電子納税証明書(納税証明書の電子ファイル)の利用実態について検討する記事です。
この記事は前後編で構成されています。さきに前編からお読みください。
前編のおさらい
前編では、次の内容を確認しました。
- 電子納税証明書は、e-Taxから請求し、電子納税すると取得できるXML形式のファイル
- 電子ファイルが原本であるため、書面に印刷しても証明書として利用できない
- 電子申請と相性がよいので、行政手続きの電子化が見込まれる中で今後注目されるかもしれない
- 電子納税証明書に関連する法令(国税通則法、国税オンライン化省令など)と国税庁告示の確認
- 電子納税証明書の交付請求件数は明らかではないが、おそらくほとんど利用されていない
納税証明書の受付区分(書面および電子)
ここからが後編です。
納税証明書はどのように使われているのかを、(1)書面と(2)電子ファイルに区分して、その利用実態をおおまかに分類します。
1.書面しか受け付けない場合
納税証明書の提出を求められる場合でも、書面しか受け付けていない手続きが、大半をしめています。
これは、国や地方行政で幅広く見受けられます。それはそのはずで、手続きそのものが書面での提出を前提としているからです。
国の行政手続きについて取りまとめた資料として、第30回規制改革推進会議(2018年4月)の資料「行政手続コスト削減に向けて(見直し結果と今後の方針)」が参考になります。
この資料中の「許認可手続におけるデジタル化の取組状況」を引用してみましょう。
各省庁のうち、もっとも手続件数の多い厚生労働省で「オンライン手続率0%」という、寒さを感じる結果となっています。
あくまでこれは一例ですが、オンライン手続率の低さを見れば、行政手続きの添付書類となりえる電子納税証明書が利用されないのも当然といえるでしょう。
2.電子納税証明書でもよい場合
次に、電子納税証明書が利用できる場合での、その提出方法をパターン別に分類してみます。
[1]:記録媒体で提出するもの
電子納税証明書が利用できる場合に多い例としては、その電子ファイルを記録媒体に移して、その記録媒体の実物を提出させるというものです。
これは書面の納税証明書が、記録媒体に置き換わったかたちといえます。
インターネットを検索してみると、一例として「建設工事等の経営審査」(千葉県)が見つかりますので、該当部分を引用してみましょう。
電子納税証明書を利用される方は事前に、納税証明データシート(注1)を印刷、電子納税証明書をダウンロードして記録媒体に保存してください。対応可能な記録媒体は、フロッピーディスク、CD-R、USBメモリーです。
電子納税証明書はフロッピーディスクや、CD-R、USBメモリで提出、と書かれています。
[2]:専用のメールアドレスにXMLファイルを送付するもの
上記[1]の変形パターンで、メールアドレス宛にファイルを添付送信することで、電子納税証明書を受け付ける方法が見られます。
これは信用金庫や信用組合を中心とした金融機関に多いパターンのようで、例えば「しずおか信用金庫」のホームページを見ると、次のようにメールアドレスの宛先が案内されています。
取得した電子納税証明書ファイルを電子メールに添付して当金庫へ送信するお客様はこちらへどうぞ
[3]:電子申請時にXMLファイルを添付できるもの
電子納税証明書を、電子申請の添付ファイルとして送信できるものも見受けられます。上記[2]を申請手続きベースに一本化したもので、本来的に望ましい方法といえます。
例としては、広島県の「測量・建設コンサルタント等業務の入札参加資格」(広島県)において、電子申請を前提とした手続きで、次のように書かれています。
「電子納税証明書(消費税及び地方消費税に係るもの)」の電子データを添付すれば、紙の納税証明書(消費税及び地方消費税に係るもの)は不要として取扱います。
また、会計事務所や金融機関のあいだで、決算書や税務のデータをやりとりできる「Zaimon」というサービスがあります。
このやりとりのなかでは、電子納税証明書が添付できるようです(筆者は使った経験はありません)。税務署への電子申告から、その後の金融機関への税務のデータ送信まで、すべてネット経由での一気通貫となっています。
「あしぎんe-Taxデータ受付サービス」(足利銀行)の案内を見てみると、次のように書かれています。
「あしぎんe-Taxデータ受付サービス」は、e-Tax(国税庁の国税電子申告・納税システム)をご利用いただいている法人・個人事業主のお客さまを対象に、電子申告された税務申告データや取得している電子納税証明書を電子申告データのまま、足利銀行に送付いただけるサービスです。
このサービスをご利用いただいたお客さまは、これまでのように足利銀行へ決算書類を紙ベースでご提出いただく事務負担が削減されます。本サービスは、当行が株式会社NTTデータと利用契約(含む守秘義務契約)を交わしたうえで、株式会社NTTデータの「財務情報流通ゲートウェイサービスZaimon TM」(以下「Zaimon」という)を使って提供するサービスです。
[4]:印刷して提出できるもの
電子納税証明書の印刷を許容する手続きは、探したかぎり見当たりませんでした。
電子納税証明書は印刷した場合、納税証明書としての役割を果たせないので、これは当然のことでしょう。
ただし、電子納税証明書を媒体に記録し、電子納税証明書を印刷したものと両方の提出を求めるパターンが見られました。
※電子納税証明書で提出する場合は、「データの入ったフロッピーディスク等」と「プリントアウトした納税証明データシート」の両方を提出して下さい。
北海道音更町(おとふけちょう)の建設工事等に関する資料提出より
問題はどこにあるのか?
