自治体への不満表明行動としての「ふるさと納税」の可能性

過剰な返礼品で語られることが多い「ふるさと納税」。ここでは少し視点を変えて、居住する自治体へ不満を表明する行為としての「ふるさと納税」の可能性を考えてみます。

説明のポイント

  • 「ふるさと納税」は、自治体への不満表明に使えるか?
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「ふるさと納税」の問題

税金に関心のある人ならば、すでにうんざりするような「ふるさと納税」に関する議論を見てきたことでしょう。

「ふるさと納税」とは、自分が負担する一部の住民税(所得税も一部含む)の納付先を、居住する自治体ではなく、任意の自治体に変更できる制度です。

都市部に集中する財源を地方に分配する政策として始めたはずでしたが、「寄付」を受けた自治体がお礼の品を返送したことで自治体間の競争を生み、また、複数の自治体への「寄付」が可能だったことから、高所得層ほど返礼品の複数取りが可能になるなどの問題が噴出しました。

返礼品相当額を控除対象から除外させるか、寄付先を1年1箇所に限定すれば問題はあらかた解決するはずですが、政府としては返礼品の内容や割合を抑制するという対応にとどまっています。

自治体政策への不満表明行動としての可能性

前置きが長くなりました。

この記事の趣旨は、そんな返礼品ばかりが語られる「ふるさと納税」を、別の観点から検討することです。

具体的には、自分が住んでいる自治体の政策に不満を表明するための行動として、「ふるさと納税」を使えるか? という点を考えます。

例えば、自分が住んでいる地方自治体(都道府県・市町村)について、そこで行われている政策が、自分の理念とは著しく異なることがあったとします。

事例をあげるとすれば次のとおりです。

  • 公約を掲げて当選した首長が、その公約を破っている
  • 首長の多選により、行政の士気が低く改革志向に乏しい
  • 議会がチェック機能を果たしていない
  • 情報公開に消極的で行政への信頼度が低い

こうした場合に「ふるさと納税」を行使することで、自分が居住する自治体に不満を表明できるのではないか、という可能性を考えてみましょう。

メリットからの視点

不満表明の一般的な方法としては、陳情や請願があるでしょう。

陳情や請願が受け付けられない場合には、意見を公に訴えるために署名運動を起こして賛同者を集めることができるでしょう。

それでも解決せず、利害関係が著しく対立した場合は、リコール(解職請求)という可能性もありますが、これらは当然に莫大な労力を要します。

その他にできる不満表明行動としては、「投票所に行かない」「引っ越す」という消極的な不同意になるでしょう。

これらに「ふるさと納税」という選択肢を加えるとするならば、どうなるでしょうか。

自分や賛同者の個人住民税の一部を、別の自治体に財源を移すことができます。以下の図では、自治体へ不満表明をする場合の労力と手段を適当に順位づけしてみました。

自治体への不満表明方法と、労力との比較

しかし、問題もあります。それは、「ふるさと納税」を政策への不信任として、はっきりと表明する方法がない、ということです。

これは「なんであなたはふるさと納税したのですか?」という質問ができないからで、ごく当たり前の話でしょう。(そのような制度設計にするか、統計を取れれば別ですが)

もしはっきりと表明したければ、抗議行動の一環で隣接自治体に寄付したことを自主的に表明するという方法はあるでしょう。

なお、「ふるさと納税」で移せる個人住民税は一部にとどまる点や、個人住民税は必ず日本全国どこかの自治体に納税しなければならないので、代替となる納税先としての自治体を見出す必要もあります。

デメリットからの視点

考えられるデメリットは、「ふるさと納税」そのものの問題です。

「ふるさと納税」により財源が他の自治体に移転しますので、自分が居住する自治体の政策の選択肢が狭まるほか、内容も乏しくなる問題を生み出します。

つまり、自らが居住する自治体を「よくしたい」と考えた不満表明行動が、「ふるさと納税」を通じて、かえって自らの自治体に困窮を導くジレンマを生みます。

極端にいえば、「私の理想じゃない自治体など、滅びてしまえばいい」という、破滅的な行為です。もちろん「滅びてしまえばいい」はいいすぎですが、自治体にペナルティを与えるという効果はあるでしょう。

近い将来に他の自治体に転居する可能性がある場合も、話の風向きが変わります。

「もうこの自治体には未来はない。改善されなければ数年のうちに引っ越ししよう」と考えているならば、ふるさと納税は有効といえます。

なぜなら、個人住民税の納税はその自治体への「投資」ともいえるものですが、自らへの恩恵が少ないのであれば、将来的に居住する可能性のある別の自治体に納税したほうが有利なはずです。

しかし、これはもう不満表明の範囲を超えているので、余談にとどまるところでしょう。

まとめ

「ふるさと納税」について、自治体政策への不同意を表明する手段という可能性から論じてみました。

もし返礼品論争がなければ、このような自治体選択の可能性からの議論がもっと成熟していたかもしれないと思うと、残念な気もします。

ちなみに、これらは考えがまとまったレポートではない、思案中のものをブログに載せたものです。

このような観点を抱いた人は当然ながら筆者だけではなく、例えば、総務省が有識者からヒヤリングした内容のとりまとめ(2017年4月)にも

税による投票。住民が自ら納める税に関心を持ち、場合によっては、住んでいる自治体に対して不満の意思を表明することができる。

という指摘が載っています。

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