国税庁e-Taxホームページは2019年9月17日、法人に関する届出がe-Taxソフト(WEB版)から可能になったことを発表しました。この点に関する実務の影響もあわせてお伝えします。
説明のポイント
- e-Taxソフト(WEB版)で、法人に関する届出書の提出ができるようになった
- 電子署名が必要
e-Taxソフト(WEB版)は中小企業向けの無料税務ソフト
当ブログでは、中小企業における効率化を支援する目的から、「e-Taxソフト(WEB版)」の活用をおすすめする記事を書いています。
「e-Taxソフト(WEB版)」とは、国税庁が提供する公式の税務ソフトです。ブラウザ画面から利用できて、利用料も無料です。
中小企業が必要とする税務は、このWEB版だけでOKです。
WEB版では小難しい内容はすべて省かれていますので、わかりやすい作りとなっています。難しい税務は、インストール版を使うか、税理士に依頼することを想定しているのでしょう。
法人の届出機能が新規追加された
国税庁e-Taxホームページによると、2019年9月17日、法人に関する届出が「e-Taxソフト(WEB版)」から可能になったとのことです。
これまで法人に関する届出は、WEB版ではできず、インストール版のe-Taxソフトを利用するしかありませんでした。
インストール版は利用のハードルがやや高く、専門家以外の場合は操作に迷う可能性もありました。このため、WEB版の機能拡張は好ましいことといえます。
また、地方税のeLTAXではWEBから異動届が提出できたのに、e-TaxではWEB提出に対応していませんでした。このため、eLTAXと同じレベルまで機能を引き上げた印象もあります。
どんな画面になっているか?
早速ですが、追加されたWEB版の画面を見てみましょう。
「申告・申請・納税」のメニューを選び、一番下の画面にいくと……
「法人設立及び異動手続きの申請・届出を行う」というメニューがありました。こちらが、今回新規追加されたものです。
上記画像の「?」マークを押すと、どんな手続きができるのかが表示されますので、転載しておきます。届出・申請のうち、重要なものを太字にしておきます。
- 法人設立届出
- 青色申告の承認申請
- 棚卸資産の評価方法の届出
- 減価償却資産の償却方法の届出
- 事前確定届出給与に関する届出
- 給与支払事務所等の開設等届出
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請
- 消費税の新設法人に該当する旨の届出
- 有価証券の一単位当たりの帳簿価額の算出方法の届出
- 申告期限の延長の特例の申請
- 消費税課税事業者選択届出
- 消費税簡易課税制度選択届出
- 消費税課税期間特例選択・変更届出
- 外国普通法人となった旨の届出
- 消費税の特定新規設立法人に該当する旨の届出
- 消費税異動届出
- 事業年度の届出(会計期間の定めがない法人が会計期間を定めた場合)
- 事業年度等を変更した場合等の届出(資本金額等の異動、商号の変更、代表者の変更、事業目的の変更、会社の合併、会社の分割による事業の譲渡若しくは譲受け、会社の解散・清算結了、支店、工場等の異動等を含む。)
- 納税地の異動の届出
- 収益事業開始届出(外国法人である公益法人等又は人格のない社団等)
- 収益事業開始届出(内国法人である公益法人等又は人格のない社団等)
これらを見た感じでは、法人の新規設立に関するもの以外に、消費税に関する届出や、納税地の異動届も可能です。
ただし、消費税の課税事業者に該当した場合に提出する「課税事業者届出書」は対応していないようです。
届出書の選択画面は、次のようになっています。
少しゴチャゴチャしている印象もありますが、対応している帳票が多いことや、添付書類も可能なためにやむを得ないのでしょう。
実務に与える影響の分析
WEB版の機能追加による、実務に与える影響を分析します。
まず重要な点ですが、これらの届出をするためには、電子署名が必要です。
e-Taxソフトを利用するためのID(利用者識別番号)については、本人確認がなされていないので、送信時に電子署名をする必要があります。(電子署名が不要とされている手続きは、源泉所得税の納税のみ)
そうなると、法人自身で電子署名するためには、無料で入手できる社長のマイナンバーカードか、有料(1年間で7,900円)で取得する商業登記電子証明書が必要です。
電子署名が必要という点をふまえると、ハードルとしては少し高くなってしまう印象があります。
法人において効率化が図れそうな届出としては、
- 事前確定届出給与に関する届出
があります。役員賞与を支給する場合は、毎年提出するものです。
この届出は、会計事務所によらず、会社で記入して提出している場合もあるでしょう。これが紙ベースではなく、WEBで提出できるのはメリットです。(ただし、電子署名がネック)
一方、消費税の届出のように、1回届出すれば永続的に効果を発揮する届出書は、会計事務所に委託してもよいでしょう。
このほか、法人の新規設立に関する届出も、WEBからできるようになったのでメリットに見えます。
しかし将来的には、マイナポータル経由で設立時に必要な書類が一括提出できるとされていますので、WEB版を活用する可能性は低いかもしれません。(どれぐらいの書類が一括提出できるかは不明)
注意点としては、この機能に対応しているのは法人のみです。個人事業主はWEB版では非対応とされています。
個人事業主でも、消費税関係の届出をWEB上でできるようにしてほしい、という要望が一定数あるようですが、残念ながらこの機能では対応できないことになります。
まとめ
e-Taxソフト(WEB版)に、新機能として法人の届出が追加されたので、その内容のチェックと実務への影響をお伝えしました。
こうしてみると、やはり電子署名の面がややネックになっているように感じます。
法人の届出については、基本的に会計事務所に委託していることも多く、実務に与える影響はあまりなさそうです。
一方、会計事務所に顧問を依頼していない法人では、利用しやすい機能が追加されたといえるでしょう。
むしろ個人事業主のほうが、消費税の届出でニーズがあるように感じますが、なぜ対応しなかったのかは不思議です。