電子納税はなぜ普及が進まないのか【2】会計事務所の事情とケーススタディ

法人の確定申告については電子申告が進んでいるのに、電子納税はなぜさほど普及しないのか……?

前回の記事で、その原因のひとつには、会計事務所と会社の役割分担に問題があるのでは、という分析があることを紹介しました。

その分析を受けて、今回は想定例をもとに、ケーススタディとして考えてみます。

説明のポイント

  • 電子納税が広まりづらい要因を、ケーススタディをもとに、5つに整理している
  • 要因は複合的であり、会計事務所の置かれた状況も、電子納税が広まらない要因の一つになっている
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ケーススタディ

早速ですが、想定例を紹介します。まずはこちらをご一読ください。

会計事務所に勤務するAさんは、以前に先輩が担当していた顧問先を新たに担当することになりました。

Aさんは顧問先の会社を訪問し、経理担当であるYさんと話をしていると、次のような相談を受けました。

Yさん「うちの会社から銀行まではけっこう距離があるんですよ。毎月の納付では、銀行の窓口に並ぶ必要があるのですが、いつも混んでいて困るんですよね」

そこでAさんは、「源泉所得税をインターネットで納付することができますよ。これなら、銀行にいく必要はないですよ。ご興味があれば、御社で対応できるように準備しますね」と回答しました。

職員Aさんの準備1(マニュアルづくり)

経理のYさんも電子納税に興味を持ってくれたので、職員Aさんは事務所に戻り、e-Taxで納付するためにはどうしたらいいか? を調べることにしました。

Aさんの事務所では、大手ソフト会社の提供する会計税務ソフトを使っていますが、このソフトはインストール型なので、これをそのままYさんの会社に持って行くことはできません。

そこで、国税庁の公式ソフト「e-Taxソフト」を使うことにしました。これなら、会社の経理も無料で利用できます。

Aさんが気になったのは、「e-Taxソフトを利用し、源泉所得税を納付するという操作」は、Yさんにとって不慣れである、ということです。

Yさんは紙の納付書への記入は毎月していますが、これをパソコンで同じ事をするというのは、これまでの経験がないために、難しいものになります。

こうした事情から、e-Taxソフトの操作が簡単にできるよう、Aさんは自作のe-Tax納付マニュアルを作ることにしました。

しかし、Aさん自身も、じつはe-Taxソフトの操作をしたことがありません。それはそのはず、Aさんは大手ソフト会社の税務ソフトしか触ったことがないからです。

このため、マニュアルづくりも、e-Taxソフトの操作経験にとぼしい中で、悩みながらつくる必要がありました。

職員Aさんの準備2(e-TaxのIDと暗証番号)

ようやくマニュアルの準備が整いました。次に準備するのは、会社のe-Taxの利用者識別番号(ID)と暗証番号です。

Aさんの会計事務所は電子申告を推進していますので、法人税の申告はすでに電子申告に対応済みです。

しかし、会社の利用者識別番号(ID)と暗証番号は、会計事務所の内部で厳重に管理されているため、一般の職員には知らされていません。このため、Aさんは事務所の所長に相談し、会社のe-Taxの利用者識別番号(ID)と暗証番号を教えてもらいました。

これでようやく準備が整いました。Aさんは、マニュアルとe-TaxのID・暗証番号の用意を調え、経理担当のYさんに指導し、めでたく電子納税をできるようになりました。

その後どうなったか……?

電子納税ができるようになったので、これでハッピーエンドかというと、そうではありません。

その後の電子納税は順調でしたが、数ヶ月後、Yさんから次のような質問を受けました。

「Aさん、どうも電子納税がうまくいかないのですが、どうしたらいいでしょうか?」

電話で相談を受けても、実際の現場を見ないとよくわからない状況です。Yさんはパソコン操作の知識はあまりないので、画面共有なども難しいです。

しかたないので、Aさんは、来月の訪問時に再確認することを約束し、今月は紙の納付書で納付してもらうことにしました。

経理担当のYさんは、「気にしないでください、どのみち住民税の納税もあるので、あとで銀行に行きますので」といいました。

(ここまで)

この例から何がわかるか?

