支払調書が自動転記できても、報酬の調書はそのまま使えるか?という問題

確定申告を楽にするために、各種の資料を自動転記できるようにする方針があるようです。個人事業主ならおなじみの「支払調書」も範囲に含まれるかもしれませんが、この点の不安感を述べておきます。

説明のポイント

  • 確定申告書へ各種の資料を自動転記できる機能が提供される予定
  • 支払調書もその対象になっているが、報酬等の支払調書についてはあやふやな面もある
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確定申告と資料データの自動入力

政府税調に提出された財務省の資料を読むと、確定申告を楽にするために、各種のデータをマイナポータルに集約する方向性が描かれているようです。

具体的には、公的年金の源泉徴収票、医療費、ふるさと納税の証明書、住宅ローン控除の証明書、証券取引の報告書、保険料控除証明書などが挙げられています。

マイナポータルに集められた情報は、確定申告書の作成システムにおいて自動で転記されるしくみのようです。

引用第24回税制調査会(2019年8月27日)資料

ちなみに外国では、収集したデータをあらかじめ申告書に記入しておいてくれる「記入済み申告書」というしくみがあるそうです。

日本でも外国の例にならって、各種データを自動転記できるようにするということでしょう。

国税庁の確定申告書用作成ソフトである「確定申告書等作成コーナー」での自動転記は、2021年1月から実現予定とされています。

ここで少し気になるのが、「支払調書」についても連携させるという方向性が示されていることです。

ひとくちに「支払調書」といっても、その種類は多種多様です。

国税庁のタックスアンサー「No.7401 法定調書の種類」によれば、法定調書の数は60種類とされています。

多くの支払調書も中に含まれており、例えば個人事業主にはおなじみの「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」もあります。

税理士会も賛成の提言をしている

支払調書を申告書データに連携させるという方向性については、日本税理士会連合会も賛成しているようです。

令和2年度の税制改正に関する建議書を読むと、次のように書かれています。

本人が受け取った収入を把握することは正確な税務申告に不可欠であり、また、その情報を申告データに連動させることができれば、申告作業は効率的なものとなる。事業者の事務負担に配慮しつつ、電子的な手続として、支払調書等の情報が本人に提供される仕組みを構築すべきである。(P.20)

先ほども述べたとおり、支払調書とひとくちにいっても多数あるので、どの支払調書を自動連携させるのかは、まだよくわかりません。

ところで、確定申告の実務で一般にいわれる「支払調書」とは、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を指すことが多いです。

そして、支払調書のデータを自動連携できるようになる、という話が出るならば、当然のことながら、「個人事業主の申告が楽になる!」とか「副業の雑所得も計上しやすくなる」というイメージも持たれやすいように思います。

しかし、この点については結構微妙では……と感じる面もあります。

報酬等の支払調書は、統一的なルールで作成されていない

税務に携わる人であればご存じでしょうが、報酬等の支払調書に記載された金額は、統一的なルールとなっていません。

具体的にいえば、報酬等の支払調書は「支払った期間」が基準で作成されていることが多いと思われます。

言い直すならば、発生時点ではなく、支払時点が基準になっているということです。

この点について先に言及されている、他の税理士のブログ記事にリンクしておきます。

この点で問題になるのは、いったいどんなことでしょうか?

まず、支払調書をそのまま用いて売上とすると、いわゆる現金主義の処理となってしまい、売上が発生した時点とのあいだにズレが生じる可能性があります。

では、そうならないように発生時点に重きを置いた支払調書を作成すれば、源泉所得税の「内書き」の欄を利用した場合に、その調書を受け取った側の実務が非常に煩雑となる恐れもあります。(下の画像を参照。支払調書の内書き欄と、所得税の確定申告書で対応する欄)

これらを考慮すると、かなり複雑な問題です。筆者としては、このもやっとした点を解決しないままに、報酬等の支払調書を連携させるのは難点があるようも感じるわけです。

とはいえ、先ほども述べたとおり「支払調書」といっても多数あります。

報酬等の支払調書は連携させず、その他の統一的なルールが運用されていそうなものから連携していく、ということはありえるでしょう。

まとめ

確定申告書の作成における支払調書の自動転記に関連して、報酬等の支払調書が抱える不安定な部分を考えてみました。

ここで述べたのは、「面倒くさいことになるから見て見ぬ振り」をされてきた部分のように感じます。

ところが支払調書の自動連携という話が出てきたことで、なんらかの対応が必要かもしれない、というわけです。

ところで、支払調書に記載したマイナンバーをもとに、e-Taxで送信されたデータをそのままマイナポータルに届けるというしくみも、いずれはできるのでしょう。

そうなると、法定調書を紙で提出できる枚数の制限もどんどん引き下げられる、という将来像も予想できそうです。

参考:国税庁タックスアンサー「No.7455 法定調書の提出枚数が100枚以上の場合のe-Tax又は光ディスク等による提出義務

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