「セルフメディケーション税制」の申告者数は約2万人

平成29年分(2017年分)から始まった「セルフメディケーション税制」にスポットを当てる記事です。医療費控除の特例であるこの新制度について、申告人数を推計してみました。

【追記】この記事を投稿したあと、セルフメディケーション税制の適用者数がTabislandの記事に掲載されていることに気づきました。それによると、平成29年分の適用者数の集計は2.6万人とのことです。よって、この記事でセルフメディケーション税制の申告者数を推計する必要もなく、ふつうに実数が公開されていたことになります。この記事には検索除外タグをつけておきますが、以前に記事を参照した人がもう一度見にこられたときの訂正のため、記事はこのまま公開とします。(2019年5月31日)

説明のポイント

  • 還付を含むセルフメディケーション税制の申告者数(還付含む)は、およそ2万人程度
  • 医療費控除の申告者数665万人と比べると、使われていないのは明らか
  • まもなく2年目の結果も発表されるため、申告者数に注目

セルフメディケーション税制とは?

「医療費控除」という制度はよく知られていることでしょう。その医療費控除の「特例」として、平成29年分から新たに作られた制度が「セルフメディケーション税制」です。

セルフメディケーションという名前のとおり、「自分の身体を、自分でメンテナンスする」という意識を国民に訴えるための誘導政策で、税制による所得控除がもうけられました。

ひと頃には、ファイナンシャルプランナーが提供する記事を中心に、新しい所得控除としてちょっと話題となった印象でしたが、その後はあまり話を聞くこともなくなっています。

そこでこの記事では、「実際にどれぐらい申告されたのか?」という、あまり誰も興味がなさそうな点に注目してみます。

セルフメディケーション税制の所得控除

まず、本来の「医療費控除」についてのおさらいです。

医療費控除は、支出した医療費が10万円以上の場合に、その10万円を上回った金額が所得控除になる制度です。(所得が低い場合には、10万円のボーダーが下がることもある)

これに比べ、セルフメディケーション税制は、指定された医薬品の購入額が12,000円以上の場合に利用できます。12,000円を超えた部分の金額が、所得控除になります。

引用:セルフメディケーション税制制度概要(厚生労働省)

金額のハードルは低めですが、対象となる医薬品は「スイッチOTC医薬品」に限られます。

スイッチOTC医薬品は、例えば花粉症薬で有名な「アレグラ」など、医療機関でも使われる成分を含む医薬品が該当します。

どんな医薬品が対象になるのかなど、詳しい解説は厚生労働省のホームページにありますので、この税制が厚生労働省の主導で作られたことがわかります。(参考:平成28年度厚生労働省の税制改正要望)

セルフメディケーション税制の申告者数を推計する

次に、本題となるセルフメディケーション税制の申告者数について考えます。

国税庁の統計「申告所得税標本調査結果」によれば、平成29年分におけるセルフメディケーション税制の申告者数は、6,917人とされています。

これに対して、納税した全体の申告者数は6,412,916人ですので、セルフメディケーション税制を申告をした人は、全体のたった0.1%にすぎません。

この割合をみれば、まったく使われていない制度と断言できます。(だって、あの雑損控除と同じレベルですよ……)

還付申告した人も含めて申告者数を考える

注意点ですが、これは実際に申告したすべての人数が「6,917人」ということではありません。

この統計は標本調査ということもありますが、それ以外に注意すべきなのは、この人数は申告の時に納税をした人、ということです。(つまり還付申告は、この統計には含まれない)

セルフメディケーション税制の申告者数は、還付を申告した人も含めて把握したいところです。

しかし、還付申告をした人も含む全体は、国税庁の統計では公表されておらず、あくまで申告納税者に限った標本調査にとどまっています。

よって別のアプローチを試みる必要がありそうです。

還付申告を含むすべての申告者数は、国税庁の統計でも公表されており、その数は21,946,363人とされています。

これに先ほどの割合「約0.1%」を当てはめると、セルフメディケーション税制の申告者(還付申告を含む)は、「23,671人」と推計されます。

【追記】この記事を投稿したあと、セルフメディケーション税制の適用者数がTabislandの記事に掲載されていることに気づきました。それによると、平成29年分の適用者数の集計は2.6万人とのことです。

全申告者「23,671人」は少ない

この「23,671人という申告者数は多いのか?」という問いがあるとすれば、「まったく使われていないですね……」という答えをするしかないでしょう。

大人気の医療費控除は、665万人(総務省統計・平成30年度)が適用していることを考えれば、いかに少ないか実感できます。

医療費控除は10万円以上というハードルがあるのに、665万人が適用。かたや、1万2000円というハードルのセルフメディケーション税制は、2万人が適用……。

制度開始1年目で話題となったわりには、「肩すかし」の感もあります。

平成29年分の確定申告の時にはそこそこ話題となりましたが、その後に話を聞かなくなったのも、なんだか思ったよりも微妙な税制であることが実感されたためでしょう。

まとめ

一時期話題となったセルフメディケーション税制について、還付申告を含む申告者数を推計し、ついでに通常の医療費控除の申告者数と比較してみました。

推計による申告者の数は2万人程度で、ひらたくいえば「リキんだわりに、適用した割合が全体の0.1%って……」というレベルであり、発案の厚生労働省はどう受け止めているのか心配になります。

また、通常の医療費控除との比較で見ると、「医療費控除 665万 vs セルフメディケーション 2万」というものでした。

これからまもなくですが、平成30年分の確定申告の結果概要について、国税庁から発表があるはずです。(※納税した人だけの調査であることに留意)

セルフメディケーション税制の申告者数がどれぐらい増えているのか、その点にも注目です。もはやほとんど誰も注目していない制度と思われるので、地味にこの記事で注目をアピールしてみました。

平成30年分の結果発表を確認後、セルフメディケーション税制のよくない点を指摘する記事を当ブログで書く予定です。