会計事務所の担当者が、顧問先の会社に電子納税を導入するまでのストーリーを想定例として書いてみました。

この例は、実際に筆者が勤務していたときに経験した話をもとにしています。時期は2014年ごろのため、少し現在と状況が違っている部分がありますが、話として参考になるため、そのままとしました。

なお、税理士法に抵触しないよう、一般的な内容に置き換えています。

このストーリーをもとに、ケーススタディとしてどのようなことがわかるかを、5つのポイントで整理します。

ポイント1.「e-Taxソフトを利用し、源泉所得税を納付するという操作」は、会社の経理担当にとって不慣れである

もっとも抵抗感があるのは、紙の納付書を記入するというサイクルを、わざわざ「e-Taxソフト」を利用する方法に変更する、という手間です。

人間だれしも、いままで繰り返してきた手順を変えることには、負担感を覚えるものです。

電子納税を推進するのであれば、心理的な不安感を解決するため、会計事務所からの手厚いサポートが必要です。

想定例でも書いたとおり、導入したあとも経理のYさんからは会計事務所職員のAさんに対して、納付方法の問い合わせがありました。

もし会計事務所が主導して電子納税を導入すれば、そのe-Taxのサポート業務までも会計事務所の職員が担うことになります。

会計事務所の職員は、通常多数の顧問先を抱えており、そのうえに電子納税の導入を提案することは、仕事の負担感を増やすことにつながります。そう考えれば、職員の忌避感も強いものがあるでしょう。

ポイント2.会計事務所の職員は、e-Taxソフトの操作をしたことがない

この想定例のなかでとくに強調したいのは、会計事務所の職員は、国税庁公式ソフトである「e-Taxソフト」の操作経験にとぼしいのではないか、ということです。

ふだんの会計事務所の内部では、大手ソフト会社製の税務ソフトを触るだけで業務は完結します。よって、一般の職員が「e-Taxソフト」を操作する機会は少ないと思われます。

ところが、会社が電子納税を導入しようとすると、そこで利用する候補に挙がる税務ソフトは「e-Taxソフト」のはずです。

 

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つまり、会計事務所の職員は、自分がほとんど操作したことのないものを、会社の経理担当に教えなければならない……という状況に陥ります。

よくわからないものを教えるというのは、非常にプレッシャーのかかるものです。このことが、電子納税の導入が会計事務所主導になりづらい一因と推測されます。

なお、「e-Taxソフト」については、インストール不要の「WEB版」が用意されています。WEB版であれば、導入の手間は低くなります。

また、この想定例では、担当者がマニュアルを自作するストーリーにしていますが、東京国税局のホームページでは、e-Taxソフト(WEB版)を利用した源泉所得税の納付マニュアルが用意されています。これを見れば、マニュアル作成は不要です。

財務省や国税庁は「電子納税を広めたい」と思っているのであれば、こうしたマニュアルがあることをもっと広報したほうがよいでしょう。

ポイント3.会社の利用者識別番号(ID)と暗証番号は、会計事務所の内部だけで厳重に管理されている

次に強調したいのは、会社のe-Taxの利用者識別番号と暗証番号は、会計事務所だけで保管されていることが多いということです。

以前の記事で紹介したとおり、代理申告における法人税申告も、そのほとんどが電子申告とされています。これは、会社における税理士の関与率が高いためと分析されています。

しかし、税理士が主導して「代理申告で電子申告を行っていく」ということで電子申告を推進してきた結果、これは同時に会社内部における税務の電子申告・電子納税化を置き去りにする副作用をもたらしました。

これはつまり、会社に代わって会計事務所が、会社のe-TaxのIDを代理取得・代理利用する手続きが推進された結果、その代理取得されたIDは会計事務所の内部だけで利用され、会社には共有されていない、ということです。

