している領収書といっても、そのもととなったデータは、購買サイトのHTMLをPDFに変換させたもの、という場合もあるでしょう。
この件について、国税庁Q&Aでは、次の対応が示されています。
問22 電子取引を行った場合において、取引情報をデータとして保存する場合、どのような保存方法が認められるでしょうか。
【回答】電子取引を行った場合には、取引情報を保存することとなりますが、例えば次に掲げる電子取引の種類に応じて保存することが認められます。
1 略
2 発行者のウェブサイトで領収書等をダウンロードする場合
(1) PDF等をダウンロードできる場合
① ウェブサイトに領収書等を保存する。
② ウェブサイトから領収書等をダウンロードしてサーバ等に保存する。(2) HTMLデータで表示される場合
① ウェブサイト上に領収書を保存する
② ウェブサイト上に表示される領収書を画面印刷(いわゆるハードコピー)し、サーバ等に保存する。
③ ウェブサイト上に表示されたHTMLデータを領収書の形式に変換(PDF等)し、サーバ等に保存する。
ここで示された内容を見ると、PDFを自社で保存する以外にも、「ウェブサイト上に領収書を保存する」という対応も可能とされています。
これは、購買サイト側のサーバーにデータが残っているので、データは保存されている意味と考えてよさそうです。
しかし、この方法で、本当に検索要件までも満たすことはできるのでしょうか?
もし満たせるとして、発行者の購買サイトにログインして、そのなかで検索ボックスがあればよいのでしょうか。その場合、金額の指定はどうなるのでしょうか。
クラウド会計を前提に「前のめり」になりすぎたのでは?
令和3年度税制改正までの流れを見ると、電子帳簿保存法の改正要望のなかで中心に据えられてきたのは、クラウド会計との連携でした。
新経済連盟と日本商工会議所が発表した資料を見ても、中心に据えられているのはクラウド会計です。
引用:新経済連盟「中小企業における会計業務のデジタル化と紙保存」(2020年10月、政府税制調査会提出資料)
では、クラウド会計ではない会計ソフトを使っている事業者は、どうすればいいのでしょうか?
クラウド会計では、仕訳にPDFを紐付けるような機能が備えられていることもありますが、インストール型の会計ソフトでは、こうした機能は少ないと思われます。
この場合、手もとにダウンロードした領収書等のPDFがあるとして、どうやって検索要件を満たせばいいのでしょうか。
パンドラの箱を開けたようなもの?
こうして考えると、電子取引における「検索要件」は、電子メールの保存と同様に、実務におけるグレーゾーンだったのかもしれません。
税制改正により紙保存が廃止されることで、「じゃあどうしたらいいんだ?」ということがより問われることになります。
これはある意味で、「パンドラの箱」を開けたようなものです。
2022年(令和4年)以後、売上1,000万円超の会社では、電子取引の保存において検索要件は必須とされます。よって、経理上どうしても意識せざるを得ません。
検索要件は簡素化されたのであって、廃止されたわけではありません。また、紙の印刷に逃げることもできません。
そして、要件未達の場合には、最終的に「青色取消し」というギロチンがあります。
国税庁には、こうした疑問に答えてほしいところです。
もし検索要件を達成しづらい電子取引が個別にあるのならば、施行規則では無理でも、通達によって要件を緩和してもらえないものでしょうか。
すべての電子取引の保存において、検索要件が絶対視されると、要件の達成が不可能な状況はありうると感じます。
まとめ
令和3年度税制改正における電子帳簿保存法の電子取引と、「検索要件の簡素化」に関する考察をしてきました。
筆者が気になっているのは、文中に記載したことの繰り返しになりますが、ふつうの中小企業が領収書等のPDFをどう保存したらいいのか、というその一点です。
そして、領収書等のPDFとは、すなわち「構造化されていない電子インボイス」のことですので、消費税のインボイス制度とも関連するかもしれません。(電子インボイスについては第4回を参照。紙保存が不可とされるかは不明)
考えてみると、検索要件はグレーゾーンを含む「おおざっぱ」な状況だったわけですが、こうしたままに紙保存が廃止されることになり、逃げ道がなくなってしまいました。
あいまいな対応も許されなくなってしまったので、実務対応としては、改正後の電子帳簿保存法施行規則、通達、Q&Aを注視するしかないでしょう。