社宅の賃貸料相当額はどのように計算すべきか、実務家の間ではスッキリしない悩みがありましたが、「税務通信」3816号(2024年9月2日)の取材記事で、この疑問はほぼ決着したといってよさそうです。
「固定資産税の課税標準額」とは
社宅の賃貸料相当額は、所得税基本通達をもとに計算しているところ、その通達に書かれている「固定資産税の課税標準額」の意味をどう捉えるか、実務家のあいだで意見が別れていました。
国税庁の質疑応答事例では、
固定資産税の課税標準額は、賦課期日(1月1日)における固定資産の価格として固定資産課税台帳に登録されているものをいいます。
とあるのですが、その肝心の「台帳に登録されているもの」が、固定資産税の住宅用地特例の「適用前」と「適用後」のどちらなのか、この質疑応答事例でははっきり書かれておらず、税理士のあいだでも意見が分かれていました。
ブログ筆者も気になって数年前に調べたところ、ネット上の税理士による意見は「適用前」「適用後」で、おおむね半々に分かれている印象を持ちました。
この点について、通達の逐条解説(令和3年度版)に言及はありませんでしたが、現物給与について最も詳細な書籍であろう、冨永賢一『源泉所得税 現物給与をめぐる税務 令和4年版』や、吉田行雄・岡本勝秀・杉尾充茂編著『令和4年度版 源泉所得税相談事例集』では「適用後」とする見解が示されていました。これらはいずれも、国税庁で源泉所得税の審理を担当された国税OBの書籍です。
そして、「税務通信」3816号(2024年9月2日)は、「適用後」とする取材記事を掲載しました。計算に用いるのは、「適用後」でほぼ決着がついたものと考えてよさそうです。
社会保険は……?
特例の「適用後」で計算できるので、賃貸料相当額は低めに算出できることになります。ただし、個人的には微妙な気持ちもあります。
というのは、賃貸料相当額をギリギリに寄せて徴収額を決めたいと考えても、実際には社会保険における現物給与の影響もあるためです。
社会保険の現物給与は都道府県ごとに一律で、税金の賃貸料相当額と比較するとかなり大雑把です。
都心でも都外でも、都内の企業であれば同じ金額なので、郊外に行くほど実際の家賃と比較して社会保険における現物給与の負担は相対的に高くなります。都内の企業ならば、1畳あたりの現物給与は同じだからです。例えば会社が東京都にあり、社宅が埼玉県の場合、現物給与は東京都の基準で計算します。
社会保険の現物給与は「1人1月当たりの住宅の利益の額(畳一畳につき)」について、東京都は2,830円(令和7年)です。都内の企業で、郊外の借り上げ社宅だと、賃貸料相当額は低いのに、社会保険の現物給与はそれなりの金額……ということもあります。
50%は「節税努力が足りない」?
実務上の処理として、賃貸料相当額を詳細に検討すると手間がかかるので、支払家賃の50%を徴収していることもあると思われます。
しかし、この50%とする方法については、「賃貸料相当額はもっと低く計算できる」「節税の努力が足りない」などという批判を目にすることもありました。
出回っている「節税本」でも、「固定資産税の課税標準額」をもとに賃貸料相当額を計算する方法を説明していることが多いようです。
ちょっと気になるのは、賃貸料相当額を「固定資産税の課税標準額」をもとにギリギリに設定して個人負担の徴収額を決めるとしても、それは社会保険の現物給与も考慮されているのだろうか、という点です。
直接意図したものではないとしても、50%とする方法は、税金上の簡便な処理としてだけでなく、社会保険の現物給与の安全圏も考慮した方法だった…… ともいえるのかもしれません。
もちろん、両方とも厳密に詰めて計算できるなら、その方法でもよいのでしょう。また、賃貸料相当額のギリギリに寄せて税金上の現物給与がないとしても、社会保険の現物給与だけがあるならば、その部分を標準報酬月額の計算に加味することでも問題ないでしょう。
ブログ筆者は社労士資格を持っていないので、この点に言及するのも筋違いのようにも思われますが、ちょっと気になったこととしてブログに残しておくことにします。
税金上の社宅の賃貸料相当額と社会保険の1畳あたりの現物給与を比較して、どれぐらいの違いとばらつきがあるのか、筆者も日本各地で検証したわけではないので、他の意見を否定するものではありません。
なお、過去に調べた限りですが、社宅について税金上の賃貸料相当額と、社会保険上の現物給与の両方に言及している「節税本」は、電子書籍で1冊のみでした。