会計事務所は、会計事務所からの承諾をもとに、代理でe-Taxの利用者識別番号を取得しているはずです。

しかし、その取得した利用者識別番号を、「本来の所有者」である会社に対して共有しているでしょうか? 恐らく共有していないケースも多いと思われます。

実際、解約時に多いトラブルとして、e-Taxの「利用者識別番号」が知らされないままに次の会計事務所に依頼せざるをえない……という事例を耳にします。

この話も、会社の「代理」で取得したはずの利用者識別番号が、会社には知らされていないまま会計事務所で独占されている……という状況とぴったり符合します。

すなわち、e-Taxの利用者識別番号は会計事務所の内部だけで利用されており、会社はその利用者識別番号を電子納税に利用できることも知らず、そのまま紙の納付書で銀行の窓口に行く、という状況が予想されるわけです。

代理申告の法人税電子申告率が高いのに、電子納税の利用率が極端に低い理由は、これで説明がつくでしょう。

ポイント4.国税は電子納税できても、地方税は電子納税に対応していなかった

4つめのポイントは、地方税はほとんどの自治体が電子納税に長らく対応していなかった、という状況が、こんにちの電子納税の利用率の低さに影響しているということです。

これは多数の分析ですでに指摘されていることですので、ここで改めて述べる必要はないでしょう。

なお、2019年10月に「地方税共通納税システム」が導入され、すべての地方自治体が電子納税に対応しました。電子申告にともなう納税と、従業員の個人住民税の特別徴収は、電子納税に対応しています。

ポイント5.インターネットバンキングになじみがない

今回の事例ではインターネットバンキングについて触れませんでしたが、この点についても書いておきます。

インターネットバンキングの利用率の低さが、電子納税にも影響を与えているという分析があるようです。

一方、電子納税では「ダイレクト納付」というしくみがありますが、この方法であれば、インターネットバンキングを利用していなくても、電子納税は可能です。また、会計事務所の代行納付も可能となります。

こうした「ダイレクト納付」のしくみがすでに整っているにもかかわらず、いまだに電子納税の利用率が低いのは、前回の記事のとおり、会計事務所が納付に関与することが少ない状況が影響していると思われます。

また、すでに「ダイレクト納付」を申請・利用しているとしても、それを実際に使って電子納税しているのは会計事務所が代理申告から納税まで担うケース(通常は決算後の納税のみ)に限られており、会社が役割を担う源泉所得税のような納付は、その範囲に含まれないこともあるでしょう。

話を整理すると、インターネットバンキングの利用率が低いことは、電子納税の利用に関心を持ちづらい一因になるとしても、その直接の原因ではないということです。

ただし、直接の原因ではないにせよ、インターネットバンキングへの忌避感があれば、それは電子納税への忌避感にも連動することでしょう。振込をインターネットで処理していなければ、納税をインターネットで行うことも期待できないからです。

まとめ

ここまで、ケーススタディをもとに電子納税が広まらない理由を、多角的に分析してきました。

  • 「e-Taxソフトを利用し、源泉所得税を納付するという操作」は、会社の経理担当にとって不慣れである
  • 会計事務所の職員は、e-Taxソフトの操作をしたことがない
  • 会社の利用者識別番号(ID)と暗証番号は、会計事務所の内部だけで厳重に管理されている
  • 国税は電子納税できても、地方税は電子納税に対応していなかった
  • インターネットバンキングになじみがない

その原因は複合的です。どれか一つだけが原因というものではありません。

これは実際、地方税が電子納税に対応したあとでも、状況が劇的に変わらないことを見ればわかるとおりです。

また、この記事では会計事務所が電子納税導入の主体になりづらい要因も説明しました。

筆者もかつて会計事務所に勤務していた時期がありますので、阻害要因となりやすい実情はよく理解できます。

では、電子納税を推進するためには、どのような施策をとればいいのか? 次の更新では、その解決案を挙げてみたいと考えております。