電子納税証明書の取得が促進されない問題は、電子申請のシステムが整っていないことにあるといえるでしょう。書面手続きが前提になっているので、当然のことながら電子納税証明書も利用されないわけです。
逆にいえば、電子申請の手続きが各所で整っていけば、必然的に電子納税証明書も利用されていくと見ることができるでしょう。
国税庁の取り組みはどうなっているのか
調べてみると、国税庁の納税証明書のオンライン請求は、もともと「電子納税証明書」の請求を前提としたものだったようです。
しかし、電子納税証明書を受け入れる対象機関が少ないため、2008年1月からオンライン請求で書面の納税証明書が取得できるようにした、という記録が国税庁ホームページに見られます(国税庁「最近10年間の動き(平成11年7月~21年6月)」。
「当面の納税者の利便性向上策として」という表記があるものの、結局はオンライン請求でも書面交付の状態が定着してしまった、ということでしょう。(それを裏付けるように、前編で紹介した納税証明書のオンライン請求件数は、書面も含むものとなっています)
また、国税庁の取り組みとしては、交付促進に取り組む方針を掲げています。
税務専門家向けのデータベース「TAINS」で確認できる国税庁内部資料「全国国税局徴収部長会議資料」を見ると、「電子納税証明書の受入れ機関の拡大等」というトピックが見られます。この内容は毎年変わっておらず、形式的な印象もあります。
また、財務省の資料でも「電子納税証明書の受入れについて、地方公共団体及び金融機関等への働きかけを実施(継続)」という表記が見られます。(「オンライン手続の利便性向上に向けた改善取組計画の改定について」、2016年改定)
とはいえ、財務省や国税庁の努力で解決できる問題ではないことは、すでにご承知のとおりです。
行政手続きのデジタル化
ボトルネックとなっていた書面ベースの手続きについては、「デジタルガバメント」という名前でも語られるように、行政における手続きの電子化が見込まれています。
さきほども引用した資料「行政手続コスト削減に向けて(見直し結果と今後の方針)」(規制改革推進会議、2018年4月)を見ると、許認可について、書面提出が前提だった手続きをデジタル化へ切り替える動きがわかります。
デジタル化の進展にともない、電子納税証明書も徐々に利用されることが期待されるでしょう。
なお、地方公共団体の状況については、総務省の資料を探しても詳細なものは筆者の努力では見つけることができませんでした。
まとめ
書面が当たり前の納税証明書について、その電子ファイル版である「電子納税証明書」の情報を整理しました。
電子納税証明書については、体系的に網羅した資料がないようなので、その状況を整理するためにブログで読みやすいかたちで整理したものです。
筆者が調べ初めた時点では、実務にはまったく関係のない分野かと思われましたが、いま話題の行政手続きの電子化に関係している内容だとわかったので、税に関わる分野として調査しておきました。
まとめとしては、手続きが書面ベースの現在では利用されていないが、電子申請が基本になることで利用され始める可能性がある、という印象を持ちました。
しかし、地方公共団体あての申請は、その実態がわからない部分も多く、書面ベースの手続きも根強く残る可能性があるように感じます。